缶コーヒーの空き缶に野花を一輪挿す
社員を引き連れて所有する人里離れた山奥の廃坑に来た。
鎖で廃坑がある私有地を閉鎖していたのに何故か鎖が外され、私有地内のプレハブ小屋の脇に見慣れない乗用車が停まっている。
誰の車だと思っていたら、廃坑の中から若い男がよろめきながら出て来た。
男は俺達を見て助けを求めて来る。
「助けてください、友達がまだ中にいて動けないんです」
助けを求める男を良く見ると、目耳鼻から血を流し剥き出しの腕に鬱血が見えた。
「どこら辺にいるんだ?」
「ドラム缶が積まれている所から、2〜300メートル程手前です」
「ふーん、一番奥まで行ったのか、オイ! 空のドラム缶あったよな?」
男たちが何処まで入ったのか聞いた後、部下に声をかける。
「ハイ!」
男がよろめきながら俺達の方へ近寄って来たので、ショベルカーの運転席にいる部下に合図を送りショベルカーのバケットで抑えつけさせた。
「何をするんだ!?」
「フン、私有地に勝手に入り込んた不法侵入者が喚くんじゃネー!
あのドラム缶の中身は放射能廃棄物だ。
お前たちは放射能に被爆したんだ、だから目耳鼻から出血したり鬱血ができたりしているのさ」
「そんな、それじゃ……」
「察しが良いな、被爆しているお前もドラム缶に詰められてあの場所に置かれるんだよ」
「犯罪だぞ! 人殺しー!」
「犯罪だって? 私有地に不法侵入した輩が喚くんじゃネーヨ。
大方、探検家気取りで何のリスクも考えずに廃坑に入ったんだろう。
だからお前らの自業自得だ。
放射能廃棄物は政府から頼まれた物で政府もその事を知られたく無いだろうから、人が一人二人行方不明になっても気にしないさ。
それに俺達が此処にいるのは、臭いものには蓋をしろって事で廃坑を閉鎖しに来たんだ、お前たちの死体が万が一見つかってもそれは数百年後の事だろうさ」
男をドラム缶に詰め男たちが乗って来たと思われる乗用車のトランクに押し込む。
乗用車をブルトーザーで廃坑の最奥まで押して行き、途中で死んでいた男の友達の死体も乗用車に放り込んだ。
最奥まで押し込み放射能廃棄物が入ったドラム缶と共にコンクリートで覆う。
その後は廃坑を土砂で埋め、廃坑の出入り口をコンクリートで塞いで作業終了。
作業を終了して手の埃を払っていた俺の目に缶コーヒーの空き缶が映ったので、缶コーヒーの空き缶にそこらに生えていた野花を一輪挿し、コンクリートで覆われた出入り口の前に置いた。
「化けて出るなよ」と呟きながら。