その1ー1
「それがノアール家の生業なのです」
ティナ・フォン・ノアールは感情なく冷静に答えた。
若干15歳の少女が世に名を広めた毒殺師とは誰も想像すらしていなかった。
地上に溢れる様々な植物や物質を知り尽くし指示された相手に飲ませる毒を用意する。
時として相手にそれを飲ませる役を引き受けることもある。
一族の生業としてそれを彼女はやってのけてきたのだろう。
フィマール王国新王のアルフレッド・トゥル・フィマールは玉座に座り息を吐き出すと
「なるほど、カナル王家が代々ノアール家を重要視してきたのは」
そう言うことだったのか
と呟いた。
両側に並ぶ臣下たちはアルフレッドを見た。
半年前にフィマールの国王がカナルの手の者に暗殺された。
その報復として攻め入りカナル王国を滅ぼした。
カナル王家全員が服毒死して果てたのである。
その毒を用意したのが…ノアール家であった。
そのノアール家の一族も同じく服毒して彼女を残して全員が遺体で見つかった。
彼女は言わばカナル王家の最期を看取った生き証人である。
生かすか。
殺すか。
アルフレッドはいまその判断を迫られていた。
ただ。
ただ。
アルフレッドは少し離れた場所に立つ彼女を見つめ
「何故、君は死ななかったんだ?」
と聞いた。
「ノアール家は君以外全員が死んだ」
君は何故死を選ばなかったんだ?
ティナはそれに視線を伏せると
「死ぬまで生きろと…エドワード王子が…仰ったからです」
恐らく
「処刑されるまで生きろと、そういう意味だと思います」
と告げた。
アルフレッドはカナル王家の第三王子を思い浮かべながら
「なるほど」
と答えた。
確かに毒殺師と名乗れば処刑されることは想像に難くなかっただろう。
だがそれを言うことに彼女は何一つ躊躇しなかった。
なのに、いま。
カナル王家第三王子エドワード・トゥル・カナルの話をした時だけ彼女の感情が現れた。
「特別…なのだろうか」
何も知らなければ華奢で美しい少女だ。
だが彼女はその細く美しい指先で毒を作り時としてそれを飲ませてきたのだ。
恐らく『それがノアール家の生業なのです』と言った時と同じように感情を見せることなく冷静に行ってきたのだ。
だが。
だが。
アルフレッドは少し見えた感情を既に胸の中に仕舞い込んで立っている彼女を見つめ
「死ぬまで、生きろか」
と言い
「エドワード王子は本当に『処刑をされろ』という意味で言ったのだろうか?」
それとも違う意味があるのか?
と自問しゆっくり立ち上がると
「ではティナ・フォン・ノアール…死ぬまで生きることを命じる」
と告げた。
ティナは目を見開くとアルフレッドを見つめた。
青い。
澄んだ青い瞳がアルフレッドを写し込んだ。
アルフレッドは騒めく臣下に視線を向け
「確かにこのまま毒殺師である人間をフィマールの中に放逐するわけにはいかない」
なので王である俺が見張ることにする
「俺の側で毒殺師ではなく薬師として殺した人々と同じだけの人々を救うことを命じる」
と告げた。
毒殺師ならば薬師にもなれるはずである。
…ただし彼女にその気があれば、であるが…
ティナは両側の人々のざわめきを耳に
「なんて残酷な人」
毒殺師を生業としているノアールの人間に人を救う薬師になれなんて
「なんて残酷なことを言うのかしら」
とアルフレッドを見つめた。
カナン王国が滅亡して3日目の快晴の空が広がる正午のことであった。
毒殺師一族の悪徳令嬢は敵国の王宮で奮闘する
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




