表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

飽き足らず知って逝く。

マズローの欲求段階説。

それは人間の欲求を大まかに分け、段階別に考察した心理学的説である。

その説の第5段階目である「認知欲求」に飢えた幼少期を過ごした少女が行き着いた「知りたいの向こう側」にあったのは、気づかなくていい事に気づき絶望した自分の姿だった。


人間は醜い。そして自分も醜い。


いつしか少女は大人になり自らを「汚い大人」又は「泥団子」と自称し始める。

泥団子も磨けば光るが所詮中身は泥、ダイヤになんてなる訳が無い。


そう思って絶えなかった彼女を画面の向こうに存在する「人間を模した2次元」が救うのは必然であった。


自分を、泥を丸めて磨くのは一体誰?何者?


不安定な泥を救い上げた者が画面の向こうにいるだけで救われたんだ。

これは、そんな「全てを知ってしまった元少女」と「何も知らないただの配信者」が織り成す物語だ。

元々なんでも考え込んでしまう性格だった。

「あれは何?」と父や母に聞いては答えを貰う。その時の知識欲が満たされる感覚と、その知識を更に深めようとして頭がぐるぐると回る時間が好きで堪らなく楽しかった。


本や図鑑を見ているとボロボロと空から言葉が降り注ぐ感覚に陥る。目には見えない雨が降っているかの様な現象。全身がその降ってくる言葉で濡れ、体がグショグショになるにも関わらず「まだ濡れていたい」と叫びたくなる感覚。それが降っても降っても治らない枯渇した私の知識欲を更に掻き立てる衝動の原動力だった。


猫の体の作りや蟻の帰巣本能、更には心理学や解剖学まで何でも知りたいと大人にねだる幼少期だったと思う。


「マズローの欲求段階説」を本で読み知った時には面白くて心が苦しくなる程踊り出したい衝動に駆られた。

マズローの欲求段階説とは心理学者であるマズローが唱えた人間の欲求に段階をつけ説明した説だ。

この説は5段階説と7段階説があるが私は特に7段階説が好きで仕方が無かった。

1段階目は生理的欲求、2段階目は安全の欲求、3段階目は社会的欲求、4段階目は承認欲求、5段階目は認知欲求、6段階目は審美的欲求、最後の7段階目は自己実現の欲求。

3段階目までは地球上に存在する全生物において重要な欲求だが、4段階目からは人間が特に欲するもの。

4段階目は「誰かに認められたい」、5段階目は「何かを知りたい、知的好奇心を満たしたい」、6段階目は「秩序や調和が欲しい」、7段階目は「もっと成長したい」。

どれも人間が特に必要とし、求めるものだ。

私の頭の中はいつだって5段階目と7段階目の欲求ばかりだった。

あれが知りたい、これは何?、もっと聞かせて、もっと、もっと、もっと。


人間臭い考えだと自分でも思う。そんな性格故に気づきたくないものも多く気づいてしまったのだ。

先の見えぬ将来、

政治に対しての不満が溢れる国、

気候変動による飢饉、

マイノリティに対する「大多数の意見」と言う無自覚な暴力、

家庭環境や己を取り巻く環境に嫌気が差し自ら命を絶つ若い人々。

人間は中途半端に知能がある生き物だからいつだって争いや憎しみが耐えない。


ずっと嫌だった。

ネット上での炎上や妬み僻みで人が人を傷つけ合う世界が。

「あれが嫌い」「これが嫌だ」と軽い拍子で紡がれる言葉で純粋な人が次々と「人間」から「死体」に変化していく世が。

きっと私は気づかなくていい事や知らなくていい事を知り過ぎてしまったのだ。

ネガティブな知識に溺れ息がし辛くなる。

全身の細胞が「逃げたい」と叫ぶ。

何とか口を動かして「助けて」と言いたくても誰に助けを求めればいいのかも分からない。

ただただ人々やこの世界の欲求から漏れ出た汚い知識が体の中に侵入していき、胸が酷く苦しくなって涙を流す。

そうやって溺れた人間は二度と地上には戻れないという事を私はこの海に飛び込む前から知っていた気がする。が、私にはこの海に飛び込まねば己の欲求は満たされないと思う気持ちの方が強かったからそうするしか無かった。自分の本能が囁いたSOSを無視して欲求を満たす為に生身でこの世界に飛び込んだんだ。


自業自得。

私の人生はこの四字熟語で全てまとめられるほど薄っぺらい。


気づけば私は「汚い人間」になっていた。

差別やそれによる沈黙は当たり前。必要とあらば他人に媚びを売る。へらへらと同性に対し共感の表情をして異性にはその人が求める事や言動をする。いつだって笑顔や他人が指定した表情という名の仮面を被って社会という名の舞踏館で踊る。言ってしまえばただのモブキャラ。毎日虚ろな目をして会社に行き、継ぎ接ぎの仮面をつけて笑い、こなす様命令された仕事をしてまた虚ろな目で帰宅する。典型的な社畜と呼ばれる人種だ。


あの頃の知識欲に溺れ「もっと何かを知りたい」と願った私は居ない。

今ここに居るのは「要らぬ知識に溺れ没個性になった汚い大人」

嗚呼、あの頃の私が今の私を見たらどう言う反応をするだろうか。

知りたくも無いし知る術さえ無いけれど、きっとこんな事を言うだろう。


泥団子みたいだね、と。


初めまして、碧い音と書いて碧音アキラと申します。

初めての作品投稿という事もあり不安と緊張を抱えながら後書きを書いています。


話は変わりますが、私は心理学が好きでして。

今回この作品を書いていくうちにマズロー氏を知り大変興味深い気持ちでいっぱいになっています。

マズローの欲求段階説……5段階説と7段階説、皆さんどちらが好きですか?

この作品の主人公は7段階説を推していますが、私は5段階あれば十分人間の欲求を説明できるだろうと思っているので5段階説を推しています。どちらでも正しいですし人間の欲求は7段階じゃ語りきれないという意見もございますがね。


それではまた次回。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ