七日目
「……儀式」
「ええ。勿論、数年前の儀式――神の降臨をやり直すんです」
平然と、そして当然のように彼がそう言った瞬間、信者の中で数人が立ち上がり前に向かって歩き始めた。
あの化け物を呼ぶ為の儀式。つまり――また、私はその為に酷い目に遭うことになる。
「教祖様」
「い、いや!」
「まだ洗脳が解けていないようですね……。大丈夫ですよ、今回はあなたが痛い思いをする必要はありません」
「え……」
「言ったでしょう? 僕を含め、あなたと同じ神の細胞を持つ人間が居ると。今回は僕達が神を呼び起こす役目を果たします。あなたはただ、神と一つになれば――」
「大変です!」
その時、酷く慌てた声が入り口から飛び込んで来た。ぜえぜえと息を切らして大聖堂に入ってきた男に多くの人間の視線が集中する。
「何事ですか、教祖様の御前ですよ」
「学園の連中がもう此処を嗅ぎ付けたようです!」
「なっ、」
「此処へやって来るのも時間の問題です! 如何しましょう……!」
「急ぎ儀式を始めます! 連中に邪魔をされてはたまりません。……お前達、やれ」
「はっ」
信者の中から私の前に出て来た五人の男達が、彼の声を合図に大振りのナイフを取り出す。そして次の瞬間――彼らは各々自分の手首や足、そして首を一斉にナイフで切り裂いたのだ。
「ひっ、」
大量の血が吹き出て床を汚していく。目の前で見せつけられた痛々しい光景に喉から悲鳴が漏れる。しかし驚いたのもつかの間、次の瞬間にはみるみるうちに切り裂かれた傷が消え失せ、まるで何事も無かったかのように怪我が見えなくなった。だがすぐに彼らは再び自分の体を傷付け始める。
「恐れることはありません。僕たちはあなたと同じ存在ですよ」
そう言って隣に佇む彼も右腕滅茶苦茶に切り刻み、そして同じように傷が無くなっていく。今まで私だって怪我をする度に同じように治ってきたはずなのに、客観的にそれを見せられるとあまりに非現実的で、その不自然さが気持ち悪く感じてしまう。
「……これで神は現れる。後はあなたと一緒に――神と一つになるだけです」
「や……嫌だ、止めて!!」
「大丈夫です、あなたは一人ではありません。僕が……しいちゃんが一緒だ。何も怖くない」
「違う!! あなたはしいちゃんじゃないっ!」
私が彼の手を振り払って叫んだ瞬間、彼――しいちゃんと呼んでいた彼の顔から一切の色が抜け落ちた。
違う、違うんだ。間違っていた。彼はしいちゃんじゃない。だって彼と出会ったのはあの研究所で、此処じゃない。しいちゃんは私が怪我が簡単に治るのを知っていながら、私が罰を与えられるのを嫌がって自分が苦しんでいるのに血を拒んだ。両腕を切り落として神に捧げようとなんて、しいちゃんは絶対にしない。
彼は、出雲君は途端に黙り込んだ。大きく目を見開いて、まるで静止画像のようにぴくりとも動かない。
「……んで」
「え」
彼が何かを呟いた瞬間、いきなり建物がぐらぐらと揺れ出した。それと同時に何かが壊れるような大きな音が連続して聞こえてくる。そしてそれは途切れず、どんどんこちらへと近付いてきた。
「なんで、ですか。どうして……どうして僕じゃあなたのしいちゃんになれないんですか!」
「いたっ、」
しかしそんな周囲の状況などまるで気にも留めず、出雲君は折れそうなほど強く私の腕を掴んだ。
音が、もう間近まで来ている。ぱらりと建物の破片が天井から降ってきた。
「……あの頃、あなたがずっと呟いていた名前。青い目のしいちゃんという名前の人間。あなたの心はいつも何処かへ行っていたのに、そいつのことだけはいつも大事そうに名前を呼んでいた!」
目の前の出雲君が必死に捲し立てているのに、私の意識はその向こう側へ行ってしまう。
入り口が破壊された。瓦礫が降って来て、そしてそれを踏みつぶして白く大きなモノが姿を現した。
化け物――Xだ。沢山の赤い目をぎょろぎょろさせて、どんどんこちらへと近付いてくる。あれの目の前にいる信者達は酷く喜んで歓声を上げ……次々と白い化け物に踏みつぶされていく。誰も、逃げようとしない。
「どうすればあなたの目に僕が映るんですか……。その目に――そう、この目だって。自分の目をくり抜いてあなたが好きな色にしたのに、いつになれば僕はしいちゃんになれるんですか」
とうとう巨大な白が目の前にやって来た。そして――先程ナイフで自分達を切り刻んでいた彼らを上下に大きく開かれた口の中に次々と放り込んでいった。
バリ、ゴリ、と何かがひしゃげる音が嫌でも耳に入ってくる。私は無我夢中で逃げようとするのに、未だに腕を掴む手から逃れられず、彼らが消化されていく様を無理矢理見せつけられた。その醜悪な光景に我慢できずに思い切り嘔吐をしても彼の手は緩まない。
「――ああ、そうだ」
私はその瞬間、Xの口の中を見てしまった。剣のような歯がずらりと並んだそこに血や肉片がこびりつき、そしてこの世のものとは思えない異臭を放っていた。
そんな悍ましいものを背に、出雲君は憑き物が落ちたような表情で綺麗に笑った。
「本物のしいちゃんを殺してしまえば――」
次の瞬間、出雲君は丸々その口に飲み込まれた。
「あ、」
血しぶきが顔に掛かる。私を掴んでいた腕だけが途中で千切れ、全く振り払えなかったそれがいとも容易くぼとりと床に落ちた。目の前では、ぐちゃぐちゃねちゃねちゃと口を動かす白い化け物の姿。
「あ、……っああああああああ!!!」
そこまでしてようやく、私の足は動き始めた。
今んも崩れ落ちそうにがくがく震える足を一心不乱に動かし逃げる。入ってきた扉を通って、先程まで暢気に歩いていた通路を抜けて外へと一目散にただただ走った。
建物の外は木々が生い茂る森だ。夜中である為殆ど暗闇状態のそこを走り、走り、途中木の根に引っかかって転げそうになりながらも決して足を止めない。
どれだけ息が切れても、心臓が破裂しそうになって、ただ逃げ続ける。逃げて逃げて、そして……どこまで逃げればいいんだろう。
「っ……」
何処に逃げればいい。どこまで行ったら私は解放されるのだろう。目の前は真っ暗で、道を示すものは何一つない。私はこの先、どうすればいい。
そう思った瞬間、必死に動かしていたはずの足が急に動かなくなった。
逃げたところで向かう場所など存在しない。いつもそうだった。研究所やあの教会から逃げ出しても、結局他の人間に捕まって同じことの繰り返し。そうして実験台にされて、結局あの化け物を呼び出して、そしてまた逃げ出して。……いつ終わる? どうすればこのループから逃れられる?
ずるずると傍にあった木に寄り掛かってしゃがみ込む。こんなことを何度も繰り返して一体何の意味があるのか。わざわざ逃げ出してまで、“外”に拘る理由があるのか。
こうまでして必死に生きようとする必要性は、果たして存在するんだろうか。
「……しいちゃん」
彼が私を見つけるまで生き延びると、そう約束した。だけど彼だと思っていたものはただのまがい物で、青い目と呼び名だけで彼だと決め付けてしまった。
だって仕方が無かった。私はあの目以外、彼の姿を一切思い出せていないのだから。夢の中で会う彼は紛れもなく『しいちゃん』と認識しているのに、その姿はぼんやりとした人型で曖昧にしか分からない。
考える度にどんどん形が掴めなくなっていく。そうして考えて考えて……受け入れがたい想像が過ぎった。どくどくと心臓の音が煩い。
しいちゃんなんて人間は、本当に存在していたのか。
それに気付いてしまえばもう駄目だった。二度と立ち上がれる気がしなかった。しいちゃんという存在は私の頭が勝手に作り出した妄想だったんじゃないのか。
だってそうだろう。私を外に連れ出して必ず見つけると言ってくれて、そんな都合のいい人間が存在する訳がない。実際、私の前に現れたしいちゃんは、勝手に私を神格化して生け贄に捧げようとした人間でしかなかった。
彼は居ない。ならば……必死になって逃げ延びる意味すら分からない。もういいじゃないかと、何もかもどうでもいいと思考が停止する。
「やーっと見つけた」
不意に、ぼんやりとした頭の中にそんな声が割り込んできた。
緩慢な動きで顔を上げる。そこには暗い森の中でも目立つ白衣と、逆に闇に紛れて普段よりも目立たないガスマスクがあった。
「ったく、随分と手間掛けさせやがったな?」
「……社先生」
始業式の日初めて見た先生は酷く異様で、そして恐ろしかった。だというのに今はもう何の感情も湧いて来ない。私は視界の端に映る白衣の裾を掴むと、それを引っ張って自分の方へと引き寄せた。
「先生」
「あ? 何を」
「殺して下さい」
私は感情の見えないガスマスクに向かってそう言った。膝を地面に着いて縋るように彼のシャツを掴んで、そう懇願した。
「こうして学園を抜け出して、私悪い子ですよね。だから罰を下さい。黒音ちゃんのように……殺して下さい」
分かってる。こうして頼んだところで社先生が私を殺せないことぐらい知ってる。どれだけ刺されようが四肢をもぎ取られようが私は死なない。それでも……もう、終わりにしたかった。
先生は何も言わない。ただ黙ってこちらを見下ろしているだけだ。
「……くっ、」
彼から息のような小さな笑い声が漏れたのはどれくらい経ってからだっただろうか。
「はは、くくくあはははははっ!! 随分と馬鹿なこと言ってんなぁ? 俺がお前を殺してやる義理が何処にある」
「……」
「生憎俺にも目的があんだよ。その為にお前は生かしておかなきゃならねえ。学園長のババアにバレる前にとっとと連れて行かねえとな」
殺してやると嘘でもいいから言って欲しかった。けれどそれすら望めないようだ。
社先生が私を肩に担ぎ上げて走り始める。それに一切抵抗はしない。する理由が無い。
前に心谷先生が言っていた。記憶を失う前の私は全てに絶望した抜け殻のような人間だったって。今ならその時の私の気持ちがよく分かる。だってもう、全部諦めるしかないのだ。希望なんて何一つ無い。ただ搾取される為に生かされているだけ。
もういい。
「――っ、」
その時、突如バンと何かが弾けるような音が耳に入ってきた。それが何度も聞こえ、同時に私は地面に放り出される。
地面に転がりながら横を見ると社先生が足から血を流して倒れている。ああ、撃たれたのかと何の感慨もなく思った。
「社先生、藍を保護して下さりありがとうございます」
そして背後から聞こえる女性の声。起き上がって振り向いてみれば案の定、そこにいたのは学園長だった。彼女だけではない。その両隣にはスーツの男が二人、それぞれ銃を構えてこちらを見ている。
「感謝しています。ですが……どうしてこちらに連絡を寄越さなかったのですか? 藍を見つけ次第私に知らせるようにと言っていたはずですが」
「……はっ、いきなり撃ったってことは全部分かってんだろ? 今更まどろっこしい言い訳は無しだ」
社先生がゆらりと立ち上がる。撃たれたというのに、そして今もなお銃を向けられているというのにその声に、仕草に恐れは一切感じられない。そんな彼の様子を見て学園長が眉を顰めた。
「理解できません。あなたが藍の血を調べていたのはこちらも把握しています。ですが何故わざわざ藍を攫おうと? これまで通り学園に連れ帰っても研究は続けられたはず。追われるリスクを承知でどうして」
「そりゃあこっちにはこっちの事情があんだよ」
私の身柄を巡って二人が言い争っている。しかし私はそれを聞いても何も心が動かなかった。学園だろうが社先生だろうが、私にとってはどうでもいいことだ。何一つ違いなどありはしないのだから。
「最後通牒です、速やかに藍をこちらに引き渡しなさい。あなたは我が校の優秀な執行人、こちらとしても失うのは惜しい。今なら引き返せますよ。さあ……」
「断る。俺の目的はあんな学園じゃあとても為し得ないからな」
「……あなたは一体何をするつもりで」
「とんでもなく重要なミッションだ。何せ俺はこれから――こいつを外に連れ出してケーキ食わせなきゃなんねえからなぁ!」
「!」
「は? ケーキ? 一体何を言っているんですか?」
「生憎てめえが知る必要なんてねえな?」
――目が覚めた。
ぼやけていた世界が急にクリアになった。
ケーキ。こんな状況でケーキ。そんな平穏で日常的な、あまりにも場違い過ぎる言葉。
「もういい、撃ちなさい」
私は無気力に倒れ込んでいた体に力を入れた。立ち上がり、そして――社先生を抱きしめるようにして飛びかかり、倒れた彼に覆い被さる。
「な」
直後、複数の銃声と共に背中に激痛が走った。撃たれる度に体が跳ねて燃えるように熱くなる。
「や、止めなさい!! 藍に当てないで!!」
学園長が血相を変えた声で制止するとほんの少し間を置いて銃撃が止まる。
痛い、痛い。死ぬわけなんて無いのに痛みで体が動かせずにいると、不意に自分の体がふわりと浮く感覚を覚えた。
「藍!」
「……」
すぐに覆い被さっていた彼に抱えられたのだと気付く。私の体じゃ到底全ては庇いきれなかったのか、先程よりも更に出血している男に手を伸ばした。彼の血に触れる度にピリピリと痛みが走るが最早そんなもの気にならない。
銃撃の所為で壊れかけて垂れ下がったガスマスクのベルト部分を掴み、力任せに引っ張った。存外あっさりとそれは外れ、軽い音を立てて地面に転がる。
そこにあったのは、顔の半分ほどを覆う爛れた皮膚と思いの外幼い顔立ち、それから――ずっと夢に見てきた藍色だった。
沢山の感情でいっぱいになって、涙を堪えて唇を噛み締める。
「間違えて、ごめんね」
「……ああ、まったくだ。目の前で他のやつと間違えられた身にもなれ。どうしてやろうかと思ったぞ」
くく、と喉の奥で笑う彼は、それとは裏腹にくしゃりと顔を歪め……何処か泣きそうに見えた。
「藍! 早く逃げて! 社先生、あなたでいいから藍を遠くに……!」
「!?」
学園長が叫んだ瞬間、地面が揺れた。次いでバキバキと木々が折られていく音が連続して響き渡る。
無我夢中だった。どうしても彼を守らなければと。だからこそ失念していたのだ。私が多量に血を流せば何が起こるのか。
「……来る」
直後突然背後から現れた白い怪物に学園長らが弾き飛ばされたのが見えた。彼らは木の幹に叩き付けられ、血を流して呻く。そうして何もかも破壊しながら、またやつは現れてしまった。
今度こそ、お終いだ。沢山の赤い目が私ばかりを捉えている。
「藍」
がたがたと震えている私を地面に下ろした彼は「少し待ってろ」とだけ言って立ち上がった。その足が向く先にいるのは、当然白の化け物だ。
「や、めて。しいちゃ」
「あの学園で、俺がずっと何をしていたと思う」
既に血塗れの彼が両手の手袋を外し、どんどん近付いてくるXを見上げた。
「お前を見つけても連れ出さずに学園に留まっていたのは……ずっと、これの為だった」
ただ自分の細胞を取り戻そうとぽっかりと大きな口を開いた化け物に、彼は小さく笑いながら両手を前に突き出す。
その手がXに触れた瞬間、じゅわりと音を立ててその体の一部が崩れた。
「え」
「お前を殺す為だけの毒だ。存分に味わえよ」
悲鳴だが分からない野太い声が響いて木々を揺らす。それに彼は嬉しそうに顔を歪めて白衣のポケットからナイフを取り出した。
「遠慮すんなよ。もっともっと、いくらでも飲め」
開いた大きな口に片足を掛けながら、彼は躊躇いなくナイフで左腕を切り裂く。そうして吹き出した血を無理矢理Xの口の中へと流し込んだ。叫びが更に大きくなり……そしてややあって、悲鳴すら聞こえなくなった。悲鳴を上げる為の口が崩れ、嫌な匂いを発しながらどんどん溶けて行ってしまったからだ。
それでも彼は止まらない。形が崩れてどんどん小さくなっていく白い体に容赦なく己の血を掛け続ける。あれだけ巨大だった白がまるで砂場の山を崩すように容易く崩壊し、いつの間にか私よりも小さく、そして踏みつぶせるほどにまでなる。
――やがて、とうとう何も無くなってしまった。
「はっ、呆気ねえな……」
「しいちゃん!」
力の無い声でそう呟いた彼が途端に倒れる。最初に撃たれた上にあれだけ大量の血を浴びせたのだ、下手しなくても命に関わるに決まっている。
私はすぐさま怪我を治そうと彼の元へ向かおうとした。――が、不意にそれを阻むように背後から両肩に手が乗せられる。
「えっ、」
「駄目だ」
誰だ。目の前の彼にしか向いていなかった意識が急激に引き戻される。一気に体に緊張が走り、私は体を震わせながら恐る恐る背後を振り返った。
「え……はあ!?」
そこに居たのは二人の人間だった。眼鏡を掛けた知的そうな白衣の女性と、私の両肩に手を置くこれまた白衣の――どうにも見慣れたガスマスク姿。
思わずしいちゃんと目の前の人を何度も見比べてしまった。
「何!?」
「今あいつに触れたら君の方が死ぬ」
「死ぬ……?」
「あの白い化け物が死ぬところを見ただろう、君も同じだってことだ。血を与えても無力化されるだけだろう」
その言葉でようやく理解した。私はあの化け物のコピー品だ。だからあれが死ぬのなら、当然私だって血に触れたら死ぬ。
……分かったけど、結局この人は一体なんなんだ。
「さて、それはそうと燐の応急処置をしなくては。みちる君、頼むよ」
「もうやってます。次いでに救急車の手配も」
そう言ったのは、気が付けばしいちゃんの傍に膝を着いて手当を始めていた白衣の女性だった。研究員然とした格好はどうしても苦手意識を呼ぶが、それでも私はしいちゃんの元へと近寄った。
血に触れないように覗き込むと、彼は目を閉じたままぴくりとも動かない。
「大丈夫ですよ。出血の割に傷は深くありません。図太いこの子がこの程度で死ぬ訳がない」
「……」
私を見て安心させるようにそう言った女性は手を止めずに微笑んだ。
……なんなんだろうこの人達は。その言葉を信じていいんだろうか。もう何を信じたらいいのか分からない。分からない、けど。
固く閉じられていた瞼が僅かに動く。
「……藍」
薄らと目を開けてこちらを見たしいちゃんに、涙が零れた。
あの恐ろしい化け物が目の前で居なくなった。しいちゃんが助けてくれた。それだけ分かれば、もう後は何でも良かった。
糸が切れたように体から力が抜ける。そして次の瞬間、視界が真っ暗になった。