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この恋はうつくしい

作者: 桜鳴 颯祈

外道ヒロイン略してゲドイン注意。




「別れよう、もう、付き合いきれない」



 提案の形を取った断定に彼が目を伏せた。

 彼の唇が音を漏らさず引き結ばれたので、こうなるまでのなんとも惨めったらしいわたしの恋の過程を思い返そう。それで、振り切れるなら、振り切れたなら。幸せになれると信じているわたしは本当に最低な女だ。





**





 そもそもの始まりはわたしが彼に恋したことだ。陳腐ではあるけれどクラスの人気者に声を掛けられて、まあいわゆるぼっちだったわたしは浮かれあがった勢いで恋に突っ込んでいった。馬鹿だと自分でも思うけれどそれは制御できないものだと昔の人も言っているので許して欲しい。

 どこかの少女マンガのように恋をして、どこかの少女マンガのように結ばれてハッピーエンド。現実がそんなに夢に満ち溢れているはずもなく身の程知らずな恋をしたわたしに待ち受けていたのは女子からのいじめと男子からの嘲笑だった。まず女子のリーダーが気づいて、ぼっちだったわたしをいじめっ子にランクダウン。オマケに男子にわたしの気持ちをばらして身の程知らずだと嘲らせる。普通ならここで心折れる。少女マンガならここで彼が颯爽と助けてくれる。わたしは普通でも少女マンガのヒロインでもなかったのできわめて現実的に対処させていただいた。奇跡的に彼の耳に入る前に事態は収束し、元凶だった彼女はこころを病んでどこかに消えた。ざまあみろとせせら笑ってみたもののだからといって彼と進展はなかった。なにせわたしは他人を傷つけることには生まれつき長けていたのだけれど他人に好かれることはまったく未知の行動領域。嫌われないよう傷つけないよう遠くから見守るのが精一杯だった。

 クラス内でこっそり目で追うだけのまだ健気な方だったと思えるわたしがいかにして別れようなんて言えるほどの立場に立ったのか?切欠は賭け事だった。いやもう本当にセオリーどおりの、ゲームに負けて罰ゲームで告白。それを幸いと受けたわたしは間違いなく外道だ。勿論あとで嘲笑されないように、「知ってるよ」と言っておいた。正確には「知ってるよ。でも、いいよ。付き合おう」と。



 そのとき、わたしは多分、自分の外道さと手段の選ばなさとえげつなさをわがことながら侮っていた。



 というのも、わたしの家が少し特殊だったことに起因する。隠してはいるけれどわたしの家はいわゆる奴隷調教師というもので、特に奴隷を堕とすことにかけては右に出るものがいないといわれた祖父、に、わたしは異様なほど似ているらしい。無論外見でなく、中身が。それを喜んでいいのかは微妙だけれど、この場合それはわたしにとってとても都合の良い方向に作用してしまった。

 その一年後、つまり卒業試験の時期が迫りだす頃、わたしたちはうまく付き合っていた。最初が罰ゲームだったなんて知らなければわからないほど睦まじかっただろうと思う。そして、卒業試験の直前に不安定になった彼をわたしは巧妙に慰めた。他人事のようだが、わたしにとってそういったことはほとんど無意識にしてしまうことなのだ。つまり、その、他者を依存させたり、心酔させるための行動というのは。後で思い返してやってしまったと頭を抱えたのは一度や二度じゃ足りない。

 そしてそのときも、わたしは帰ってから思い返して色を失くした。

 なんで、なんて愚問。恋愛と依存は違う。わたしは彼に好きになってほしい。対等な位置で、対等な恋をしたいのだ。決して絶対的な上位者として彼を跪かせたいわけではない。まして、彼にわたしがいなければ息もできないなんて、そんな、苦しすぎる依存を強いたいはずもない。

 もっとも、その後悔は遅すぎた。わたしの無意識は確実に彼を侵食して、急速に彼はわたしに傾いた。

 元々罰ゲームに付き合せていた罪悪感、長いこと傍にいた結果芽生えていた情、それら全てがうまく噛み合って、彼はわたしに依存して執着した。してしまった。

 その時点でわたしは選択をしなけらばならないと、自分に言い聞かせた。即ちこのままお互いに噛み合わない感情を向け合ったままズルズルと底なし沼に嵌るか、あるいは、彼を無理やりにでも引き剥がして真人間に戻すか。多分、わたしが今までに自分や祖父に堕ちた人間を見たことがなければ前者を選んだだろうけれど―――。





**




「―――いやだ」



 彼が涙声で返した言葉に、今度はわたしが目を伏せる。予想できたことだ。でも、それは愛でも恋でもないんだよ、と教えてあげなければならない。

 それがわたしの、せめてもの義務だ。



「あのね、わたしはあなたの母でも神でもないの。おかしいんだよ、私の言うことを何を犠牲にしてでも聞こうとするのは」

「それは俺が君を好きだからだ!」

「違うよ」



 動作だけで黙らせる方法を知っている。君を傷つける方法も、君を癒す方法も知っている。

 それなのに。



「全部、全部、違うよ。君のそれは恋愛じゃない。ただの依存と執着だ」




 君に愛される方法だけが、わからないの。





その故意は欝苦しい。


「それでも、愛を執着と呼びかえる人は多いだろう?」


彼は彼女が思う以上に手遅れである。







もっと欝くしい小説が書きたいです先生!

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