その3-9
アンリエッタとマリーはそれを見送りアルフレッドの様子に小さく笑みを浮かべた。
アンリエッタは彼女に
「分かるでしょ?」
と小さく囁いた。
マリーは笑顔で
「そうでございますね」
と答えた。
「アンリエッタはフィリップ様にはもうお心を?」
アンリエッタは真っ赤になりながら
「まだよ」
フィリップは私のことを妹のようにしか見ていないんですもの
と小さく呟いた。
「それに自制心が強すぎるのよね」
アルフレッドを守ること…それがシェリル母様からの遺言だと思っているから余計に
そう愛おし気に先導して馬を走らせるフィリップを見て呟いた。
アルフレッドは反対にアンリエッタの気持ちを良く良く理解していた。
つまり分かっていないのはフィリップとティナの二人なのである。
ティナは馬車の中で座りながらにこやかなアルフレッドを前にどこか居心地が悪く感じていた。
いや、そう言う訳ではないのだが…落ち着かない気持ちを持て余していたのである。
「あの、アルフレッド王」
呼びかけられてアルフレッドはそれに
「アルフレッドで良い」
君は俺の婚約者だからな
と笑みを浮かべた。
その笑みが何時も見たことが無い甘く蕩けそうな表情なのでティナは目のやり場を失っていたのである。
ウィズダム国に着いたら毒の研究の実態とノアールの人間を調べなければならないのに…と、ティナは息を吐き出しながら
「お花畑の王がいるせいで」
変に緊張してしまっているわ
と心で突っ込んだ。
アルフレッドは何時も頑なにどこか拒否されている様子のあるティナがいつもと違って落ち着きはないものの心を開いているように見えて嬉しかったのである。
「婚約者という立場の設定が良かったのかもしれないな」
だが
と心の中で呟いた。
「ノアールの人間が本当にウィズダム国にいたとしたらティナには辛いことになるかもしれない」
そう、恐らく彼女のことである。
己の手で決着をつけようとするだろう。
同じノアールの人間を…恐らくは抹殺する覚悟は持っていると感じていたのである。
アルフレッドとしてはそこも考えておかなければならなかったのである。
彼女に生きろと言ったのは相対した時に彼女の中に狂気が無かったからである。
毒殺師一族であることは間違いない。
だが、多くの人を見てきたアルフレッドの目から見て彼女は正常だったのだ。
だから生きろと言ったのだ。
毒殺師だが薬師にもなれるのではないかと感じたのである。
そして、あのジミーを助けた時の彼女の笑みを見て彼女の本来の姿がそれなのだと確信したのである。
アルフレッドは婚約者という肩書でどうしたらよいか戸惑っているティナを前に微笑みながらも
「もし、いざという時は…俺がやらなければならないか」
と心で決めていたのである。
ウィズダム国へ向かう訪問の一団は西へ向かう太陽とは反対の方向に向かっていたのである。
そこに自らの領土を広げるために他国へ手を伸ばそうと野心を膨らませているウィズダム国の王とその部下であるピーター・アルツが待ち構えていたのである。
そして、ウィズダム国の王城の一角に住むルシフ・フォン・ノアールと名乗る男がフドールの精製液を手に用意された器具を前に暗鬱とした瞳で
「…フィマールの王…カナル王国を滅ぼした…許されざる王」
必ずこの手で
と毒を調合していたのである。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




