弐
「りんね様、昨晩の妙な男、一体何者なのでしょうね」
やよいの問いに、りんねは笑います。
「ぬしよ、あの夜明け男の顔を見んかったのか?」
「夜明け男……あの、暁とかいう……。見ましたけど……」
「ありゃあ、最近荒稼ぎしているという、大店の主の息子じゃ。まだ我が太夫になっておらんかったころ、夜明け男とよく似た顔を見たことがあっての。我の記憶が正しければ、夜明け男は大店の跡取り息子、ということになるな」
いつもはここまで大きく笑わないりんねに驚きながらも、やよいはしっかり話を聞きます。
そして、気づきました。りんねが今までにないほど、楽しそうに話していることを。
「りんね様……楽しそうですね」
やよいが思ったことをそのまま言うと、りんねは自分では気づいていなかったかのように驚きの表情を一度浮かべ、そしてまた笑顔になりました。
「初めて我を美しいと言わなかった男だからだろう。我に近寄るものは、皆我の身体目当てだからの。美しい美しいと褒めればいいとでも思っている輩が多い。その中で、初めてあの夜明け男は我を貶した。これ以上に楽しいことがどこにある?」
遊女というものは、身体を売って自らの借金を返すものです。それでも美しいと言われればうれしいものだとやよいは思っておりました。しかし、りんねは美しいと言われるのは慣れてしまったようで、逆に醜いと言われたほうが楽しそうで。
やよいは、りんねの考えていることが分かりませんでした。
「あの夜明け男……興味が出てきた。夜明け男には我がどう見えているのか、少しばかり興味がある」
「また、会う気ですか?」
軽く笑って、りんねは答えます。
「会えるのならば会ってみたいとは思う。だが、我も多忙、やつも多忙。そうそう会えるものでもなかろう。まあ、大店の跡取りともなれば、女遊びのひとつやふたつ、興じることもあろう。一度くらい会えるだろうに」
やよいが今までに見たことがないほど、りんねは楽しそうでした。
そしてやよいはこの時、思ったのです。
自分が七つのときに吉原に売られたとき、本当の親のように接してくれたりんねのため、暁という男に合わせてやりたい、と。
「りんね様、あの男と、会えるといいですね」
「そうじゃの。会えたらいいとは思う」




