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就職


 この世界にも名刺というものが存在していたことに驚いたけど、それ以上に驚いたのはカメラだった。

 プラットさんは小型のカメラをポケットから取り出し、僕の書いた文章に向けてシャッターを切っている。


「それ、カメラですよね?」

「そうですよ、魔導カメラっス。型は少し古いですけど」


 おそらく魔力を応用したカメラなのだろう。


「あの、僕の記事を撮ってどうするんですか?」

「編集長に見せるっス」

「え……?」

「あなた、お名前は?」

甲賀錬コウガレンです」

「コウガさんね。単刀直入にお聞きしますけど、雑誌記者をやってみませんか?」

「雑誌記者というと、この実録タックルズという?」

「そうっス! 大きな出版社ではありませんが冒険者たちには人気の雑誌っス。世に溢れるくだらない情報を虚実織り交ぜて紹介する雑誌、それが実録タックルズっス!」

「虚実織り交ぜて?」

「そ、それはウソっス。ちょっと誇張するだけっスよ。じっさいに見てもらった方が早いっスね」


 プラットさんは大きな肩掛けバッグをごそごそとかき回して小さな新聞のような束を手渡してきた。

 タブロイドって呼ばれる外国の新聞くらいのサイズだ。

 写真の印刷はなく、代わりに挿絵がたくさんついている。

 表紙の見出しを読んでドン引きしてしまった。


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 唖然としている僕にプラットさんは説明する。


「荒くれどもがバカにしながらも愛読し、心の底では信じている。それが実録タックルズという雑誌っス!」*1


 なるほど、これは典型的なゴシップ雑誌というものなのだろう。

 僕は年齢的に紙の雑誌なんて手に取ったこともないけど、おじいちゃんやお父さんの世代にはたくさん売られていたそうだ。

 これはそういった類の雑誌に違いない。


「どうですか、コウガさん。編集部は記者を募集している最中です。これだけの文章が書けるうえ、ダンジョンの奥から生還するガッツもある。必ずや即戦力になるはずです。一緒に雑誌記者をやってみませんか?」

「僕が記者……」

「そうっス! 一緒にタックルズを盛り上げていきましょう!」


 この雑誌を一目見た感想は「いかがわしい」だった。

 いつもの僕ならすぐに断っていただろう。

 だけど僕は仕事を探していた。

 コネもあてもない異世界で一人ぼっちで放り出されていて心細くもあった。

 そしてなによりこの、ノイマ・プラットさんという人が好みのドストライクだった。

 天真爛漫な笑顔、ムチムチのボディ、そして朗らかな話し方、一目で恋に落ちたと言ってもいい……。


「お話だけでもうかがってみようかな……」

「本当っスか! では編集部へ行きましょう!」


 僕はプラットさんに引っ張られるようにしてギルドホールから連れ出された。


 ギルドホールから三〇分ほど馬車に乗り、ブリンデル市の東南地区にやってきた。

 ここは様々な企業の建物があるオフィス街のようだ。

 実録タックルズ社はぼろいながらも自社ビルを所有していて、案内されたのは四階建てのビルだった。

 よくわからない情報雑誌を作っている会社だけど、建物はそれなりに立派で安心だ。

 だけど、中でひき合わされた編集長は、ずんぐりむっくり筋肉質で、目つきの鋭い角刈りの男性だった。

 その筋の人と紹介されてもおかしくないような迫力がある。


「どうした、プラット?」

「逸材を連れてきたっス!」

「逸材だぁ?」

「まずはこれを見てほしいっス」


 魔導カメラにはオーブと呼ばれるものが入っており、こちらが記憶媒体になる。

 オーブは記憶した画像をそのまま空間に映すことができるのだ。

 編集長はプラットさんが撮った僕の文章を読んだ。


「ふむ、少しは書けるようだな。先日応募してきたやつはてんでダメだったが、あれよりはマシそうだ……」

「そうでしょう、編集長。十三層から生きて帰ってくるぐらいの実力もありますよ。記者は何といっても体力勝負っス!」


 僕の代わりにプラットさんがアピってくれている。

 僕はただ突っ立ったままで編集長の出方を待った。


「いいだろう、試しに使ってやる。ダメなようならすぐに首を切るからな」


 お試しの採用が決まった。


「報酬は六日で二万四千ゴールドだぞ」


 それはかなり安い。

 ポーターだって最低でも一日につき五千ゴールドはもらえるのだ。

 だけどポーターはいつだって命の危険にさらされている。

 それを考えれば雑誌記者はマシと言えるのかもしれない。


「よろしくお願いします」


 他に選択肢もなかった僕は素直に頭を下げた。


「よし、この小僧はしばらくプラットに預ける。いろいろ教えてやれ」

「任せるっス。コウガ君、私のことはノイマ先輩って呼ぶっスよ」

「よろしくお願いします、ノイマ先輩!」


 ああ、やっぱり先輩はかわいいなあ。

 またまた僕の目標が入れ替わったぞ。

 こんどは「先輩とお近づきになる」が僕の新しい目標だ。

 ゆくゆくは「先輩と恋人になる」が目標になると思うけど、とりあえずは気に入ってもらえるように頑張ってみよう。

 編集長は封筒をノイマ先輩に投げ寄越した。


「さっそく仕事だ。こいつをオッタル軍曹に届けてこい。ついでに小僧も軍曹に引き合わせてやれ」

「はーい……」


 ノイマ先輩はうんざりした顔で封筒を受け取っていた。


 編集長のデスクから離れると僕はさっそく先輩に聞いてみた。


「オッタル軍曹って誰ですか?」

「警備兵団の下士官ですよ。ときどき情報を流してもらうんス。これはそのための賄賂っスね」


 スキャンダルになりそうな特ダネを教えてもらったり、違法すれすれのことを見逃してもらったりするために普段から付け届けをするのも仕事の内らしい。


「ときには反対に情報を買ってもらうこともあるっスよ。まあ、値段は1000から3000ゴールドがいいとこスけどね。よっぽどの特ダネならもっと高くなることもあるっス」


 それにしても先輩は浮かない顔をしている。


「なにか悩み事ですか? 辛そうですけど」

「オッタルはスケベっス。愛人を囲っているらしいんですけど、それにも飽き足らず私にセクハラをかましてくるっス。うかうかしていると胸を揉んでくるっス」


 先輩の胸を揉むだって!

 なんとうらやまけしからんことをするのだ! 

 先輩のお胸は推定Gカップ以上。

 そんな至宝とも言えるお胸を好き勝手にさせるわけにいくものか。

 そもそも好きな女性の胸を目の前で揉まれるのは耐えられない。

 だが相手は警備兵団の軍曹だ。

 こちらが賄賂を渡す相手でもある。

 うかつに注意でもしようものなら先輩にも迷惑がかかるかもしれない。

 いったいどうすれば……。


「先輩、よかったら自分のチェーンメイルを着てみませんか。ちょっと重いですけど」


 着物の前をはだけてチェーンメイルを見せてあげるとノイマ先輩は思いのほか喜んでくれた。


「いいんスか? ぜひ貸してほしいっス!」


 先輩はジャケットを脱いで、僕が渡したチェーンメイルベストを躊躇なく着込んだ。


「これはいいっス! これなら揉まれても平気っス」


先輩は自分でおっぱいをモミモミしている。

その姿はけっこうエロい……。


「うん、ちゃんとガードできているっス。これならまんがいち触られてもダメージを軽減できるっスね。よーし、出発っス!」


 元気になった先輩と編集部を後にした。


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