詰み
薄暗い部屋の中で煌々と光るスマホの画面に映し出された文字が
何度目かの俺の人生の終わりを告げていた
残高328円
振るえる指先でいったい何が起こったのか利用明細画面へとスワイプする
カンデン -3672円 5/31
よりによって月末に電気代が引き落とされたのか
あと4000円くらいあるはずとたかをくくって煙草を買おうとしたらカード支払いができず
恥ずかしい思いをしながらコンビニを後にして家路についた俺を現実が打ちのめす
「どうしよう」と、意外にも落ち着いた口調で言葉が漏れた
この時の「どうしよう」とは生活保護費が支給されるまでの5日間の食費のことではなく
お気に入りの煙草が吸えない5日間をどう生き延びるかが議題である
前回はカートンが買えなかったのでバラ1箱で凌いだ
であるならばまだやりようがある
20本入りが500円程度で今の残高では購入できない
危機的な状況に陥り思考をめぐらすこと数分
だらしなく伸びきった灰色の脳細胞が活性化する
10本入りならば購入できる・・・!
結論付けるやいなや家を飛び出しコンビニへ駆ける
そうして俺は最後の希望、ショートホープを手に入れ役目を終えたデビットカードを財布にねじ込んだ
フィルター限界まで火のついたショートホープの煙を肺に入れ、吐き出す
ひとまず詰みは先延ばしにできた
だが残りの5日間をたった10本の煙草、いまや9本の煙草、考えている最中にまた火をつけたので残り8本の煙草で凌ぎ切れる自信がない
数時間後にはまた同じ言葉が口から出るだろう
「うまくいかんなぁ・・・」
年齢37歳、生活保護で自堕落に時間を浪費するクズで残高28円の男
人生の実績のアンロックは多種に渡るが人に誇れるものではない
俺こと「稗方久遠」は正真正銘のクズである
家に帰る途中の信号待ちで思案に更けながらもう一本ショートホープを吹かす
残りの5日間は眠剤を大量に摂取して未来へのタイムリープを行うことを決意して
未来への不安はひとまず思考からキックして横断歩道へと足を踏み出す
そして稗方久遠はトラックに轢かれた
あと7本残ってたのにな
明滅する意識の中で考えることがそれかと自嘲する
俺はいつから、どこから間違え続けてきたんだろうか
走馬灯がつらい記憶を呼び起こす
中学生の頃か?
高校生の頃か?
いや、親ガチャのせいだな
最後まで人に責任をなすりつけようとする自分に「俺らしい」と納得する
俺にしては上出来だ、よく生きたほうだ
「もっと上手に生きたかった」
自殺しようとして、先延ばしにして、適当に乗り継いで降りた駅の近くの神社の絵馬にそう書いたことがあった
願うならば、次はもっと上手に生きたいぜ神様
これで本当の本当に詰み
さよなら人生、では来世で頑張れ俺
あたたかな死を迎えて、俺は旅立った