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13話 鬼ごっこ

お久しぶりです。


約1年ぶりな目目連です。いや、いろいろありまして、ある意味凍結中でしたね。


これから解凍して行く予定であります。


それでは本編をどうぞ!!

ーーーーーーー





「ニシシシッ。ほらほら捕まえてごらんよー」


劉璋が笑いながら城の廊下を駆ける。その後ろには鬼の形相をした文武官たちが迫っていた。








「改めまして。既にご存知の方もいますけど僕は劉璋、字は季玉。元は州牧してましたけど、劉備さんに譲りました。今はただの文官ですから気軽に柳々りゅうりゅうと呼んでもらってかまいませんよー」


劉璋が玉座の前で軽快に自己紹介をする。集まっているのは劉備軍の面々と元から益州に居た諸侯たちだった。


明らかに誰一人として歓迎ムードではないため気まずい空気なのはまる分かりだった。


「ニシシシッ。何やら不満気な方が多いですねー」


しかし柳に風の如く、さして気にしていない劉璋。そのような空気は劉璋が州牧の席に座っていた時から何も変わっていなかった。劉璋にとってはそれは日常と変わらないのだ。


「ねぇ、法正ちゃん?」


そしてこれも変わらず、法正を弄る劉璋であった。


「今は同じただの文官なんだし仲良くしましょうよー」


「み、皆。劉璋さんは心を改めてこれからは真面目にやっていくんだからそんなに邪険にしたら可哀想だよ」


場の空気を変えようと劉備が努めて明るい声を出す。そのお陰で少し場の空気が柔らかくなる。


「劉備ちゃん、硬いですよー。柳々で良いって言ったじゃないですかー」


「あ、そうだよね。分かったよ、柳々さん。私も桃香でいいからね」


「はいはーい、桃香さん」


これにより劉備軍の面々が大分柔らかくなる。だが、爆弾を落とすものが一人。


「あ、それと別に僕は真面目になるなんて一言も言ってないですよ?」


「へ?」


「いやいや。州牧だったからね、あれでも抑えてたんだよねー」


心底楽しそうに笑う劉璋。それにより場の空気は始めより更に悪くなる。


「柳々さん、どうしてそんなこと…………」


「ーーーーー不満があるなら言えばいいじゃんか」


劉備がたしなめようとするとそれを遮り、劉璋が言い放つ。


「僕はもう州牧じゃないんだし、不満があるなら遠慮無しに言えば?気に入らないなら叩きのめせばいいよー」


『ッ!?』


「ほう………なるほどなぁ。劉璋の坊主も中々に考えおるわい」


「桔梗?何を言っているの?」


事の成り行きを見るため離れていた厳顔が呟くと隣の黄忠が聞き返す。


「奴はああやって今までのことを精算するつもりじゃろ。鬱憤なんてものは一度吐き出してしまった方がいいもんじゃ」


「ああ。そう言うことね。どうやら他の娘たちも気づいたみたいね」


劉備軍の軍師二人は先程までハラハラとしていたが今は二人で何やら話し合っていた。


そして場の全員が次の劉璋の言葉を待っていた。






「と言うわけで!これから城全域で鬼ごっこをしますッ!!」






『はいぃぃぃ!?』


「難しいことは何もないです。僕が逃げるので皆さんが捕まえて下さい」


「ちょ、ちょっと待て!何故我々がそんなことをしなければいけないのだ」


劉璋に全員を代表して関羽が言う。


「相変わらず頭が硬いですよー、関羽さん。親睦会だと思って下さい」


劉璋はそう言うとイヤらしく笑う。


「それとも一兵卒並の僕を捕まえる自信がないのですか?」


「ッ!?」


武官たちの空気が変わる。


「とは言え何か旨みがないことにはヤル気が出ませんよね。そうですね………ではこうしましょうか。僕を捕まえた人にはご褒美として僕が1年間お仕事を肩代わりしてあげますよ」


これには全員が目の色を変える。


「さて、どうやらヤル気になったところで始めましょうか」


そしてそれらを余裕の表情で見る。


「ではでは。皆さん、必死になって下さいねー」


そう言うと玉座の床を一つを踏み抜く。すると劉璋の立っていた床が抜けて、劉璋が消える。


「言っておきますけど、絡繰は玉座にだけあるわけじゃないですからね」


いつの間にか玉座の入口に立っていた劉璋が笑う。


「終了の刻限は今日1日。さぁ張り切ってまいりましょう!!」


そう言うと一目散に逃げていった。





劉璋の後を追って玉座から粗方の人が居なくなり残ったのは劉備と軍師の二人と黄忠、厳顔だけだった。


「失礼。劉璋はここに居るか?」


そこに張任がやって来た。


「あれ?確かここに居るって聞いたんだが……」


「劉璋なら今しがた出ていったぞ。どうかしたのか?」


「いや、アイツの分の仕事を持って来たんだが……。入れ違いになったか。とりあえず部屋にでも行ってみるか」


「劉璋なら城中を逃げとるぞ」


「は?」


訳の分からない顔をした張任に厳顔が今までの経緯を説明する。


「マジかよ………」


「劉璋の坊主も色々考えておるのじゃな」


「いやいや厳顔。お前まだアイツのことを分かってないのかよ」


「うん?どういうことじゃ?」


「アレはそんなやつじゃねえよ。確実にそれは今日の仕事から逃げるための口実だろう」


『…………………』


「おいおい。マジで今気づいたのかよ。いいか、アイツが真面目に仕事をするわけがない。その為ならあらゆる手段でサボる。最もらし言い訳を使ってな」


長年劉璋と共に居た張任だからこそ劉璋が逃げる前に仕事を持ってきたのだがそれを先読みされて逃げられてしまった。


張任が劉璋を理解してるように劉璋もまた張任の行動を理解していたのであった。


「アイツの提案には必ず裏があると思った方がいいぜ。これからアイツを使っていくなら心しといた方がいいぜ。アイツ、自重しないからな」


張任は肩を竦めながら言う。


「もしアイツが何かを提案したならまずはその逆を見たほうがいいぜ。例えば………」


と玉座の間を見渡す張任は一つの壷でその視線を止めた。


「アイツが外に逃げたなら大方まだこの中に居るぜ。例えばその壷とかな」


「ニシシシッ。流石は張任ですねー。よく分かってますねー」


すると壷から劉璋が顔を出す。


「前々から言ってますけど、他人の言葉なんて信用してはいけませんよー。特に僕の言葉は半分は嘘で残り半分はその場のノリで言ってますからね」


劉璋はニシシシッと笑って壺から出てくる。


「劉備さん、貴女のその性格は美徳でもありますが欠点でもあるのですよー」


劉璋は劉備へと笑顔を向ける。それはどこか作り物めいたものだった。


「もし、劉備さんが望むなら僕が他人との付き合い方をお教えしますよー」


へらへらと笑う劉璋。


「先ずは笑顔です。口角を上げる、目尻を下げる、声の調子を上げる、そしてーーーーー」


「おい、劉璋。そのくらいにしとけよ」


張任が劉璋を止める。


「お前、何するつもりだよ?」


「ニシシシッ。いやいや張任、別に他意はないよ。僕はただの善意での助言ですよー」


「嘘吐け。劉備さん、コイツの言葉を信用しない方がいいぜ。てか、コイツの話は聞き流した方がいい」


「おやおや?張任は僕のことが嫌いなのですか?」


「当たり前だろ。腐れ縁じゃなきゃ近寄りもしねぇよ」


「またまたー。照れ隠しですね、分かります」


「言ってろ」


へらへらと笑う劉璋に不機嫌そうに口を曲げる張任。


「さてと、僕はそろそろ行きますね」


「あぁ、そうだ劉璋。一つお前に言っとくことがあるんだが……」


「愛の告白とか・・・・・・マジ勘弁」


「しねぇよ!?」


二人の後ろで蜀の頭脳がなにやら騒がしくなっていたが、それはさておいて。


「まぁ、俺もお前とも付き合いが長いからよ。お前ほどじゃねぇけど、場をかき乱すくらいはできるんだぜ?」


「うん?」


今度は張任がニヤリと笑う。とそこに玉座の扉が乱暴に開く。


「劉璋ぉぉ!!貴様、謀ったな!?」


「げ、関羽!?」


そこには劉璋を追っていた者たちが居たのだった。


「劉璋!貴様というやつは正々堂々とできぬのか!?」


「セーセードードー?何それ美味しいの?」


「ッ!?」


「ニシシシッ。ではでは正々堂々、卑怯に、小賢しく、行きましょうか」


そう言うと劉璋は懐から筒を取り出すと床に擦りつける。するとそこから煙が噴出し、一瞬で部屋全体を覆う。


――――ニシシシ。それでは第二戦目と行きましょう。










「よぉ」


「やぁ」


真夜中。劉璋と張任が向き合う。そこには小さな灯りが一つだけ灯っていた。


「随分とえげつない方法で逃げ切ったみたいだな」


「いやいや、あの程度序の口だよねー」


「序の口って……。聞いたぜ。肥溜めに逃げ込むだの、城壁の上から飛び降りただの、女湯に堂々と入り込んだだの、やり放題だったらしいな」


「そうですかー?まぁ、女湯に入ったら男連中が大義名分を得たようにここぞとばかりに追ってきましたけどねー」


劉璋は懐から徳利と杯を取り出すと張任にそれらを渡す。それを受け取ると手酌で徳利の中身を注ぐ。徳利を劉璋に返すと同じように劉璋も手酌で自分の杯を満たす。


「まぁ、結構楽しかったですよー。張任も参加すれば良かったじゃないですかー」


「俺まで参加したら今日の仕事が滞るだろうが。ったくよ」


くいっと杯の中身を流し込む張任。それを見終わると劉璋も同じように流し込む。


「大丈夫ですよー誰もやらなくても世の中は何事もなく回るものですよ」


「そりゃ回るだろうよ。てか、他の誰かが回してんだよ」


「正直者は馬鹿を見る、と言いますよねー」


「うるせぇ。俺はこうなんだよ」


「そうだよねー。張任は昔からそうだよね」


「お前は昔からそんなんだよな」


にやにやと笑う劉璋とムスッとした顔の張任。


「てか、お前はここで何をやってんだよ?」


「うん?高みの見物?」


劉璋たちが先ほどから喋っている場所は城の天辺。屋根の上であった。


「なぁ、お前はこれからどうするつもりなんだ?」


「うん?そりゃ今まで通り、さ」


空になった杯を手の中で転がす劉璋。


「―――本音を言えよ。劉璋としてでなく『お前自身』としての」


「…………ニシシシ。僕自身?劉璋としてでなく、そして――――『柳々でもなく』、かな」


笑みの形に固定された表情の劉璋。


「一つ、確認しておくけどキミは後悔しているのかい?全てを投げ捨てて『別の自分』になったことを・・・・・・」


「それはない。『アレ』はお前が提案したことだが、俺が決断したことだ。それを後悔することは何があろうとしちゃいけねぇんだ」


「なら、それでいいじゃないですかー。『僕』は『劉璋』で『キミ』は『張任』。ただそれだけが真実なのですから」


「………そうだよな。すまん、忘れてくれ」


「ニシシシッ。さぁ、明日から忙しくなりますよー」


「そうだな。新しく劉備さんが王になったんだ。たぶん反発するやつはいるだろうからな」


「ん?何を言っているのですかー?明日から本格的に僕がサボり出すからその対応に張任が追われるってことですよー」


「テメェは少しは真面目に仕事をしやがれ!?」


「ニシシシッ。それこそ『僕』ではないじゃないですかー。僕はいつ如何なる時でもサボり、怠け、怠惰に過ごすことに全力を注ぐ男です。それが劉李玉です!!」


真夜中の城の屋根の上で二人の者が笑う。


一人は満面の笑みでありながらどこか作り笑いのようで、もう一人は呆れているように見えながらそれでもこの時を楽しんでいるかのようだった。

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