番を傷付けたから許さない? ならば戦争だ。
多分、姉の心理を書くと、どうしても性格が悪くならざる得ないので、ほぼ書いてないです。
獣人達の雄は番を何よりも大事にする。だが出会いのタイミングも出会いの相手も選ぶ事は出来ない。一生会わずに番ではない相手と結ばれるパターンも多い。と言うより番と出会えるパターンの方が珍しい。しかし故にこそ、番は運命の相手と尊ばれる。尚、番より生まれた子は素晴らしく優れた能力を持つので、相性の良い遺伝子を持つ相手を求めているのではないかと考えられている。また、それを裏付けるかの様に実際、番を感知した雄は10代半ば〜30代前半、感知される雌は10代後半〜30代後半くらいの年齢層の中にある。
そんな獣人達は獣人ではない人類よりも数が少ないが、その運動能力や状況判断力は人類よりも素で優れている。
千数百年前。獣人が番と見定める相手は同じ獣人だけに限らない事が知られていた。人類が相手に選ばれる事があったからだ。
そして人類が相手であった場合、相思相愛なハッピーエンドだけとは限らない。人類には番と言うものを受け入れる本能が無く、人類が獣人を愛するとは限らないからだ。
そんなケースの場合、人類はほぼ間違いなく誘拐される。獣人が人間よりも身体能力が優れている為だ。下手に止めようと周囲が動けば、周囲が傷付けられ、最悪殺される。
そんな獣人達は、当時は国と言う形では纏まって居らず、個人単位で動いていた。それが救いだった。その頃から国を築いていた人類は対獣人に力を合わせ、遂に生きていく事も難しい、ある辺境に押し込め、管理する事に成功した。このまま絶滅してくれれば、と願った。
しかし。
獣人達はその厳しい環境に適応した。以前よりも更に高い能力を得た。知能も高くなった。国として纏まり、管理される立場から独立した。その際、「『番を見定めたとしても、相手が人類ならば人類のルールに合わせる』事は不可能故に、国外に出るのは盛りを過ぎた雄か番を見定める事が出来ない雌のみ。逆に人類を国内に招く場合は男性のみ。但し婚姻を目的としたケースやその他、この条約の外になる様な契約を結ぶ時が有るならば、必要な条件をその度に付随させる」と正式に国交を結んだ。
そしてそうなると、少しずつ国同士の交流が始まり、遂に軍事利用の為、政略婚を勧めた国が現れた。しかしそれは悲劇の始まりでもあった。獣人の血を入れた為に起こってしまった惨劇もあった。やがて確かに戦争も勃発し、数多の命が消えた。
こうした歴史を繰り返し、様々な条約が結ばれ、また破棄されて行く……。そしてやがて獣人達が人類と混じり合う中で、特別な力に目覚める者が現れたり、全獣人達が社会的ヒエラルキーのトップに踊り出たりするのと比例し、王政は解体されて行き、民事主義へと社会は以降した。そして現在、獣人の番に選ばれる事は、獣人の血を引かぬ人類には大きな憧れとなっていたーー……。
古き国。ホーリンラブ国。彼女は極普通の経済力を持つ家に生まれた。父と母と年子の妹が彼女の家族だった。姉と妹は全く似ていなかった。両親の良い部分をバランス良く受け継いだ妹は正に絶世の美人。しかし彼女は両親の余りパッとしない処をバランス悪く受け継いで不細工だった。
両親は姉と妹に差を付けて育てた。妹は何をしても、何をしなくても褒められ、けれど姉は何をしても、何をしなくても叱られ、時には手を上げられた。
妹は姉を見下し、時には嘘まで吐いて、姉を両親に叱らせ、嘲笑する。そんな中、15歳になった妹はある熊の獣人に番と見初められ、婚約し(婚姻=番契約締結は20歳以降と定められている)、益々増長した。
獣人は番を本能で嗅ぎ分ける為、妹の容姿の美しさも性格の極悪さも関係無い。姉への嫌がらせも「妹を不快にさせた姉が悪い、そんな目に遭って当然だ」と言う考えを持っており、妹が姉を責め立てると、必ず大きな拳で殴ったり、硬く鋭い爪で切り裂いたりした。最も跡が残る様な処まではしていない。大怪我はさせていない。一応、獣人が人間に対する、番を守る為の行為として、ギリギリ社会的に犯罪の域に達しない程度にはしているのだ。
そんな環境で育った姉は根暗で自信を持てない陰キャに育った。友人もおらず、誰もが可愛く明るい妹と比較し、姉を悪く言った。姉には家にも学校にも居場所が無かった。
17歳になり、ある獅子獣人に見初められるまでは。
彼女は、彼女を見初めた獅子獣人に攫われる様にして、家を出た。その際、今までの彼女の扱いをその獅子獣人は許さなかった。熊獣人を鋭い爪で攻撃した。熊獣人がまだ10代であったが、獅子獣人は20代で、年齢から来る能力の安定が2人の勝負の明暗を分けたーーと言うのも否定出来ないが、まあ、実際には不意打ちだったと言うのが理由だろう。獅子獣人の突然の猛攻に片目を潰されてしまった。獣人は回復力が高いので失明する処まではいかなかったが。
その後、獅子獣人と婚約した彼女は少しずつ自尊心を回復させていった。しかし姉が幸せになるのを、妹は許さなかった。姉の両親も獣人と婚約したに関わらず、ヒエラルキー上位の熊獣人から自分達の為に援助する様に動いている妹とは違い、その様な事を一切合切しない彼女に文句を言った。それを獅子獣人が許す筈が無い。
「我が番を傷付ける者は許さん」と言い放ち、熊獣人の一族と話を付ける事にした。
熊獣人達に望む事は跡取りであった彼等の婚約解消。若しくは彼自身の一族追放。一族の後ろ盾を失った彼女を虐げた者達に制裁を加える予定だった(獣人にとっては番相手との別れは何よりの罰となるので、それを受け入れるならば妹の相手の熊獣人にはそれ以上の事をする気は無かった。しかし別れないならば彼女を虐げた家族諸共破滅させる気は満々に有る)。また序に彼女を虐めた学生、虐めを見て見ぬ振りをしていた学校全体も只で済ます気は無かった。彼は番を守る自身の正義に皆が従うと無意識に思い込んでいた為、迷いも躊躇いも無かった。
だがその心を実際の行動に映す前に、番契約管理庁を名乗る者が現れた。
番契約管理庁。
彼等は獣人と人類が交わる中、突如として生まれた特殊能力の使い手である。所謂、突然変異で生まれて来た者達だ。彼等は獣人達の持つ身体変化能力は無いが、純粋に戦闘力が高く、所謂、魔法的な能力も併せ持つ。
しかし番を見付ける能力を持たず、その感性は人間寄りであった。彼等は獣人と人類の共存社会の礎を築き、そして少しずつ、社会を人類寄りに作ってきた。
彼等は獣人の野生的ルールに応対する時は思いっきり能力を使うが、人間社会への応対は人間が定めたルールに従う。
「先日、熊獣人と獅子獣人が番とその家族の関係性を巡り、争ったと報告を受けました。そちら側の詳細をお伺いしたい。」
タイミング的に「いざ!」と言う場に立ち塞がれた形となり、彼は眉間に皺を寄せる。
「奴等は我が番を傷付けた。許す事は獅子獣人一族の恥だ。これから奴等と話を付けに行く予定だ。」
彼は自分の考えを余す事無く告げる。一刻も早く事に移りたかった彼は考えを隠して、取引等と言う真似はしなかった。
「『番の為に獅子獣人一族を許さない』と熊獣人一族は主張しておりましたが。」
「良い度胸だ。ならば戦争だ!」
そう告げた瞬間だった。彼の肉体が塵となって崩れて行く。
「我等番契約管理庁は、獣人族と人間が番う際、その社会性の違いが起因となるトラブルを解決する為の機関。我等を無視した獣人同士の戦争等許す訳が無いだろう。
トラブルがあっても、報告に来ず、勝手に自分の正義を振り翳し、他者への攻撃を正当化する。お前やお前に同調する一族をそのままにすれば、人間社会にどんな迷惑を掛ける事に繋がるか……。」
番契約管理庁は人間社会に仇を生さぬ為の組織。獣人に軽んじられては役割を果たせない。だから自分達を無視する獣人は決して許さないのだ。
以前、熊獣人一族は跡取りに番が出来た時、きちんと報告に来た。その際、番の家族が姉からすれば毒家族である事は調べが付いていた。
こう言った問題が後々思わぬ事態を引き起こす可能性は0ではない。故に番契約管理庁は人類の公的組織にきちんと実態相談と報告を行い、姉に付いて任せていた。
人間よりの感性を持つとは言え、やはり彼等も獣人。勝手に動いて人間社会の軋轢を生む訳には行かず、それ以上の事は出来ない。そして姉は放置された。人類側の公的組織が動かなかったからだ。その理由は知らないし、そこまでは入り込まない。
そして今回、姉は獅子獣人に見初められた。獣人は番を本能で嗅ぎ分ける為、姉の不細工容姿もオドオドした性格も関係無い。夢中になって、熊獣人を攻撃し、騒ぐ毒家族から姉を攫った。
そしてーー、その事を番契約管理庁に報告していなかった。
忘れていたのである。番に出会い、夢中になって報告を忘れるのは良くある話ではあった。だから番契約管理庁は獣人の動向に常に注意を払っていたし、余りにも報告が来ないならば自ら出向き罰則も与えていた。
以前の熊獣人も忘れていて、報告が遅れたが、許容範囲ではあった。今回の獅子獣人の件も只の番契約としては許容範囲内ではあった。しかし今回の番契約はトラブルが既に生まれている。これを通常同様には片付けられないし、熊獣人の方からは今回のトラブルと番に関しては速やかに報告も来た。
この時点で獅子獣人は不利だった。
第三者機関としてどちらか一方の獣人族への味方をしない代わりに、自身達を蔑ろにする獣人族は完全に敵対されるのだ。
こうして獅子獣人の跡取りは始末された。姉との番契約は無かった事になる。もし獅子獣人が番契約管理庁を蔑ろにしなければ、最悪、熊獣人と獅子獣人の双方の跡取りが始末され、一家そのものが獣人から遠ざかると言う、喧嘩両成敗になっただろう。どちらも所詮、番の為に敵を許さない行為を正義として執行しているだけに過ぎないのだ。どちらかだけが悪になる事は無い。
もしこの結末に一族が納得しなければ更なる悲劇が生まれただろうが、一族の長(跡取りの親)はこの結果に従った。番ではなく、政略で結ばれた長は冷静であった。嘗てまだ番契約管理庁が無かった時代、良く似た事例で狼獣人と虎獣人との間で滅亡一歩手前まで争いが有った事を重く見ていたのだ。
そして長がこの沙汰を受け入れた為に、結婚もしていなかった姉は、婚約を無かった事にされた姉は獅子獣人の一族から出された。番では無くなった彼女は只の陰気な不細工だ。綺麗になる努力も、誰かと親しくなる努力もせずに、泣き寝入りしていた環境に戻された。
棚ぼたは餅を食べ尽くせば無かった事になる。
白馬の王子様との出会いも祈るだけでは不十分だ。
理不尽と戦う覚悟と勝利する才能。コレらの為、花開くか分からない努力が必要な境遇を嘆いても仕方無い。姉の不幸は、姉が味わう理不尽は姉のせいではないけれど、敗北している状態を許す程、世間は優しくないし、身勝手だ。
お読み頂きありがとうございます。大感謝です!
前作への評価、ブグマ、イイネ、大変嬉しく思います。重ね重ねありがとうございます。




