『第二十四章 罪の荒くね』
レイガ、エルク、キリの三人が広いノース砦の中を走り、最深部へと到達。
そこには異様な光景が広がっていた。
「なんだこれは?」
辺りには蜘蛛の糸が張り巡らされており、何人もの盗賊たちがグルグル巻きにされていたのだ。
「これは、糸?」
「蜘蛛の糸だな。だがこの強度と量、ただの蜘蛛じゃねぇな。」
すると部屋の奥から戦闘音と共に一人の大男が現れた。
大男の次に奥から現れたのは巨大な蜘蛛だった。
だがただの蜘蛛ではない。
頭部には上半身が人間の女性の魔獣、アラクネだった。
「アラクネ⁉高位の魔獣がなぜ砦の中に⁉」
「くそ!何だってんだよ!なんで俺達を襲うんだ!」
アラクネは鋭い蜘蛛の前足を振り下ろし大男を攻撃する。
「クソッタレが!」
負けじと剣を振るうもアラクネの吐き出した糸に絡まれ武器を落としてしまい、腹部を前足に貫かれた。
「チクショォォ!」
そして大男はアラクネに貪り食われたのだった。
「コイツは厄介だな。」
「厄介なんてレベルじゃないぞ!こんな所にアラクネが出現するなんて報告は今までなかった!想定外の事態だ。エルク様!一度退避しましょう!」
キリがそう叫ぶと、
「いや、それはおススメしねぇ。」
「レイガ?」
「奴をよく見ろ。身体から黒い靄が漏れ出ている。」
「という事は・・・!」
「奴が罪の魔物になりかけてる大元だ。」
大男を食らい終わったアラクネは今度はレイガたちに振り向いた。
「っ!今度は私達を狙うか!」
剣を構えるキリとエルク。
「放置すれば罪の魔物に成り果てる。そうなればお前等じゃ太刀打ちできねぇだろ。今のうちに叩くか?」
「当然だ!」
「なら任せる。」
「・・・は?」
レイガは振り返り下がっていった。
「俺の仕事は罪の魔物の相手。それ以外は手を出さない。お前等がどこまでできるか見せてみろ。」
「な、何を言って・・・⁉」
「キリ!来るぞ!」
アラクネが跳躍し上から二人に襲い掛かる。
「どういう了見だ貴様!脅威を目の前に手を出さないだと⁉貴様の仕事はエルク様の護衛だろ!」
「確かに護衛として引き受けさせられたが主な目的は罪の魔物に遭遇した際の対処だ。まだ魔獣であるならお前等でまだ対処できる範囲だ。」
「くっ!なにを屁理屈を・・・!」
「集中するんだキリ!今は彼の言う事が正しい!全てを彼に任せるわけにはいかないんだ!」
「エ、エルク様まで・・・?」
アラクネが無数の糸を操り瓦礫を振り投げて攻撃してくる。
エルクとキリは軽快な身のこなしで瓦礫の雨を掻い潜りアラクネに攻撃。
脚を一本切り落とすことに成功した。
「流石です!エルク様!」
「まだだ!キリ、コンビネーション行くぞ!」
「了解です!」
二人は共に走り出し見事な連携でアラクネを圧倒していく。
「ほう。なかなかやるじゃねぇかアイツ等。」
体内のグリードが称賛する。
だがレイガはずっと険しい表情をしていた。
「・・・グリード、アラクネの罪を見てくれ。」
「あ?何でだ?」
「気になることがある。」
吐き出す糸を剣で切り裂き前足を絡めとるエルク。
「今だキリ!」
飛び出したキリがアラクネの猛攻を掻い潜り懐に入った。
「剣技魔術・ドラゴブレイブ‼」
剣に振動と光が纏った強力な一撃がアラクネの懐に炸裂。
頭上へと飛ばしエルクが跳躍する。
「剣技魔術・獅子嚇し‼」
エルクの獅子を模した一撃も命中しアラクネを叩き落としたのだった。
「いいタイミングだった。流石だキリ。」
「エルク様こそお見事です。」
二人が互いに褒め称えていると、
「っ⁉キリ!」
突然エルクがキリを突き飛ばした。
その瞬間、エルクは蜘蛛の糸に捕まってしまい壁に貼り付けられてしまった。
「エルク様!」
そこへアラクネが起き上がってきた。
よく見ると傷口が再生しており、体中から更に黒い靄が溢れ出ていた。
「貴様!よくもエルク様を!」
するとアラクネの様子がおかしい事に気付く。
「・・・ユル、サナイ!人間は、全テ・・・、許さナイ!」
(っ⁉このアラクネ、言葉を⁉)
「やはりか。」
「お前も気付いたか。レイガ。」
体内のルシファードが問う。
「あぁ。奴から感じる罪は、喪失の怨念だった。おそらく奴は大切な何かを奪われ憎悪に飲まれている。」
「どうする。あのままでは直に罪の魔物に成り果てるぞ。」
「問題ない。俺達ならな。」
アラクネが言葉を話した事に驚いたキリだがすぐ剣を構え直す。
「貴様はエルク様を傷つけた!その罪、万死に値する!」
主君のエルクを傷つけられたことで怒り心頭のキリは今にも飛び掛かりそうだ。
「待てキリ!そいつはもうほぼ罪の意識に飲まれた。それ以上戦うと危険だぞ!」
「黙れ!お前の指図など無用だ!この魔獣だけは、この害獣だけは私が倒す!」
完全に怒りで周りが見えなくなっておりレイガの言葉にも耳を貸さない。
(害獣か・・・。)
「うおぉぉぉ‼」
無鉄砲に走り出すキリは足による攻撃を掻い潜り蜘蛛の頭部に剣を突き刺す。
するとアラクネと目が合った。
「死ね!」
剣を引き抜き今度はアラクネの胴体に突き刺した。
「思い知ったか。私の怒りを・・・!」
殺意が一瞬薄れたその時、突如アラクネが身体中から黒い靄を噴き出し始めた。
「っ⁉」
「離れろキリ!」
糸に絡まれたエルクが叫ぶが既に手遅れ。
膨張する黒い靄にキリがずぶずぶと引きずり込まれる。
「キリ!」
「エルク様・・・!」
そして彼女は靄に飲み込まれ、アラクネは罪の魔物へと変貌してしまった。
「ギョアァァァァ‼」
生物からかけ離れた声で叫ぶ罪の魔物。
「そんな、キリが・・・!」
「核を得て早い段階で罪の魔物に成り果てたか。とことん余計な事をしやがるな。あの女騎士。」
「レイガ!頼む!キリを助けてくれ!」
必死の表情で訴えかけるエルクを見たレイガは右腕を竜の首に変え炎を放つ。
そしてエルクに巻き付いた糸を溶かし救出した。
「お前は隠れてろ。ここからは、俺の仕事だ!」
背から二つの竜の首を出し肩に固定すると大きく口を開け熱を噴射する。
そして一気に加速し罪の魔物に強烈な蹴りを入れた。
(飛べるようになったことで機動力が爆発的に上がったな。故に、楽しむ余裕が出来た!)
獲物を狩る眼をぎらつかせながらレイガは空間を自在に動き回り罪の魔物を翻弄する。
一方的な戦闘にエルクは言葉を失っていた。
(なんて荒々しい戦いだ・・・。彼の戦闘を間近で見るのは二度目だが、あれはまさに、圧倒的捕食者!)
レイガは下部からのサマーソルトを決め罪の魔物をひっくり返すと、
「エルク!物陰に隠れてろ!少し強引な手段を取る!」
言われた通りエルクは石柱の陰に身を潜めるとレイガは低空飛行で再度加速し罪の魔物を持ち上げた。
「グリード!グラニー!」
両腕が竜の首と化し特大のブレスを発射。
天井を突き破り砦の遥か上空へと打ち上げられた。
「っ⁉何だあれは⁉」
外で待機していた兵士たちは突然打ち上がった罪の魔物に驚いたが更に驚くことに、レイガも魔物を追って飛行していったのだ。
殴る、蹴るの繰り返しでどんどん上へ上へと突き飛ばし、最後は上に回り込み地上へ向かって叩き落した。
再び室内に落とされた罪の魔物はダメージですぐには起き上がれそうにない。
その隙にレイガも上空から降りてきて身体から七頭の竜を構える。
「いろいろ混ざった罪のようだがまあ味は無難だろう。その罪、俺達が食らってやる!」
レイガは高く跳躍し罪の魔物の頭上を取る。
「『狂乱の晩餐』‼」
七頭の竜をけしかけ罪の魔物を貪り食っていく。
そのおぞましい光景を見たエルクは吐き気を催し顔を青ざめて口元を塞いだ。
魔物を食らっていくと光り輝く核が見えた。
「そこだ!」
一頭の竜が核に食らい付いた瞬間、とある記憶がレイガに流れ込んできた。
化け物に張り果てる前の、アラクネの記憶を・・・。




