その1-5
ティナは部屋に兵士に見張られながら戻り暫くして運ばれてきた毒見役を見た。
思っていた通りにカーミラの葉の毒性に冒された症状が出ている。
遅効性であるので少しずつ症状が出る。
最初は息苦しさからだ。
呼吸器官の障害から他の神経へ広がっていく。
やがて死に至る。
ティナは棚に直した瓶を1つ取り出し部屋のベッドに寝かされた毒見役の男を見た。
「まだ、初期段階だわ」
これならロラの木の樹液を解かしたものを少しずつ飲ませて解毒させながら呼吸を確保していけば良いわね
そう言って、兵士に
「水を大量に用意して」
早く!
と告げた。
兵士は慌てて水を用意した。
ティナはロラの木の樹液を水に数滴垂らし男に少しずつ飲ませた。
そして、幾つかの粉末を混ぜ合わせた粉をそのまま飲み込ませ、水で喉を洗ったのである。
粉末は喉を広げる薬草と炎症止めの混合剤であった。
呼吸器官の症状で一番のポイントは空気の通り道である。
つまり気道である。
空気が回らなければ人は死ぬ。
そこを確保することが何よりも大切であった。
男は息苦しそうに口を開けていたが少しすると息が整い始めた。
だが、まだ呼吸は浅く、ティナは何度かロラの樹液を混ぜた水を飲ませながら、時折、呼吸を楽にするように袋に空気を溜めてそれを口元にあてて男の呼吸を助けるように押し入れた。
フィリップは調理室で侍女に目の前で簡単な料理を作らせ、それをアルフレッドに食べさせるとティナの元にも運ばせた。
彼女が弟であり王であるアルフレッドを救ったことは間違いないのだ。
そして、いま部下である毒見役の手当てをしているのだ。
フィリップは溜息を零しながら
「俺はまだ完全に信用していないが」
だがアルフレッドの人を見る目はあるのかもしれないな
と呟いた。
アルフレッドもまた政務を終えると様子を見に彼女の部屋に訪れた。
闇が深々と降る夜明け前のことである。
ティナはその間も一睡も寝ることなく一晩中男の看病を続けたのである。
正に毒師は毒を知るである。
夜明け前には男の呼吸も整い一命をとりとめたのである。
ティナは息を吐き出すと無意識のうちに微笑み
「良かった」
と声のない声で呟いた。
そう、アルフレッドはちょうどその場に訪れており大きく目を見開いた。
瞬間に足を棚に引っ掛け音を立てた。
ティナはいつもと変わらない無表情で目を向けると
「フィマールの王」
と呼び
「ご命令通りにこの者の命はもう心配ないでしょう」
と告げた。
先とは全く違う表情である。
アルフレッドはティナに
「その、もしかしてエドワード王子を助けたこともあるのか?」
と聞いた。
ティナは首を傾げ
「貴方は何時も斜め上のこという」
と言い
「エドワード王の食事の時はいつも私がいたので毒など盛るものはいなかった」
と返し、不意に
「そう言えば、幼い頃に」
と何かを思い出したように話を続けた。
「エドワード王子が毒虫に噛まれた時に近くにあった薬草で手当てをしたことがあったわ」
そう、エドワード王子が王子であることを知らなかったときだ。
痛そうに泣いていたので手当てをしたのだ。
幼くてもノアール家の人間である。
その知識はあった。
ティナは思い出しながら
「そう言えば、あの後すぐに私はエドワード王子に指名されて専属の毒殺師になったんだわ」
と心で呟いた。
けれど、ノアールの人間なのに仕事をしたのは後にも先にもエドワードが飲む毒だけであった。
ティナはアルフレッドを見ると
「もう、御用が無ければお下がりください」
というと
「この男はもう少し様子を見て昼頃には普通に寝かせれば一週間ほどで完治すると思います」
と告げて背を向けた。
アルフレッドは慌てて
「そ、そうか」
ありがとう
「ティナ・フォン・ノアール嬢」
と微笑み立ち去った。
ティナはそれに振り返り、閉まった扉を見つめ
「…本当に…王の自覚があるのかしら?」
それに私は敵国だった…
と言いかけて息を吐き出した。
もうカナル王国はない。
だが、それにティナ自身は恨みを持ってはいない。
「エドワード、貴方がそう言ったからよ」
死ぬまで生きろ
「誰も恨まず…君のままで」
「私のままって何?」
ノアール家の人間として処刑されろってことではなかったの?
「でも、あのお花畑の王は私を処刑しなかった」
…ならばどうやって生きろと言っているの?…
ティナは射し込む朝日に答えを求めるように両手を組み合わせて目を閉じた。
最後までお読みいただきありがとうございます。




