『第九章 はぐれエルフ』
道中魔獣を狩りながら歩き、レイガはついに街にたどり着いた。
「念のためフェニス、俺の手配書の流通はどうだ?」
「・・・一切ない。噂程度はあるがお前だとバレることはなさそうだ。」
「オッケー、行くぞ。」
流石に正門からは入れないため、門から少し離れた場所まで行き壁を登って街に入った。
町中は至って普通で賑わいのある場所だった。
レイガは道中狩った魔獣を清算するためギルドに足を運ぶ。
「すまないが買取を頼めるか?」
「はい!買い取りでしたらあちらの窓口へお願いします!」
元気のいい受付嬢に案内され、レイガは買い取り窓口に立つ。
「兄ちゃんか?買取を希望したのは?」
如何にも解体が得意そうなムキムキガタイのおっさんが出迎える。
「あぁ、これを頼む。」
レイガは袋から猪の魔獣を三体出した。
「ほぉ、ブレイクボアか。油が乗っててなかなか美味いと評判の魔獣だ。これは言い値で買い取れるぜ!」
その逞しい筋肉と裏腹にコツコツと計算をしたり計簿をまとめる。
「はいよ!三頭で銀貨三十枚だ!状態もいいし銀貨が妥当だ!」
いい笑顔で貨幣の乗ったトレイを差し出す。
(人の優しさは俺にとっちゃ眩しいな・・・。)
そんなことを思いながら貨幣を受け取りギルドを後にしようとすると、
「おい。」
後ろから質の悪そうな冒険者に声を掛けられた。
「お前がどこの誰か知らねぇがあまり魔獣を狩るんじゃねぇぞ?俺達の仕事が無くなっちまうからな。」
仕事を奪われた事とただ単に気に入らないのか妬んだ目でこちらを睨みつけてくる。
「そうか。だが安心しろ。お前らの生活に支障が出ない程度に好きにやらせてもらうから。」
「っ!見た感じ冒険者じゃなさそうだが?冒険者は平民より身分が上なんだよ!言葉と態度には気を付けろ!ただじゃ置かないぞ!」
すると回りの冒険者がヒソヒソと話し始めた。
「おい、またアイツだぞ。気に入らない奴がいたらネチネチ身分のマウントを強調してきやがる。冒険者も平民と大して身分は変わらないのによ。」
そんな小声が交差する中、レイガはさっさと冒険者を振り払おうとする。
「じゃ、そう言う事で。」
「おい待て!まだ話は終わっていないぞ!」
怒鳴る冒険者がレイガの肩を掴んだ瞬間、とてつもない威圧を感じた。
「ヒッ⁉」
情けない声を上げてレイガの肩を離す。
取り巻きの二人も彼から発せられる七つの重圧に息を忘れる。
「用が済んだならもう行くぜ。」
清ました顔でギルドから出ていくレイガ。
残った三人の冒険者はただ立ち尽くす。
「何だ、今のは・・・?」
また街の壁を登り外に出る。
「さて、とりあえず旅費を稼ぐためにもうちょい魔獣をある程度狩るか。」
「だったら、ここから東の方角、魔獣の群れ、いる。」
「うぉっ!急に喋ったな、グラニー・・・。」
レヴィアスと違った少女の声がした。
物静かなためか突然喋られるとびっくりする。
「お腹、空いたから、魔獣、食べさせて。」
「そう言えば何も食ってないし買ってなかったからな。よし、狩った魔獣の一部は皆で食うか。」
「よし!」
「良かろう。」
「やったー!」
数人が喜びレイガはブレイクボアの群れを掃討する。
「これだけあれば十分だろ。」
すると誰かの腹の虫の音が鳴った。
「分かったって。今人数分用意するから。」
「・・・今の腹、誰だ?」
「私ではないぞ?」
「私も。」
「俺でもない。」
「・・・違う。」
体内に居るので見えないが全員が首を傾げている。
「じゃぁ・・・今の音は?」
するとまた空腹の音がした。
後ろを振り返ると木の陰に誰かがいることに気付いた。
「誰だ?出てこい。」
「・・・・・。」
ガサガサと草木の隙間から薄汚れたエルフの少女が出てきた。
その薄緑色の髪と瞳には見覚えがあった。
「お前・・・、あの時罪の魔物から出てきたエルフ!」
そう。
以前どす黒い靄を纏った罪の魔物に取り込まれており、レイガがそれを食らったことで助けたエルフの少女だった。
「何でお前がここに?切株の中に隠したハズだが?」
「気付いてなかったのか?あれからずっとお前を付けてきてたぞ?まぁ流石に鉱山には入ってこなかったが。」
そんな前からつけてきてたとは・・・。
見た所十代になったばかりの容姿だが。
少女はゆっくりレイガに近づくと裾を引いた。
「何だ?言いたいことがあるならハッキリ言え。」
本人は無意識かもしれないが幼い少女に若干の圧がかけられてる。
少女は少し涙目になってしまった。
「レイガ!圧が漏れてるぞ。幼子に貴様の負の感情は刺激が強すぎる!」
ルシファードに言われレイガは圧を押さえた。
「で?何で俺を付けてきた?」
「・・・・・。」
レイガが問うが少女はだんまりだった。
途中口を動かしたが何故か声を出せないでいた。
「貴女、声が出せないの?」
レイガの身体から竜の頭が現れ、エルフの少女は泣きそうな顔になってしまった。
「急に出てくんなレヴィアス。悪い、分け合ってこういう奴らが俺の体内に複数いる。悪い奴等じゃないから安心してくれ。」
竜の顎を撫でるレイガ。
撫でられたレヴィアスは満足そうな表情をしていた。
すると少女のお腹が鳴る。
「おっと、腹が減ってたんだったな。一緒に食うか?」
少女は目を輝かせて興奮気味に頷いた。
身体から竜の頭が二頭出てきて仕留めたブレイクボアを解体する。
上手く連携しており何より手際がいい。
「解体は几帳面なレヴィアスとグリードに任せて我らはこの娘の今後について考えなくてはな。」
ついてきたという事は帰る場所がないという事。
こんな幼子を放っておけるほどレイガは腐っていないためどうにかしようと考える。
しかし指名手配され追われる身となっているレイガ。
連れていくにしてもリスクが伴う。
「こういう時こそギルドに預けるのが一番良い選択だが・・・。」
少女を見るとレイガのマントを引っ張って首を横に振っている。
「何やら訳ありのようだな。詳しい訳を聞けないのが残念だが。」
「お前等はどう思う?」
ブレイクボアを解体するレヴィアスとグリードに問う。
「どうするって言われても、俺は外で暴れたいだけだからな・・・。足で纏いは要らないと思うぞ?」
「ちょっとグリード!なんてこと言うの!」
突然レヴィアスがど突く。
「こんな幼い子供放っておけるわけないでしょ!お兄ちゃん!連れていこう!せめてその子が安全に暮らせる場所まででいいから!」
「おい何かってに決めてんだ!」
「うっさい!心のない男は黙ってて!」
「誰が心ないだ!あぁ⁉」
ヒートアップする二人の喧嘩をアスモデニスに止めさせ話を戻す。
「正直な事を言うと我もレヴィアスと同意見だ。この者が罪の魔物となった理由も詳しく知りたい。だが決めるのはレイガだ。どうする?」
レイガはしばらく黙り込み、かつての仲間に裏切られ捨てられた時を思い出した。
「・・・決まってる。コイツが心を許せる相手が見つかるまで、俺が面倒を見る!」
少女の頭を撫でながら決意した。
「貴様ならそう言うと思ったぞ。」
「ちっ、しゃーねぇ。俺達の主が決めたんなら黙って従うさ。」
「それでいいのよ。」
皆も納得しエルフの少女を連れていくことになった。
名前を伺った所、地面に文字を書いて教えてくれた。
「『イフル』と言うのか。良い名だな。」
ルシファードに褒められニッコリとほほ笑む少女だった。




