『第二十三章 砦にたむろう脅威』
王子エルク率いる王国軍は盗賊に制圧されたノース砦を奪還すべく、北へ向かっていた。
「そのノース砦にはどのくらいで着く?」
馬に乗るエルクにレイガが問う。
「国境を見張る砦だからね。王都からはある程度距離がある。このペースで進むと二日後には着くはずだ。」
「そうか。」
「・・・それよりも、君は本当に徒歩で良かったのか?馬くらい全然貸してあげるけど。」
「いらねぇよ。俺は歩いた方が楽だ。」
「貴様、また王子の好意を無下に・・・!」
後ろのキリが歯を食い縛って震えていたのだった。
その日の野営。
兵士たちが各々過ごしている中、エルクとキリ、レイガの三人はテントの中で今後の方針について話し合っていた。
「これがノース砦の見取り図だ。砦は国境の境である岩山の隙間に建っている。唯一の一本道だから国境を超えるには必ず通らなければいけない。」
テーブルに広げた地図を指さしながら説明するエルク。
「一本道か。となると接近に気付かれる可能性があるな。夜に奇襲するか?」
「それも一つの手だが、僕もその盗賊について少し調べててね。盗賊団の名は『鷹のかぎ爪』。指名手配もされてる凶悪な盗賊のようだ。名が広がってるという事はそれほどの厄介性を持つ連中のはずだ。まともに戦って無事で済む保証がない。」
「奇襲でもですか?」
「おそらくね。」
エルクとキリが頭を悩ませていると、
「なら俺が先行しよう。」
「え?」
「お前等は国の重要人物だ。ならず者の俺なら万が一があっても何の支障もない。」
「いや、支障はあるよ。罪の魔物を倒せるのは君しかいないんだ。君ももう我が国の、いや、人類にとっての重要人物だ。」
「指名手配犯で人殺しでもか?」
「そ、それは・・・。」
エルクは言葉を詰まらせる。
「生憎だがお前等の指示に従うつもりはない。俺は俺のやり方でやる。そこだけは覚えとけ。」
そう言い残しレイガはテントから出ていった。
「・・・エルク様。やはり私は、彼を信用できません。そもそも犯罪者と共に行動することが納得できません。」
「父上の命令でもかい?」
「はい。」
真っ直ぐ答えるキリにエルクは小さな息をつき頭を抱えた。
「キリ。君は罪の魔物の脅威をどの程度把握している?」
「何ですか突然?」
「いいから答えて。」
「・・・人類存亡の危機です。罪の魔物は人を食らう怪物。放っておけば奴らに怯え苦しむ人たちが増え、いずれは・・・。」
「そうだね。他には?」
「他?奴等を駆逐する以外何かあるんですか?」
「・・・いや、いい。君の考えてることは少し理解できたよ。」
何やら含みのある言い方だがエルクは、
「キリ。確かに僕達人類の悲願は罪の魔物の駆逐だ。でもただ駆逐するだけが目的じゃないんだ。奴らのもたらす被害は、君の想像をはるかに超える。いずれ君にもそれを知ってもらいたいと思ってるよ。」
「?」
首を傾げるキリだがエルクはそれ以上話さず、その場は解散となったのだった。
その夜、王国軍の野営地が静かになった頃。
遠く離れた森の中を大きな何かが通過していた。
「ユルサナイ、ゆるサナい・・・、人間ハ、絶対に許さナイ・・・!」
翌日。
国境を壁沿いにそびえる岩山。
そこに唯一の道である裂けめに立ち塞がる巨大な砦『ノース砦』。
そこでは砦を占拠した盗賊団と数人の冒険者たちが何やら戦っていた。
それはかつてレイガを裏切った仲間、フリック達だった。
「きゃぁ⁉」
「セリネ!」
盗賊の一人に殴り飛ばされる魔術師のセリネ。
メンバーのアミンやヘルプの冒険者二人も盗賊相手に手も足も出せないでいた。
唯一剣士のフリックだけはギリギリ戦えてたが馬鹿正直に正面から突っ込むため盗賊にあっさり対処されてしまう。
「なんだコイツ等?冒険者に嗅ぎつけられたから多少ビビったが全然弱いぞ?」
「これなら楽勝だな。」
ヘラヘラと笑う盗賊たち。
ヘルプの冒険者たちは既に満身創痍。
だがフリックは、
「何休んでやがる!お前等も戦え!」
「む、無理です・・・。相手が強くてもう戦えません・・・。」
「チッ!使えない奴等だ!」
「そう言う事言わないでよフリック!私達からこの人たちにお願いしたのに!」
アミンが訴えるが、
「うるさい!こんな使えない奴等だったらヘルプなんか頼まなかったぜ!」
その言葉にヘルプの冒険者たちは憎しみの眼を睨みつける。
「フリック!このままじゃ!」
セリネに言われフリックは苦渋の決断をする。
「クソが!お前等覚えてろ!」
捨て台詞を吐きフリック達は退いていった。
「それ盗賊がよく使う台詞じゃね?」
負傷したヘルプの冒険者たちを連れながら岩山を下るフリック達。
「くそ!この俺があんな奴らに!」
ブツブツと愚痴をこぼすフリックにアミンが何かを思い詰める表情をする。
すると前方から何かが来ている事に気付く。
それは王子エルクを先頭に進軍する王国軍だった。
「あれは、アルーシア軍?なんでここに?」
「そうか!王国軍自らあの盗賊どもを討伐しに来たのか!ははは!ざまあ見やがれ盗賊ども!」
高らかに笑うフリック達を横目にエルク達が横切る。
(冒険者?盗賊の討伐依頼で来たのか。あの状況を見るに、退いたんだな。しかし妙だ。数名があまりにも重傷だ。そんなになるまで戦ったのか?)
キリが何か疑問に思ったが今は任務に集中する。
「よっしゃぁ!俺達も行くぞ!」
「え?行くってどこに?」
「決まってんだろ。盗賊どもが王国軍にぶっ倒される様を拝みに行くんだよ。」
「あら。それ最高じゃない。」
「な、何言ってるの⁉非常識にも程があるよ!それにこの人たちを早く治療しないと!」
「じゃあお前がやってろ。俺達は行くからよ。」
「フリック!セリネ!」
アミンの言う事に聞く耳も持たず二人は砦の方へ戻って行ってしまった。
「信じられない・・・。」
「なんて奴等なんだ・・・。」
負傷したヘルプの冒険者たちもフリック達の身勝手すぎる行動が信じられないでいた。
「ごめんなさい・・・。私達のせいで・・・。」
「いや、大丈夫だ。ヘルプを承諾したのは俺達だ。でもまさかこんな扱いをされるとは思わなかったけど・・・。」
「・・・ごめんなさい。」
アミンが謝りながら治癒をかけていると彼女の後ろを何かがもの凄い勢いで通り過ぎていった。
一瞬だがアミンはその人物の顔を見た。
「・・・レイ、ガ?」
アミンはすぐに立ち上がるもレイガは既に見えなくなっていた。
「どうしたんだ?お嬢ちゃん?」
「ごめんなさい。私も行きます。」
「え、お嬢ちゃんまで⁉」
「さっき後ろを通った人、私の探してる人に似てた気がしたんです。どうしても確かめたくて・・・。」
アミンはバッグから回復薬を取り出し冒険者たちの側に置いた。
「すみません。すぐ戻ります!」
そうしてアミンも砦の方へ向かったのだった。
・・・残されたヘルプの冒険者たちは互いに顔を見合わせる。
「あの子はともかく、さっきの男女は・・・。」
「あぁ、これはしっかり報告しなきゃだな。」
岩山の丘を疾走するレイガ。
彼の背から二頭の竜のアギトが顔を出しており、口から熱を噴射して空を飛んでいた。
(まさかこんな芸当が出来るとはな。)
早朝、レイガはルシファード達から空を飛ぶ方法を提案された。
試しに彼女たちの言う通りにやってみたらまさかの空を飛ぶことに成功。
エルク達にも説明をし、もうしばらく練習してから追いつくと軍を先に行かせたのだ。
レイガはそのまま進軍する王国軍に追いつく。
「うお⁉本当に飛んでる⁉」
「エルク。俺はこのまま先陣切って奇襲を仕掛けてくる。その後の制圧を頼むぜ。」
「分かった。盗賊とはいえ油断できない相手だ。気を付けてくれ。」
「・・・お前に心配される必要はねぇ。とっとと終わらせる!」
そう言って加速し追い越していった。
「あの男・・・!エルク様に対して無礼が多すぎる!」
「そう言うなキリ。むしろ僕はあのくらい砕けてる方が接しやすい。」
「王子、ご自分の立場を弁えてください。」
「はい。」
鋭い視線を浴びせられるエルクだった。
「・・・ん?」
「どうした?」
盗賊の一人が空から何かが近づいてくることに気付く。
「なんだ?アレ?」
そして凄まじい勢いで砦前に降り立ちその衝撃で数人が吹っ飛んだ。
そして土煙から現れたのはレイガだった。
「なんだコイツ?コイツも冒険者か⁉」
「いやその前にコイツさっき空から来なかったか⁉」
「そんな事はどうだっていい!コイツも俺達を討伐しに来たことには変わりないはずだ!相手は一人、一斉にやっちまえ!」
大勢の盗賊たちがレイガに剣を向けるが。
「コイツ等の罪は?」
「悪だ。」
「そうか。なら・・・。」
次の瞬間、両腕と背中から四体の竜のアギトが飛び出し盗賊どもを食らい殺した。
「遠慮はいらねぇな。」
容赦なく目の前で食い殺し、それを見た他の盗賊たちはこれまで感じたことない程の恐怖を感じた。
「く、食われたぁ⁉」
「なんなんだコイツ⁉人を食い殺したぞ⁉」
「いや待て、この男、見覚えがある・・・?」
「あぁ!思い出した!コイツ指名手配されてる人殺しですよ!」
そう叫んだ瞬間、その盗賊は竜のアギトに噛み千切られた。
「人殺しか。どの口が言うんだ?お前等も散々人を殺してきただろう?感じる罪の気配で分かるぜ。悪に蔓延る罪は、皆殺しだ!」
複数のアギトを構えレイガはただ一人、盗賊を蹂躙していく。
そしてエルク達王国軍が到着した頃には、辺りが血に染まった盗賊の破片が散乱していたのだった。
その光景を見たキリは返り血の付いたレイガを見てつい言葉を漏らしてしまう。
「化け物だ・・・。」
騒ぎを聞きつけた仲間の盗賊が次々と砦から現れ残りは王国軍が制圧した。
「盗賊の頭が見当たらない。まだ中にいるようだな。」
エルクが剣を手にすると、
「エルク様自ら行かれるのですか?」
「こう見えて僕も剣の腕には自身がある。それは君が一番分かってるだろ?キリ。」
「・・・分かりました。であればこのキリ、お供します。」
キリも同行し二人はこの場を部下に任せ砦に向かう。
途中、血まみれのレイガとすれ違った。
「レイガ、君も来てくれ。」
「・・・・・。」
「・・・さっきキリが言ってしまった言葉の事は謝る。僕からも彼女に注意をしとくから。」
それでもレイガは沈黙のままだった。
「わ、私も不躾だったと思う。すまない・・・。」
キリも謝ると、
「そうじゃない。砦の中、何かいるぞ。」
「何か?盗賊どもじゃないのか?」
「違う。人間じゃない。もっとどす黒い・・・、そう、怨念だ。」
レイガの眼には砦から出る不気味なオーラが見えていた。
「人間じゃない?それに怨念、負の意識、・・・っ!まさか!」
「罪の魔物、そいつが現れる前兆だ。」
この場に罪の魔物が出現したらノース砦の奪還は勿論、王都アルーシアにまで被害で出る可能性がある。
なんとしてでも出現を止めなくては。
「行くぞ。俺なら気配の位置が分かる。お前等は後に付いてこい。」
「わ、分かった!」
レイガを先頭にエルクとキリも砦内に向かうのだった。




