『第二章 罪食らい』
レシルは一通り泣いたら落ち着き、再び鉱山の鉱石採取をしながら奥へと進んでいくと奥から人の声が聞こえた。
その声に気づきネナは歩みを止める。
「待ってレシル!」
「⁉」
物音を立てずにゆっくり進み、岩陰から様子を伺う。
そこには大人数の盗賊が鉱山内をアジトにして騒いでいた。
「ヒャッハー!今日は宴だぁ!」
酒や食料を貪り食う盗賊たち。
部屋の隅には拉致してきたであろう若い女性たちが縛られていた。
その光景を見た二人は息を飲んだ。
「まさか盗賊のアジトになっていたなんて!」
「ど、どうしましょう⁉」
「どうするもこうするも、一度ギルドに報告に行かなきゃでしょ!」
急いでその場を後にしようとすると後ろでガラッと何かが崩れる音がした。
ネナが振り向くと足場が崩れ、落下するレシルが目に映った。
「レシル‼」
手を伸ばすも空しくつかみ損ね、レシルは盗賊の集まる広場に落ちてしまった。
「いたた・・・。」
気が付くと目の前には落下に気づいた盗賊に囲まれていた。
「ひっ⁉」
「おいおい、ガキが降ってきたぞ?」
「冒険者か?」
「何だ?何の騒ぎだ?」
「頭!」
人一倍ゴツイ男が近づいてきた。
「どうやら冒険者のガキが迷い込んだみたいでさぁ。」
「ほう?」
ジロジロと怯えるレシルを見る盗賊のリーダ―。
「まだガキだがなかなか上球じゃねぇか。」
不気味な笑みを浮かべるリーダーにレシルは恐怖する。
すると、
「レシルから離れろ‼」
上からネナが降りてきてナイフを複数投げつける。
盗賊たちはナイフを避けその場から距離を取った。
「レシル!大丈夫⁉」
「ネナさん!」
ネナはレシルの前に立つ。
「ちっ、まだ他が居やがったか。」
「まぁいい。まとめて捕まえろ!」
「へい‼」
一斉に襲い掛かる盗賊。
ネナは腰に付けた短剣を取り、次々と返り討ちにしていった。
「ぐはぁ!」
「ぎゃぁ‼」
一通りなぎ倒し次はリーダーを狙いに定め、切りかかる。
だが、
「動くな‼」
「⁉」
動きを止め振り向くと盗賊の一人がレシルの首元に刃物を突き付けていた。
「それ以上暴れるとこのガキがどうなるか分かるよな⁉」
「ぐっ、ゲスが・・・‼」
その瞬間、隙を突かれ盗賊のリーダーはネナを思いっきり蹴り飛ばした。
そのままネナは壁に叩きつけられその場に倒れてしまった。
「ネナさん‼」
「フン!多少腕が立つようだがその程度か。」
リーダーの男は悶えるネナの髪を掴み上げた。
「俺がしっかり教育してやろう!」
そう言いネナの鎧をどんどん剥がしていく。
「ネナさん・・・ネナさん!」
レシルはパニックになり思わず叫んでしまった。
「・・・っ‼誰か助けてーー―――‼」
耳がつんざく程の声が空間内に響き渡る。
「・・・このガキ、耳が壊れるだろうが‼」
頭に来た盗賊はナイフを大きく振りかぶり、レシルの首に突き刺そうとした。
「うっ⁉」
その時だった。
洞窟の奥から恐ろしく禍々しい気配が近づいていることに気が付き、ナイフを止めた。
「?」
レシルは何が起きたのか分からなかったがすぐに禍々しい気配に気づきこれまで感じたことのない恐怖に見舞われた。
(何か、来る⁉)
盗賊の男は恐る恐る洞窟の方に振り向くと、暗闇の奥から足音と共にボロボロのフードを被った人影が現れた。
「な、何だお前は⁉」
男は叫ぶもフードの人物は何も答えない。
すると突然喋りだした。
「・・・こいつらの罪は?」
「・・・悪だ。」
(っ⁉今の、誰の声だ⁉)
一人しかいないはずなのに二人分の声が聞こえ、男はゾッとした。
「決まりだ。その男ごと罪を食らえ!グリード‼」
そう言い放った瞬間フードの人物の右腕が巨大な竜の頭の形に変形し、大きく口を開けてレシルを捕らえている盗賊に噛みついた。
「きゃぁ⁉」
レシルは地面に倒れ、盗賊は竜の顔にくわえられていた。
ギリギリと顎の力が増し今にもかみ砕かれそうだ。
「ま、待て!やめろ!」
「殺れ。」
その言葉と同時に竜の頭は男をかみ砕いた。
血が噴き出し地面に滴る。
「なっ⁉」
盗賊のリーダーも唖然としていた。
「・・・やっぱり、人間自体はまずいが罪はそこそこ食えるな。」
「あ、あぁ・・・。」
目の前で人が食われた光景を見せつけられ、レシルは腰を抜かしてしまった。
「テメェ‼何しやがった‼」
盗賊のリーダーが斧を持って詰め寄る。
「何って、ただ食っただけだが?」
しれっととんでもないことを言うフードの人物。
その顔はまるで飢えた猛獣のような顔に見えていた。
「・・・化け物め!」
「よく見りゃお前もいい具合に罪が熟してんな。どんな味がするのか楽しみだ!」
獲物を見るような鋭い目つきに盗賊のリーダ―は恐怖した。
フードの人物は竜の頭と化した右腕を構える。
「さぁ、メインディッシュだ‼」
突然現れた人物は平気で人を殺した。
いや、殺したというより食らったと言った方が正しい。
罪がどうとか言っていたが、
「そうだ!ネナさん!」
我に返ったレシルは気を失っているネナに駆け寄った。
幸い重傷を負う事はなかったようだ。
「ごめんなさい、私のせいで・・・。」
すると後ろから凄まじい衝撃が響いた。
盗賊のリーダーと右腕が竜の形に変化したフードの人物が戦っていた。
盗賊は斧を振り下ろすも難なくかわされ、竜の頭が盗賊に噛みつこうとする。
まるで竜自体が意地を持っているかのように。
(クソっ!何なんだこいつは⁉奇妙な成りをしている割に強い!それに・・・こいつ、まだ本気を出していない⁉)
斧を大きく振りかざし盗賊は距離を取った。
(この強さで本気じゃねぇってか。だがその舐めた行動が命取りだぜ!)
「今だ野郎ども‼」
リーダーが叫ぶとフードの人物の後ろから大勢の盗賊が遅い掛かってきた。
「もらったぁ‼」
だがフードの人物はフッと笑ったかと思いきや背中からもう一つの巨大な竜の頭が現れ、次々と盗賊を食らい殺していった。
返り討ちにされた盗賊は全滅し、残るはリーダーただ一人だった。
「な、な・・・⁉」
「もう少しゆっくり味わいたかったが、踊り食いも悪くないな。」
右腕と背中から生えた竜の首。
その姿はこの世の物とは思えない程禍々しかった。
「お、お前・・・人間か?」
顔面蒼白の盗賊のリーダーに答える。
「どうかな?俺もそのあたりはハッキリとしてないが・・・これだけは言えるな。俺は罪を食らう者だ!」
その言葉を聞いた盗賊はハッと何かに気づく。
「まさか・・・、お前が噂n・・・⁉」
盗賊は言い終える間もなくバクンと上半身が食われ、残った下半身はバタリと倒れた。
「ふぅ・・・。」
盗賊を食らいつくし、背中から現れた竜は体内に戻り右腕も元の右腕に戻った。
そしてレシルとネナの方を向く。
「ひっ⁉」
フードの人物はゆっくりと二人に歩み寄る。
「こ、来ないでっ‼」
レシルはネナの短剣を突き立てる。
「・・・別に獲って食うつもりはないぞ?」
「嘘!さっきここにいた盗賊皆食べちゃったじゃない‼」
恐怖に震え、涙目ながらも警戒をするレシル。
フードの人物はハァッとため息をついた。
「お前たちから罪の気配がしない。罪を持っていない奴を食うつもりもない。」
「・・・本当に、何もしない?」
「する理由もない。」
レシルはゆっくりと剣を下ろした。
そして急いでネナに応急処置をする。
しばらくして、処置をしながらレシルが質問をしてきた。
「・・・助けてくれた事には感謝します。」
「助けたつもりはない。俺達は腹が減ってここに来ただけだ。」
「・・・貴方は、何者なんですか?急に竜の頭が現れたり、人を食べたり・・・。」
「愚問だな。腹が減ったから食う。それ以上でも、それ以下でもない。当然だろ?」
「空くから食べる。それは間違ってはいないですが・・・人を食べるなんて・・・!人殺しですよ!」
その言葉に反応したフードの人物は少し強めの言葉を出した。
「悪人を殺して何が悪い?」
「え?」
「自身の欲望のため、何の罪のない人間が傷つく。平気で人を騙したり、平気で人を裏切ったり、そんなクズどもがのうのうと生きていることに嫌気が刺すのは当然だろ?」
「そ、そんなこと・・・!」
「それに‼俺はむやみに人を食っているんじゃない。あくまで罪を食っているんだ。善人に蔓延る罪は罪のみ食らい、悪人に蔓延る罪は悪人ごと食らう。それが俺だ。」
そう言い、フードを取り顔に入った紫の刺青が光る。
「俺は『罪食らい』、レイガ!大罪をその身に宿す復讐者だ!」




