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りんね  作者: 小林マコト
9/11

 何とか話をつけたりんねは、堂々と死神様の道へと足を運びます。

 りんねは良くも悪くも目立ちます。その美しさはこの国で一番だと言われておりますし、吉原では知らぬものは居ません。


 しかしりんねは(かく)れる素振(そぶ)りも見せません。隠れるようなことを、りんねは嫌います。ですから、何があっても隠れたりはしません。

 死神様の道に近づくと、りんねの周りにいた人も少なくなって行きます。

 その道は、妙な噂が立っているからです。


「その道、死神さまの通る道なり」


 足を踏み入れるだけならまだしも、死神を見たものはあの世へ連れて行かれるという、伝説のようなものが語られているのです。

 りんねは躊躇せず死神様の道へと入って行きます。

 そのころにはもう見物人もいなくなり、りんねはひとりになりました。

 先程(さきほど)までなかった(きり)が、視界を(さえぎ)ります。

 その霧の先に、男の姿が見えました。


「……よあけおとこ」

(みな)、俺をそう呼ぶのだな」


 男は、暁でした。

 暁が声を出した瞬間、あたりに立ち込めていた霧が、すっと晴れていきました。視界は良くなったのですが、りんねは不思議に思いました。

 しかし、そんなことを言っている場合ではないと、りんねは自分に言い聞かせます。


「ぬしよ、ぬしは一体何者じゃ? 我の周りで妙なことが起きるようになったことは、ぬしと関係あるのか?」

「俺は何もしていない。俺はただ、お前に会って少しばかり話をした、それだけだ」


 りんねの問いに答える暁の言葉には、何か裏がありました。

 それを知ることは、りんねにはまだ不可能なことでしかありません。


「……ぬしに会ってからというもの、我はおかしくなってしまった。話そうと思っていなかったことを禿たちに話して聞かせたり、ずっと昔に死んだ人間のことを思い出して涙が流れたり。意味が分からない。ぬし、本当に何もしていないのか?」

「俺は何もしてないと言っただろう。お前が勝手に自分の内に秘めたる思いを出しただけだ。俺は、扉の鍵を開けただけだ」


 扉の鍵を開けた。

 りんねはすぐに気がつきました。

 自分が封じてきた感情が、流れ出てくるのを暁が後押ししたのだと。


「……鍵を開けることは、何もしていないという括りに入るのかい?」

「入るさ。開けるだけなら誰にでも出来る。それに、お前の鍵は壊れかけていたからな。触れただけで腐れ落ちた。俺が無理に開けたわけでもない」


 ゆらゆらと、意識が揺らぐのを感じました。

 りんねの感情が、りんねのものではなくなり、意識が揺らめいていきます。

 見ている景色が全て窓の外で起きているかのように思えました。


「お前は相当無理をしているな。そのせいで、自分がどうしたいのかすら分かっていない。欲を(おさ)えれば抑えるほど、お前の感情は死んでいった」


 暁の声が脳内で繰り返し反響し、りんねの意識をゆらゆらと揺らめかせます。


「お前がそのまま無理をするのならば、やよいと言ったか。あの娘にお前の負担を肩代わりするようにしておいた。大きな過ちを、あの娘が犯す前に、お前は自分の感情に(から)んだ鎖を(ほど)かないと、どんなことが起こるだろうか。楽しみだな」


 暁が言い終わると同時に、りんねの意識は闇の中へと溶けてしまいました。


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