異種族の少女
華晶学園、小・中・高一貫校で異種族や異種族のハーフが在籍している。
生徒の9割が普通の人間ではあるものの、残りの1割は異種族又はそのハーフである為、学校の構造なども多少異なる。
人間の生徒が使いづらくならない程度ではあるが、異種族の生徒にとってのバリアフリーが取り入れられている試験的な学校とそのシステム。
異種族の生徒の生活に生じる問題の解決や相談を受ける部活、『異種族支援委員会』、通称『異員会』は本日も異種族の生徒からの相談等を受け付けている。
「異種族支援委員会……」
長い灰色の髪に金色の瞳を持つ少女、大狼詩音6歳は華晶学園に入学して2週間、異種族支援委員会の活動に興味があり、入部したいと思っていたが、部室の扉の扉を叩く勇気が無かった。
異員会には、この学園の理事長の娘が在籍している。
そして、小・中・高の一貫校である為、小1の詩音は知らない先輩達がいる部室に1人でノックして入って行かなければならない。
しかし、詩音にはそれ以上に異種族支援委員会へ興味があった。
詩音からモフモフの獣耳と灰色の尻尾を出して、勇気を振り絞ってノックする。
「失礼します!」
詩音は扉を開けて、中に入る。
「来たね」
「なっ……」
異員会の部室には、若々しく凛々しい、長い黒髪の女性、理事長の華崎晶が居た。
「ようこそ、異種族支援委員会へ」
「は、はい!」
「異員会の説明は絢音がしてくれる。私は少し用事があっただけなんだ。すまないね」
理事長は詩音の頭を優しく撫でて去って行く。
「話は聞いてるよ。大狼詩音ちゃん」
理事長そっくりな凛々しく長い黒髪の女生徒、華崎絢音がしゃがんで目線を合わせて言う。
「取り敢えず、座って話そうか」
詩音は改めて部室を見てみると、高級ホテルのスイートルームのような内装に改めて緊張する。
異員会は他の部活と違い、理事長の趣味も兼ねているので、内装が豪華なのである。
思い切り私情による職権濫用である。
詩音は絢音に言われて広いソファに座らされ、絢音はその隣に座る。
「あの、こういう時って対面じゃ……」
「膝の上か横」
「横で」
「そっか」
絢音は少し残念そうな雰囲気を出しつつ、正面にあるガラステーブルにプリントを乗せて見せる。
「異種族支援委員会は委員会とは言ってるけど、部活動だから業務内容って程の事は無いの。文字通り異種族の子の支援をする部活だから、言うなれば異種族の子専門の何でも屋なんだよ」
「何でも屋……」
プリントにはこれまでの活動内容として、人形などの生徒の為の車椅子の設置、それに伴ったエレベーターの設置、吸血鬼の生徒の為に屋外テラスに日陰エリアの設置、登校が難しい生徒の為にリモート授業のシステム導入などが書かれていた。
「理事長直轄の部活だから、学校そのものの形を変える事も出来る。エレベーターつけたりね。基本的に相談があってから活動を始めるんだけど、異種族の子は自分が思った事などは部活内で相談して活動出来るから、本当は異種族の子は入部を推奨されてるの。……全然入部してくれないけど」
絢音はそう言いつつ、今異員会に所属している生徒の名簿も見せる。
現在異員会所属の生徒は詩音を含めて5人。
「私と詩音ちゃんの他に3人。吸血鬼の女の子、鬼のハーフの男の子、ゴーストの女の子。会った時に改めて自己紹介するね」
「はい」
「ところで、人狼の異種族ってどんなことが出来るの?」
異種族は人間と違い、特殊な能力を持っている。
吸血鬼は高い身体能力と霧化と変身、鬼は怪力、ゴーストは物体をすり抜けるなど、種族に合わせた特性がある。
「人狼って言うくらいだから、狼になるの?」
「狼みたいな姿になってちょっと力持ちになります」
絢音は詩音のピンと立っている耳に触れる。
「これって意図的なの?」
「緊張したりすると……出てしまうんです」
「そっか」
絢音が詩音の耳を押さえて、手を離してピンと立つ様子を見て楽しんでいると、勢いよく部室の扉が開く。
「アヤ〜!投書ゼロだったよ〜」
長いプラチナブロンドで紅い瞳の女生徒が入って来る。
「お疲れ」
「お?何そのちっちゃいの」
絢音が紹介する為に視線を詩音に戻すと、完全に子供の狼の様な姿になっていた。
「新入部員だよ」
「ペットでは?」
「いや、人狼の異種族の子なんだけど、ルリが脅かしたせいでこんなモフモフに」
絢音は子犬の様になってしまった詩音を膝に乗せ、そのブロンドの少女の紹介をする。
「霧山瑠璃、吸血鬼の異種族で喧しい女だよ」
「賑やかって言って欲しいな」
詩音は犬耳姿まで戻る。
「ホントに異種族だ。って……初等部の子だ」
「そう、どっかの誰かさんと違って、優秀なんだよ」
「くっ、言い返せない」
異員会は部室に来て行う直接相談、投書による匿名相談があり、放課後の30分ほどで投書があるかどうかを確認して回り、無かった場合は部室で相談者を待つ。
「そろそろ、他の人も戻って来る頃かな」
絢音がそう言うと、鬼の角が生えた茶髪で赤い瞳の男子生徒が扉からやって来る。
「こっちは無かったぞ」
「お疲れ。レイが戻って来たら、この子の紹介するね」
「初等部の異種族だ」
「そう、優秀なんだよ」
詩音が先輩が増えて緊張して耳を立てていると、両肩に冷たい手が乗る。
「凄いね、君」
「っ!!!」
詩音はソファから転げ落ちる。
詩音の肩を掴んでのはとても長い黒髪で前髪も長く顔が半分隠れていて、宙に浮いている女生徒だった。
「そんなに驚かれると、ちょっと嬉しくなるね」
「あまり脅かさないでね。可哀想だから」
絢音は改めて、異種族支援委員会のメンバーを紹介する。
「華崎絢音、中等部3年で部長をしてる。次、ルリ」
「霧山瑠璃だよ、高等部1年!吸血鬼の異種族で副部長もしてるよ。ほら鬼山」
「雑だなオイ。鬼山響高等部1年、鬼の異種族のハーフ、ちょっと角があって少し力が強いだけだから、そんなに怖がるなよ?」
「最後が私だね。飛騨山零、高等部2年。ゴーストの異種族よ。驚かせてごめんね」
詩音も改めて自己紹介をして、絢音が中等部なのも驚いたが、中等部が部長なのが気になった。
元々、絢音が初等部として入学して来た時に作られた部活で、絢音が初代部長として9年程続けている。
瑠璃は4年程前、中等部として入学してから初めての部員となったので副部長になり、その後、3年前に響、1年前零と部活に加わり今に至る。
「そんな訳で、私が高等部を卒業するまでは部長も変わらないと思う」
「そうなんですか」
その後は新入部員や初等部という事もあり、詩音の話で盛り上がり、そのまま時間になって部活が終わり、下校する。
「ただいま」
詩音の言葉に対して返って来る言葉ない。
詩音は一人暮らしをしている。
(みんな優しそうな人達で良かったな。頑張って良かった)
本来、異種族は異種族だけの、それも同種だけの学校に通う。
他の異種族がいる学校、特に人間が通う学校にはとても難しい試験を突破する必要がある。
異種族は意思疎通が出来るものの、種族が違うので価値観も大きく異なる。
その為、理性のコントロール、文化、言語、感情、価値観などを学び、人間社会で問題を起こさない事が試験で証明されれば、人間社会で暮らせるようになる。
これは、人間の国家と各異種族の国家の間で結ばれた規則である。
人狼や吸血鬼などの人間を捕食する異種族はtier0。捕食はしないものの軽く殺せてしまったり、価値観が大きく異なる異種族がtier1。元々温厚で人間と共存出来る素質が大いにある異種族がtier2 。人間よりも弱い異種族がtier3。
この様に分類分けされ、tierの数字が小さくなればなるほど試験の難易度が上がる。
詩音は最高難易度の人狼であり、それを6歳で突破したのは過去に例を見ない逸材である。
瑠璃も吸血鬼でありながら中等部からでかなり凄い方だ。
響はハーフなので本来鬼のtierである1の一つ下であるtier2だが瑠璃の1年後に入学しており、零はゴーストでtier1で入学出来たのは去年だ。
具体的に、tier0は本来人間社会で暮らせる様になるのは社会人になってからであり、学生のうちから人間社会で暮らせるのはとても理性が強い天才と言うことになる。
tier1は高校入学、tier2は中学入学、tier3は小学入学くらいで人間社会で暮らせる様になるのが一般的である。
人間社会で暮らせる様になっても、その資格を持たない家族を連れて来たりは出来ないので、ホームステイや一人暮らしになる。
詩音は子供とは言え、人狼である為ホームステイ先が見つからず、国の支援の下、一人暮らしをする事になっていた。
「……ちょっと寂しいな」
そう独り言を溢しつつ、1人で晩御飯を作り、明日の準備をして布団に入る。
名前 大狼詩音
性別 女
年齢 6歳
誕生日 7月31日
学年 小学1年生
身長 114cm
体重 21kg
趣味 狩り
好きな物 肉
嫌いな物 野菜
備考
人狼族の天才少女。
小さい頃から人間の肉は食べて育ったし、人間の肉は好物の1つだが、しっかりと試験は突破している。
人狼の異種族に年間で10人前後食べられてニュースになったりするので、異種族をホームステイしてくれる家庭も、人狼は受け入れ拒否が当たり前となっている。
その為、詩音は一人暮らしをする事になり、6歳にして一人暮らしをしっかりとこなしている。
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