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第6話 ゲスト

 結局、考えられる全ての手段を試してみたがログアウトすることができなかった。


 最終手段とも言える十八禁抵触行為はペナルティを受ける可能性が高く回避できるのであれば回避したい。現実問題として数時間なら待つことができても翌日までとなると流石に話が変わってくる。


 運営会社が状況を把握し速やかに対処してくれていると信じて待つのなら装備変更や腰まで伸びた髪をどうにかしておきたい。


 そもそも女性と間違われたことなど一度たりともないないのだから髪型と装備さえ変更すれば二度と間違われる事など無い筈だ。獣人が存在しているのだからキャラメイクが可能だと推測し何度も試みてみたが変更方法が分からない。


 唯一の救いと言えばスキル制限が解除されたことにより守護者に手持ちの武器やアイテム類を渡しておくことができ、自身も装備変更することが可能となったことだろうか。


 一旦、ワンピースとグラディエーターサンダルを【無限収納(インベントリ)】へ収納し他に何も装備していないか確認する。腰まで伸びる髪、何度も性別を間違えられたりするとワンピース以外にも女性用の衣類を着用していたり女体化でもしているんじゃないかと心配していたのだが取り越し苦労だったみたいで安堵する。


 装備変更する場合、無限収納(インベントリ)に収納されてさえいれば瞬時に取り出し変更ができるというゲーム特有の便利機能が実装されていることもあり特殊なケースを除き自力で脱ぎ着したりしない。下位互換のアイテムボックスと違い収納情報を把握できるのも特徴の一つと言える。


 武器については悩むこともなく聖剣オルフィスクの一択。絶域で倒したドラゴンに突き刺さっていた剣で、装備したからといって強力なバフが掛かったりするわけではないのだが、切れ味、魔力との親和性など桁外れに高く驚くほど手に馴染む。


 プレイヤーやNPCが作成し販売している装備品やアイテムでは絶域二層のボスにすらダメージを与えることができなかった。それ以降スキル【創生(クリエージョン)】を使い全て自作しているのだが剣に関してはオルフィスクを越えることができず今に至っている。


 そして防具は絶域で倒した魔物の素材を使い作りあげた黒を基調としたロングコート、パンツ、シャツの三点セット。少しシンプルなデザインだが圧倒的な防御力を誇り、ダメージを受けたり状態異常に陥った経験と言えば絶域最下層でのボス戦の一度だけ。疲れや傷を癒し状態異常、物理攻撃、魔力攻撃に高い耐性を持つ。


 装備を整え部屋を出る前にもう一度、ログアウトできないか試してみたが結果が変わることはなかった。復旧までに暫く時間を要するのなら幾つか用事を終わらせることができそうだ。


 寝室を出るとチェンバールームになっている。正面には出入り口になっている扉、室内を見渡すと白と水色を主とした上品で落ち着きがある内装、暖炉やカウチ、鏡台、ティーテーブル、ライティング・ビューローなどが置かれていて書斎や談話室にも使えそうな構成になっている。


 驚くほど自分の趣味趣向に沿った造りの部屋で嬉しいのだが、これらも偶然の産物なのだろうか。


(ほんと何が何だか分からないな。ログアウトできなかったり痛み感じたり・・・・・・ そう言えばミィが顔に張り付いていたとき息苦しかったような・・・・・・)


 フルダイブ型のゲームは仮想空間に五感をリンクすることで、その世界に入り込みアバターを操作する。仮想空間で感じる五感全ての情報をフィードバックしてしまうと痛みなど負の情報により脳に過剰な負荷がかかり、現実世界の体に影響を及ぼしてしまうためフィルターを通し調整されている。


 呼吸に関して言えば体感的な息苦しさと違い外的要因による息苦しさは区別されており痛み同様遮断される。簡単に言えばアバターは息をしていないのだから水の中だろうと窒息することがない、つまり外的要因により息苦しくなることは絶対にない。


 ミィの一件で感じた息苦しさは外的要因によるもので感覚的なものではなかった。だとすると本来遮断されるべき情報全てがフィードバックされている可能性があるという事になる。もしくはこの状況そのものがゲームではなく現実だということ。


 ログアウトできないことで正常な判断ができなくなってきているのだろうか、考えれば考えるほどゲームではなく現実なんじゃないかと思えてしまう。


 転生や転移といった漫画やアニメでよく見る設定だとしたら神様的な存在が登場してもよさそうだが心当たりもなく、そもそも現実的じゃない。


「おい。運営ーーッ・・・・・・」


 叫んでみたところで何の反応すらないことは知っているのだが叫ばずにいられなかった。


「颯斗様。如何なさいました?」


 突然、通路へとつづく扉をノックする音と女性の声が聞こえてきた。外に誰か居るとは思っていなかったこともあり恥ずかしさがこみ上げる。専属メイドを選考しているとレイスが言っていたが外に居る女性がその専属メイドなのだろうか。呼ばれるまで室外で待機し何か問題が発生したと思い声をかけたのだろう。


 心配させてしまったことで恥ずかしさに申し訳なさが追加され、問題無いと一言で終わらせることができなくなってしまった。


「う、うん。大した用事じゃないんだけどね。とりあえず部屋に入って」


「失礼致します」


 扉がゆっくりと開くと白いフリルの付いた黒いワンピースに純白のフリル付きエプロン、ホワイトブリムという定番のメイド服を着た二十歳くらいの可愛らしい顔をした女性が立っており会釈し室内へと足を運ぶ。


 室内へ招き入れたのは良いが大した用事どころか用事そのものが全くなく、世間話をするだけの時間的余裕もない。だからと言って顔だけ見て帰るように指示するのも違うような気がしてならない。


「えっと・・・・・・ か、髪を短くしたいんだけど切ったりできる?」


 髪型などアバターの一部分を変更する場合、随時カスタムが可能だったり専門職が配置されているなどゲームにより特色がありユリウスのようにキャラメイク自体できないゲームも存在する。


 その様なゲームの場合、NPCに対して髪を切るなどの依頼をすると無理だと断られる。自身の役割、権限を越えたことをNPCは実行できない。そういう意味では無理難題を押し付けているだけなのだが目の前に立つメイドの反応は違っていた。


「あ、あの・・・・・・ 私で宜しいのでしょうか?」


 確実に断るだろうと思っていたのだが畏まった言葉とは裏腹に喜びとやる気に満ちた表情でこちらをじっと見つめている。


 髪型変更が可能ならば今すぐにでも変更したいとメイドへ言葉をかけようとした次の瞬間、頭の中で幼い子供がエコーの利いたマイクで話しているかのような声が響き渡る。


「みんなー。ラグナロクに参加する十神、決まったよーっ。今回は優勝経験者が多く参加しているから、白熱した戦いを期待せずにはいられない!! ってことでぇーー遊戯神フレミアの名において神戯(ラグナロク)の開催をここに宣言しまーす」


(遊戯神? イベントの告知なのか・・・・・・)


「イベントじゃなくてラ・グ・ナ・ロ・ク!! 亜神君・・・・・・ じゃなくて早乙女颯斗君。これは現実、君が知ってる低次元なゲームなんかと違うんだけどな」


 自身を遊戯神フレミアだと名乗る子供のような声の主はラグナロクというイベントらしきものの開催を告げ、このセクレシアという世界が仮想空間ではなく現実世界だと話す。


「もっと緊張感持ってくれなきゃ面白くならないーーっ! 仕方ない。今回の勝者には、セクレシアと地球という辺境の世界の所有権をプレゼント・・・・・・ あっ。まだ信じられないって顔してる。もしかして自分が亜神って事も分かってないの? 死に物狂いで戦ってもらわないと盛り上がりに欠けるんだよなぁ・・・・・・ そうだ!! 僕と簡単なゲームをしよう」


 イベント開催が告知されチュートリアルが開始される。ただそれだけの事なのに言い知れぬ不安感に襲われ髪を切る準備を進めているメイドを下がらせる。


「・・・・・・ よし!! 準備完了。それじゃゲームの説明を始める前に特別ゲストを紹介するね」


「強制参加イベントの類か?」


 次の瞬間、轟音と共に眼前に直視できない程の眩い光の柱が降り注ぐ。以前見たレイスの転移スキルと同系統のようだが遥か遠い世界にでも転移するかのような桁違いの力を感じる。


 そして眩い光が薄らいでいくと現実世界でよく知る三人の姿が目に飛び込む。


「父さん? 母さんと大河(たいが)まで何で・・・・・・」


 ゲームに興味のない両親と弟がユリウス専用ダイブギアを持っているなんてあり得ない。だが持っていたと仮定し自らの意思でログインしたのなら、あんなに不安そうな顔をしていない。


「僕は遊戯神フレミア。敬一(けいいち)愛花(あいか)、大河、君達三人をセクレシアに呼んだのには深い訳があるんだ。颯斗君が不敬にも上級神たる僕の言葉が信じられないって言うんだよ。だから信じてくれるように説得する手助けをしてもらいたいんだよね」


「は、颯斗もここに居るのか?」


 敬一の言葉を聞いた後、フレミアの言動に変化が起きる。露骨に苛立ちや不快感を露にし重々しい雰囲気が辺りを包み込む。


「僕、質問していいって言った? 言ってないよね!!」


 次の瞬間、激しい痛みから顔を歪め呻き声を上げのたうち回る敬一の姿が目に飛び込む。(おびただ)しい量の出血、そして左腕の肘から先が見当たらない。


「ごめんねえ。力加減間違えちゃった。それと颯斗君は動かないでね。動いたら全員殺しちゃうかも」


「お前の言ったこと全て信じる。だから全員解放しろ。頼む・・・・・・」


「いいよ。許してあげる・・・・・・ って言ってあげたいけどゲーム始めちゃった。仕方ないから敬一の傷は治していいよ。死んじゃったら困るしね」


 父に駆け寄り抱き起すと無限収納(インベントリ)からハイポーションを取り出し傷口にふりかけながら魔力を可能な限り抑え高位治癒魔法(ハイヒール)での治療を始める。魔力と治癒速度を極限まで抑えたことでハイポーションと中位治癒魔法(ミドルヒール)を併用しているように偽装した。


 魔力を開放すれば四肢欠損程度の傷なら一瞬で癒すことができるのだが力を隠し時間を稼ぎ可能な限り情報収集しなければならない理由ができた。


 父を抱き起した際、辛うじて視認できる透明な鎖が天井付近の空間から伸び首に巻きついていた。その鎖は母や弟の首にも同様に巻き付いている。断ち切れなくもないように思えるが悪い予感しかしない。


 また家族との距離は二メートルと離れていないにも拘らず誰一人として自分を颯斗として認識しておらず、寧ろ危害を加えようとしている者と認識しているかのように恐怖に満ちた視線を向けてくる。


 何が目的なのか分からないが格下だと見下し遊んでいるのなら乗らない手はない。


最後まで読んで頂きありがとうございます。次回「第7話 芽吹く力」お楽しみに。

更新予定日は4月19日(土)18時ごろを予定しています。

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