『第二十一章 小さな権力者』
王都アルーシアの王城へ招かれたレイガとイフル、セイグリットの三人は女騎士のキリを先頭に廊下を歩み進んでいた。
「それにしても随分思い切ったのお主。不確定な情報なのにレイガに斬りかかりおって。今回は相手がこやつだったから良かったものの、下手な相手じゃったらお主が危うかったぞ。」
「すみません・・・。考えるより先に行動してしまうのが私の癖のようでして・・・。」
「まぁそれがお主の長所でもあるがの。」
カカカと笑うセイグリット。
そんな中イフルはレイガの腕をぎゅっと抱きしめて歩いていた。
緊張してなのか少し気を張っている。
軽く頭を撫でて落ち着かせている内に王の間のままでやってきた。
「こちらです。国王様は勿論、ご子息のエルク王子とエルニス王女、ついでに専属薬師のルネッタ殿も同席しております。」
「ふむ。あの兄妹か。さぞ立派になっておるじゃろうな。」
扉が開き、三人は王の間へ入室する。
長く敷かれた赤い絨毯の先には王子と王女、白衣を着た丸眼鏡の女性、そしてカーテンの掛かった玉座に鎮座する国王と思しき影が三人を出迎えた。
(ん?あの銀髪の兄妹、見覚えあると思ったら、兄貴の方は前に罪の魔物になりかけてた魔獣と遭遇してた貴族の男じゃないか。妹の方は確か奴隷商に捕まっていた。どっちも王族だったのかよ。)
そして一番の気になる所は、カーテン越しの国王だ。
人影は見える物の素顔を一切見せない辺り、何かあると警戒しかわかなかった。
その時、
「へぇ~。この黒ずくめの仮面男がねぇ。」
いつの間にかレイガの目の前にボサボサ頭に丸眼鏡をかけた白衣の女性がジロジロ見ていた。
「そして、こっちのエルフの女の子もねぇ~。」
イフルに振り向くと本人はびっくりしレイガの後ろに隠れた。
「ルネッタ。そういう事は後にしてくれ。」
「ウキキ!これは失礼しました。国王様♪」
お辞儀をしルネッタは下がった。
「此度はこちらの招集を受けてくれて感謝する。魔法龍騎団総帥、セイグリット・アントモーメン。そして若き希望達よ。」
威厳のある声色で話す国王にレイガの気が張り付く。
更にその時だった。
「前置きはよい。さっさと本題を話さんか小僧。」
セイグリットの国王に対する言葉遣いに肝を冷やすイフル。
だが他の者達は至極冷静だった。
「この場に大臣たちがいたら大騒ぎだったぞ・・・。まあ良い。お前なら私も気兼ねなく話せるからな。」
「腐れ縁もいい所じゃな。」
二人は旧知の仲のようだ。
「其方らを呼んだ理由は他でもない。罪の魔物について改めて話をしたかったのだ。」
「やっぱり罪の魔物関連か。大方聖都に現れた事件について聞きたいのじゃろ?」
「それも含めて、だ。」
年長者二人が話し合ってる中、王子のエルクはレイガをジッと見ていた。
(マントを新調して仮面も付けてるから気付かれることはないはずだが・・・。)
すると、
「あの、やっぱり貴女は私を助けてくれたエルフの少女ですよね?」
王女のエルニスがイフルに声をかけた。
(しまった!王女にイフルの顔は割れてたんだった!)
思わぬ見落としに内心落ち着きを失うレイガ。
イフルもどう反応したらよいか分からず硬直しながら眼でこちらに訴えてくる。
「服装も髪型も変わっていますが、貴女の可愛らしいお顔はよく覚えてます!という事は、こちらの男性が・・・!」
今度はレイガに振り向く王女。
そしてレイガの手を握りしめたのだ。
「お会いしたかったです!私の王子様!」
更に思わぬ事態に至極冷静だったレイガも流石に困惑した。
セイグリットも何が何だか分からない表情をしており、王子エルクは頭を抱えてため息をついていた。
「エルニス・・・、一度落ち着いてはくれぬか。私との話がまだなんだ。」
「はっ!ごめんなさいお父様!」
一礼をしエルニスは下がった。
「やはり、娘のエルニスを助けてくれたのは其方らであったか。礼を言う。数日前に外出した際、族に襲われ消息が絶ってしまっていたのだ。だがそんな娘を其方らが救出してくれたそうだな。感謝する。」
奴隷商に弄ばれていた事は黙っていた方が良さそうだと判断するレイガだった。
「ほ~ん、儂と出会う前にそんなことしとったのか。世の中狭いの。」
「・・・それで、探してた俺を見つけてどうするつもりだ?」
「どうするも何も、娘の恩人であるのだ。何か褒美を与え・・・。」
国王が言い終える間にエルクが話に割って入った。
「父上、その話の前によろしいですか。セイグリット殿、貴女は、現在我が国で指名手配されている殺人犯をご存じですか?」
来た。
今回の最大の鬼門。
レイガの正体はなるべくバレたくない所だ。
「それがどうかしたのか?」
「こちらがその人物の手配書です。そして、こちらは妹の恩人の似顔絵です。」
二枚の紙を見せると手配書と似顔絵はどちらも同じ特徴を持つ人物の顔だった。
「ここまで特徴が一致している以上、他人の空似で通すことは不可能です。貴女が連れてきた人物は仮面をしていますが、失礼ながら仮面を取ってはいただけませんか?」
レイガは警戒を強めマントの下で手を構えると、
「構わんぞ。」
セイグリットの予想外の返答に一瞬脱力したてしまった。
「セイグリット、どういうつもりだ?」
「どうもこうも、元々こやつらにはお主の事は明かす事にしていたからの。無論お主の気持ちも分かる。じゃがこやつらは儂の旧友でもあり、一番の理解者じゃ。もしこやつらがお主と敵対した時は・・・。」
セイグリットは杖を取り出し華麗に振り回す。
「儂はお主に付き、この国の敵となろうぞ。」
威圧ある眼差しで辺りの空気がひりついた。
「じゃがの、こやつが顔を晒すならまずはそっちから晒すのが礼儀ではないか?国王よ?」
カーテン越しの国王に言うセイグリット。
国王はふうっとため息をついた。
「確かに、こちらから申しているのにこちらが隠しているのは不公平だ。良かろう。」
「父上⁉」
「お父様⁉」
驚愕する兄妹を宥め国王は席を立つ。
「だが約束してくれ。私の姿を見た事は決して口外しないと。」
「それはこっちも同じじゃ。こやつの事は口外せぬことじゃ。」
国王とセイグリットは互いに笑みし、カーテンが開かれる。
しかし目線の先には誰もいなかった。
「?」
レイガとイフルが首を傾げるが目線を少し下げると、王冠とマントを身に着けた銀髪の少年が立っていた。
「おい、まさかとは思うが・・・。」
「ウキキ!この方が我がアルーシア王国国王、アルヴェスタ・アルーシア様ですぞ。」
ルネッタがそう言うがどう見ても十歳前後の少年にしか見えない。
軽く混乱する二人だった。
「変声魔法も切ろう。改めて、余が国王アルヴェスタである。言いたいことは分かるが事実故理解してくれ。」
「いや、アンタが国王なのは理解しているが、その姿は?」
「このロリババアと同じ魔法だ。と言っても私は意図せずこのような姿になってしまっているのだがな。」
横目でセイグリットを睨む国王。
「この魔法の開発中に部屋に来るからじゃろが。不完全な術式の暴発に巻き込まれこやつは子供の姿になっとるんじゃ。」
「貴様のせいで私は苦労しておるのだぞロリババア。」
「何度もロリババア言うでないわショタジジイ!」
「事実だろうが!」
まるで子供の喧嘩のようにいがみ合う二人に呆気にとられる一同だった。
「コホン、失礼した。では話を戻して君達の番だ。」
「あぁ。」
レイガは仮面を外すと左目の紫の刺繍が光る素顔を晒し、キリがグッと剣を取ろうとする手を抑える。
「やっぱり、手配書の人物は君だったんだね。レイガ。」
名前まで知られた以上隠しても無意味だ。
レイガは観念したように息をついた。
「セイグリット。聞いた限り彼が罪の魔物を倒せると言うのは本当かね。」
「そうでなかったら儂が指名手配犯をスカウトするわけなかろう。犯罪者だろうが罪の魔物を駆逐するにはこやつらの力が必要不可欠じゃ。」
しかし国王は未だにレイガを危険視している。
「案ずるな。これまでレイガは人を殺めてはおらん。儂が保証する。」
しかしその話を聞いていたレイガは、
「セイグリット、悪いがその保証は保証できない。」
全員の眼が彼に振り向く。
「事実俺は何人か人を食い殺している。正当防衛も含まれるが、大半は俺の意思で殺している。」
「ほ、本当なのか?」
レイガは頷く。
「国王様!やはりこの者は危険です!いつ我々に牙を向くか分かりません!」
そう訴えるキリだが国王は黙って手をかざしキリを止める。
「あのセイグリットが連れてきた人材だ。レイガくん。一先ず君が何者かで何故人を殺めたのか聞かせてくれないか?」
国王にそう言われたその時、
「・・・それは我らから話そう。」
突如知らぬ声が聞こえ、驚く一同。
そしてレイガの身体から三頭の竜のアギトが現れた。
「っ⁉」
キリは剣を構えエルクとエルニスの前に立ち、国王とセイグリットは驚いた表情をしていた。
「前々から気になる気配を感じると思ったら、とんでもないものを隠し持っておるな。レイガ。」
「別に隠してるつもりじゃない。極力こいつ等が出てこないだけだ。」
「我が名はルシファード。傲慢の魔王と恐れられた七つの大罪の一人である。」
「な、七つの大罪⁉」
「知っているの?キリ?」
「王宮の文献で読んだことがあります・・・。」
太古の昔、人智を越えた力を持つ七人の超越者によりこの星の大半を支配されていた時代があった。
いつしか人々は彼等を恐れ敬い、魔王『七つの大罪』と敬意を表するようになった。
だが魔王による支配はある一人の人間により終わりを告げたのだ。
勇者が現れたのである。
勇者は様々な武器に変化する聖剣を用い七つの大罪を打倒。
そして勇者は自身の命と引き換えに七つの大罪を誰も近寄らない深淵の底へ封印した。
そして勇者は後世に語り継がれる伝説となったのである。
「有名なおとぎ話なのですが、まさか七つの大罪が実在したとは・・・。」
キリの話にルシファード達は終始だんまりだった。
(ん?皆から複雑そうな感情を感じたような?)
「まさかレイガに伝説の化け物が潜んでおったとは・・・。儂はとんでもない者に眼を付けてしもうたわ。」
するとイフルがパネルに筆談した。
『セイグリット。私にとってこの人たちは恩人であって大切な人達なの。だから化け物なんて言わないでほしい。』
「あ、すまぬ・・・。」
珍しくしゅんとするセイグリットだった。
「話を戻す。一つ、レイガが何者なのか。単純な話、ただの人間だ。」
期待からズレた返答に思わずこけそうになる一同。
「人間ではあるが我ら七つの大罪をこの身に宿しておる。当然我ら魔王の力もこやつは扱える。今はまだだがな。」
「七つの大罪の力、それも七人全員分が彼に・・・。」
「そちらから危害を加えぬ限り我らから手を出すことはない。二つ、他者を食らい殺す理由、全て正当な理由の上だ。」
「正当な理由?」
「現にこれまで食らい殺してきた奴らはほとんどレイガに襲い掛かってきた阿呆共だ。そして盗賊。我らは悪人には容赦はせぬが基本人自身を食う事はない。」
「では正当防衛であると?」
「無論だ。そしてもう一つ重要な事を言う。我らは罪を喰らう者。悪人に宿る罪は悪人ごと喰らい、善人に宿る罪は罪のみ喰らう。それが我らの掟。信じる信じないは、貴様ら次第だ。」
ルシファードの威厳ある言葉と睨みに空気が重くなる。
話を聞き終えた国王はキリに剣を降ろさせた。
「一先ずは信じよう。セイグリット。彼らは今後お前の下に滞在するのだな?」
「おおむね自由にはさせるが指名手配されてる以上手をかけねばならんしの。」
「彼らの事は定期的に報告してくれ。今後の彼らを見てから改めて判断したい。」
「と言っておるが、どうじゃ?ルシファード殿?」
「・・・良かろう。我らもずっと逃亡生活するわけにはいかんからな。」
そう言いルシファードはイフルを見た。
「他の皆も良いな?」
「美味い飯が食えれば文句はねぇよ。」
「私もグリードと同じ♪」
「ではこの話は終わりだ。後は任せるぞ。レイガ。」
「あぁ。」
三頭の竜のアギトはレイガの体内に戻っていき、ずっと警戒していたキリは脱力し膝をついた。
「七つの大罪、よもや古の魔王が蘇るとはな。この事も調べた方が良いか?」
「アル。その話は後にせい。」
「む。そうだな。」
「さて、それじゃ諸君!早速本題、罪の魔物について話し合おうぞ。」
セイグリットは手をパンと叩き、いよいよ本題に入るのだった。




