その1-4
その日の夕食は恐ろしいほどの緊張感と静寂が支配する夕食であった。
見張りが常より多く、その視線は何れも王と向かい合って座るティナの一挙手一投足に向けられていた。
アルフレッドはギラリと睨んでいるフィリップに罰が悪そうな笑みを浮かべ
「やっぱり怒ってるな」
当然か
と心の中で呟いた。
ティナは冷静に
「私が指一つでも動かしたら斬ってしまいそうな空気だわね」
まあそれも良いかもしれないけれど
と心の中で言いながら、運ばれてきたスープを目にした。
すっとスープの匂いを嗅ぎ、目を僅かに開くと
「これは私専用なのかしら?」
毒殺師に毒入りのスープを用意するなんて
「この国…大丈夫なのかしら?」
みんな頭がお花畑かしら?
と心で突っ込んだ。
匂い。
舌。
様々なモノで毒殺師には毒が判断できるのだ。
もちろん、微量であればもう体に影響を与えることもない。
それだけ毒には耐性がある。
しかし。
とティナは周囲の兵士たちに目を配った。
「毒殺師の私がいるから…毒で王が死んでも私のせいにできると誰かが考えたとしたら?」
カナル王国も一枚岩ではなかったわ
「だからノアール家が存在したのだけれど」
フィマール王国もその可能性は皆無じゃないのかもしれないわね
黙っておくか。
知らせるか。
ティナは目の前のアルフレッドを見た。
毒殺師のノアール家の自分に薬師として人を助けろと言った残酷な王。
王宮に病院まで用意すると言ったのだ。
だが。
とティナは息を吐き出すと今まさに口にスープを運ぼうとしていたアルフレッドを見て
「…もし」
私の目の前に置いたスープと同じ鍋から王のスープを用意したのなら
「飲まない方が良いと思います」
カーミラの葉を粉末に溶かした遅効性の毒が入っています
と告げた。
アルフレッドは動きを止めてスプーンを置くとフィリップを見た。
フィリップは頷くと皿を引き
「今日の毒見役の様子を」
それから直ぐに料理に携わった全てのものを捉えろ
と告げた。
アルフレッドは顔をあげてティナを見ると
「毒見役をまだ病院の空間を作ってはいないが…助けてもらえないだろうか?」
と告げた。
ティナはアルフレッドを見ると
「お断りします」
と答えた。
「私は…ノアール家の人間です」
毒殺師の家のものです
フィリップを始め兵士がすっと剣の柄を手にした。
アルフレッドは息を吸い込み吐き出すと
「では、フィマール王国の王として」
ティナ・フォン・ノアールに
「解毒をして手当てをするように命じる」
と告げた。
ティナは立ち上がると
「毒見役を私の部屋へ」
と言い、足を踏み出した。
アルフレッドはゆっくりと椅子に座り直し
「…確かに」
つい先日まで敵国の毒殺師だったんだ
「命令でないと…動いてはくれないか」
と苦く笑った。
願いでは彼女は動かないということだ。
アルフレッドは彼女の何処か硬質な空気を醸す背中を思い出し小さく息を吐き出した。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




