『第二十二章 罪の魔物』
部屋を変えたレイガたち一同は王の会議室へ集まった。
少年姿の国王は軽くジャンプして椅子に座る。
「さて、では始めるとするかの。」
セイグリットがこれまでまとめた資料本を片手に皆の前に立つ。
「『罪の魔物』。八百年前に突如として現れた謎の怪物。滅んだ国の跡地から現れた所を当時の冒険者が確認した事が始まり。大きさは個体差はあれど基本は大型。繭のような丸みのある体格に黒い靄を纏い、その体格に見合わない細長い手足で這いずって移動する。武器や兵器、魔法でも奴らは決して倒せず、出現した際には撃退しか手段がない。そして最大の特徴は・・・。」
「人間を捕食すること・・・。」
王子のエルクが答える。
「その通りじゃ。これまで奴らに喰われた人間は数知れず。当然八百年前より人口は大きく減少しておるのが現状じゃ。」
「それでも人類が滅びなかったのは・・・、人類が奴らに対抗する手段を得たという事ですか?」
護衛女騎士のキリも答えるが、
「そんなわけなかろう。そんな手段があれば儂等がこうしておるわけなかろうに。節食しとるんじゃよ。一気に食い尽くせば根絶させてしまうからの。」
「奴らにそんな思考が?」
「おそらく本能によるものじゃろう。実に忌々しい。」
まるで奴らに人類が弄ばれてるような事実に苛立ちを覚える。
「とはいえ罪の魔物を放置すればいずれ人類は衰退の道を辿る。我らの今後の未来のためにも、罪の魔物を駆逐する。これは人類の定めであると、私は信じている。」
国王のアルヴェスタもそう言い放った。
「話を続けるぞ。そんな人類の手に負えない怪物に唯一対抗、消滅させられる存在が現代に現れた。それがレイガとイフル、この二人じゃ。」
全員が二人に目線を移す。
「レイガは体内に宿す古の魔王、七つの大罪の力。そしてイフルは聖剣に選ばれ力が目覚めた。現状罪の魔物を完全に倒せるのはこの二人だけじゃ。」
「我ら人類が唯一抗える手段、か・・・。確かに指名手配犯だの言ってはいられんな。」
国王も納得のため息をついた。
「お父様。彼の指名手配を取り下げる事はできませんか?」
王女のエルニスが言うが国王は難しい顔をする。
「取り下げる事自体は可能だが、既に彼の手配書はこの国全土に広がっている。突然指名手配を取り下げたとしてもすぐになかった事にはできん。」
「では指名手配を手配した者に話をするのはどうでしょう?聞くところによると我が国に所属する調査騎士団がレイガの指名手配を促したと聞いています。」
調査騎士団。
確か以前レイガがその騎士団の団長をぶっ飛ばした事がある。
おそらく彼がレイガの指名手配を広げた人物なのだろう。
「ふむ。ではアルよ。その調査騎士団についてはお主に任せたいが良いか?」
「分かった。彼との謁見の場と会議を設けよう。騎士団の団長とは何度か話をしたことがある。事情を話せば理解してくれるだろう。」
「では私がお手紙と使いを手配しますので後程サインをお願いしますねぇ。ウキキ!」
独特な笑い方をしながらルネッタが退室していった。
「それじゃエルクよ。お主の話も聞かせておくれ。見たんじゃろ?罪の魔物の発生条件を。」
「はい、セイグリット様。貴女からも是非意見をお聞かせ願えればと思います。」
その後、エルクが得た罪の魔物の発生条件やレイガとイフルから見た奴等の行動パターンや急所。
それらの情報を交換し合い、気付けば数時間が経過していた。
「罪の魔物は負の意識を持った生命が稀に変貌し成り果てる、か。これは調べがいがありそうじゃ。早速ギルドに戻って研究してみよう。礼のアレも調べねばならんからの。」
そうしてその場は解散となり、レイガたちが帰路につこうとすると、
「待ちたまえ。」
国王に呼び止められた。
「なんじゃアル?まだ用事があるのか?」
「うむ。そこの青年にな。」
レイガとイフルは顔を見合わせる。
「レイガ君、明日セイグリットと共にもう一度私の下へ来てくれないか。君に頼みたいことがある。」
「頼みたいこと?」
翌日、イフルをハイツに任せレイガとセイグリットは再び王城へやってきた。
「それでアル。レイガに用事とはなんじゃ?指名手配されてるこやつをあまり外にうろつかせたくないんじゃが?」
「指名手配の件は必ず私がなんとかする。実は王都から北西にある土地に我が国が保有する『ノース砦』と言うものがある。その砦だが昨年山賊に制圧されてしまってな。幸い被害は最小限で済んだが今後の罪の魔物に対してノース砦は取り返しておきたいのだ。しかしその山賊どもは名の知れた凶悪な集団のようでな。我がアルーシア軍だけでは少々不安なのだ。そこでレイガ、君にもその遠征に同行してほしい。」
「・・・早速儂のルーキーを使いつぶす気か?」
「人聞きの悪い・・・。彼の力を確かめることも目的に入っている。この遠征は息子のエルクが総指揮官として出撃する故護衛としても願い出たい。どうだろうか?」
「・・・俺にどんなメリットがある?」
「メリットならあるぞ。同行することで我が軍は君に対して正しい理解を得られるだろう。そうすれば自ずと信頼も生まれ君も今後動きやすくなるはずだ。」
「なるほどのう。一応理にはかなっておる。じゃが忘れるでない。レイガは儂のギルドの者だ。故にアル、これは儂に対して一つ貸しじゃ。受け入れられんのならレイガは決して貸さぬぞ?」
「ぐっ・・・、お主に貸しを作るのは不本意ではあるが背に腹は代えられん。エルクの安全のためでもある。その条件を呑もう・・・。」
悔しがる国王にセイグリットは愉悦の笑顔を見せるのだった。
「・・・で?何故こうなってる。」
現在レイガは城の敷地内にある訓練広場で大勢の兵士に注目を集められていた。
「同行する以上、貴様の力量を確かめておきたいのだ。いくら国王様の命令だとしても貴様がどの程度の強さなのか把握していなければ安心して背を向けられんからな。」
女騎士のキリが向かい側に立ち剣を構える。
「指名手配犯と行動を共にすることになろうとは。国王様も何をお考えなのか。」
「俺は別に協力するとは言っていない。向こうから言われただけに過ぎないからな。」
「何処までも傲慢な男だ。その高飛車な根性を叩き折ってやる!」
エルク王子が見守る中、合図と共にキリがレイガに斬り掛かる。
最小限の動きでかわしたレイガはカウンターで蹴り上げるが軽快な身のこなしでレイガの蹴り上げをいなすキリ。
レイガはともかくキリもなかなかの身体能力と反応速度だった。
両者の一歩も退かない高レベルな戦闘に兵士たちは息を呑んだ。
「キリ総隊長の動きについてこられるなんて・・・。」
「あの手配犯、一体何者なんだ?」
戦う二人を離れた所から見守るエルクとセイグリットは、
「・・・・・。」
「なんじゃエルク。儂の期待のルーキーに大事な専属騎士が負けそうで不安かの?」
「そうではありません。彼、レイガは、何故あのようになってしまったのかと思いまして。」
エルクは前からレイガに対する違和感を覚えていた。
彼の冷酷な態度からは何となく人との関わりを避けているような、そんな感じがするのだと言う。
「彼からは、あまり他者を信用しないようとする気が感じ取れます。」
「・・・お主もそう思うか。儂等といる時でさえも警戒の意を醸し出しておる事には儂も気づいておった。一度、あやつの過去についても調べた方がよいじゃろう。くれぐれも本人に悟られぬようにせい。おそらく、いや、かなりデリケートな部分じゃからの。」
「分かりました。」
(レイガの事を調べれば七つの大罪が蘇った理由にも繋がるはずだしの。)
そんな話をしている間に二人の勝敗が決まった。
レイガの圧勝である。
ちなみにレイガはグリードたちを頼らず、素手のみでの勝利だ。
敗北したキリは悔しそうに歯を食い縛るがすぐに落ち着きを取り戻しレイガに向き直る。
「貴様の強さは分かった。同行を認める。だが忘れるな。私達はまだ貴様に対する不信や警戒が消えたわけではない。ある程度監視はさせてもらうぞ。」
「好きにしろ。」
「終わったかい?キリ。」
「エルク様!お見苦しい所をお見せしてしまい申し訳ありません。」
「構わないよ。これからより精進すればいい。ではレイガ、僕からもよろしく頼むよ。」
そう言い握手の手を差し出すがレイガは握らなかった。
「もう少し素性の知らない相手を警戒しろ。でないといずれ取り返しのつかない事態に陥るぞ。」
「き、貴様・・・!王子の好意を無下にするな!」
「いいよキリ。彼の言う事も最もだ。」
(・・・やはり、彼には人間関係で何かあるみたいだ。君には申し訳ないけど、少し調べさせてもらうよ。)
そんなエルクの思惑に体内のルシファードが察するのだった。




