クマさんの"とくべつ"なさがしもの【童話+短編+挿絵有】
ここは仕事を控えたサンタさんのおうち。
そして、僕はぬいぐるみのクマさんだ。
それもただのクマさんじゃないんだ。
クリスマス仕様のとびきりおしゃれなクマさんなのさっ!
◇
「見てよ!この赤いサンタの帽子!キラキラと光る金色の糸で縫られた星マーク!他のクマさんのぬいぐるみとは訳が違うよ!」
僕はサンタさんが子供達に配る予定のプレゼントの一つだ。
けど、他のプレゼントのクマさんと僕は違う。
「いいなぁ……。僕もその帽子がいい。だって僕のは普通のサンタの帽子なんだもん」
「自慢したくなるのは分かるけど、その話さっきもしてただろ。何回繰り返すんだよ……」
他のクマさん達と違う自慢の帽子を僕はつい自慢してたんだ。
それも何度も。
だって、僕はとびきりおしゃれなクマさんだからね!
「いいなぁ……」
「もう、ほっとっけって。……たく」
僕はそんな楽しい日々を送りながら、サンタのおじさんが子供にプレゼントを配る日を待っていたんだ。
他のクマさん達と違う特別な僕は、特別な子のプレゼントで長く大事にしてもらえるんだ。
そうに違いないそう考えていたんだ。
ただ、その時の僕の考えは間違いで、僕は調子に乗っててそれに気付く事が出来なかったんだ。
「ふぁ~あ。みんな、おはよう」
「おはよう……。あれ?」
「というか……、お前どうしたんだ?」
「どうした?ってどういう事?」
12月23日の朝の事だった。
僕が起きて、近くのぬいぐるみのクマさん達に挨拶したんだけど、いつもと反応が違っていたんだ。
「いつも自慢してた帽子はどうしたの?」
「えっ?」
「そうそう。いつもつけていた帽子どこやったんだ?」
「……」
僕の心に急に怖い気持ちが湧き上がって、言葉が出なくなって黙ってしまった。
そして、ゆっくり頭に手を乗せて、そこにあるはずの帽子を確認したんだ。
「……な、ないぃ~~~!!!!」
僕の手は何かに邪魔される事なく、僕の頭の上に乗っかった。
いつもなら触り心地のいい布に触れるはずだった。
僕の手は自慢の帽子を触る事が出来なかった。
そう、僕の自慢の帽子がなくなっていたんだ……。
「ど、どど……。どうしよう!!」
僕は頭の中が真っ白で何も考えられずに、その場で頭を抱えてゴロンゴロン。
右に左に転がってしまったんだ。
「おちつけって」
お、落ち着いてなんていられるわけがない。
あのサンタの帽子のない僕なんて、ただのクマのヌイグルミでしかない。
目の前のサンタ服を着たクマさん達にも負けてしまう~!
今の僕じゃ、プレゼントされた子供もきっと残念がらせてしまう!そして、きっと大事にもしてもらえないに決まってる!
きっと、子供の父親の臭い靴下とかブリーフと一緒に洗濯機に入れられるんだぁぁー!!
「うわぁぁぁ~~~!!」
「な、泣かないで。そうだ!一緒に探そうよ!きっと見つかるよ!」
「はぁ……。しょうがない、俺も付き合ってやるよ」
「うわぁぁん!あじがどう!!」
「味がどうしたって?」
「あじがどうだよぉぉ!!」
「たぶん、ありがとうって言ってるんだよ」
僕は頭が真っ白で、どうしたらいいかも分からなくなっていた。
探せばいいじゃないかって、当たり前の事すらすぐに出てこないくらいに。
それを教えてくれた上に、一緒に探してくれるというクマさん達に本当に感謝したんだ。
この時の僕は分かってはいなかったけど、きっとこれが僕にとって初めての友達だったんだ。
「ねぇ、ロボットくん。この子の帽子探してるんだけど何か知らない?」
「シラナイ。シラナイ」
僕達は他の人形やロボット達に話しを聞いて回る事にしたんだ。
「なぁ、コイツの帽子知らないか?」
「何かの事件?なら迷宮入り必至の迷惑探偵メイキューン!にまかせなさーい!」
「任せるわけないでしょ!!」
◇
何かのギャグアニメの人形らしいが、どんな簡単な事件も迷宮入りにしていく迷惑探偵が人形化される程の人気があるらしく、僕はちょっと驚いたのだった。
「……面白そうだし、一応やらせてみようぜ」
「次回の迷宮入りに乞うご期待ぃー!」
「やめてぇーーー!!」
でも、なかなか僕の帽子は見つからない。
「ふむふむ。赤い帽子か」
「そうなんだ。こう金色の糸で星マークがついてて」
「なるほど、なるほど」
◇
「じー」
「き、君。なぜ私のパンツを見てるんだい?」
「いや、赤くて三角で金色の星マークがついてて、いい感じに耳を出す穴があるなーと思ってな」
「だ、ダメだぞ!私のこの赤いパンツはスーパーなマンの証なんだぞ!」
「なぁ、これを代用すればいけんじゃないか?」
「や、やめろーーー!!」
そして、僕に手渡された赤い三角の星マークのついたパ……。
「こんなバッチィの僕はかぶりたくないよ!!」
「君達は……。今の私を見て何か言う事があるんじゃないかな!?」
赤いパンツは丁重にお股を手で隠していたスーパーなマンにお返して、僕達はちゃんとごめんなさいしました。
僕はかぶりたくなかったし、やっぱり人の物をとっちゃうのはいけない事だしね。
でも、どんなに聞いて回っても僕の帽子のゆくえは結局分からなかったんだ。
「どうしよ……。やっぱり見つからないよ……」
「だね。ほんとうにどこにいっちゃったんだろうね……」
「もう、諦めた方がいいんじゃないか?」
「うわぁぁぁん!!」
僕は諦めた方がいいって言葉を聞いて、また泣き出してしまったんだ。
「そんなに泣いて、一体どうしたんだい?」
そこに、サンタのおじさんが帰って来たんだ。
「ぼぐのぉー!ぼうじぃがぁぁ!」
「じ、実はこの子のキラキラの星マークの帽子が無くなってしまって……」
「ほっほっほ。なら泣かなくていい。また新しいのを作ってあげよう」
「い、いいの……?」
「もちろんだとも。それに私はね。みんなの帽子を完成させるためにここに来たんだよ」
帽子を新しく作ってくれるのは素直に嬉しかった。
だけど、1つだけ分からなかったんだ。
みんなの帽子を完成ってどういう事なんだろう?
「みんなの帽子を完成ってどういう事なの?」
「君達クマさんの帽子は実はどれも未完成でな。帽子に星を作るキラキラの糸が無くなってな。そのままだったんだよ」
「「「え?」」」
僕を含めて3匹のクマさんは、驚いたんだ。
僕は、僕だけがキラキラの星のある特別なクマさんだと思ってたから。
他の2匹のクマさんは、あの赤い帽子を未完成だと思ってなかったから。
「じゃあ、僕だけが特別じゃないの?」
「ほっほっほ。特別な子はいない。みんな同じだよ」
「そ、そんな~……」
僕はガックリと肩を落とした。
自分だけがみんなと違う特別なクマさんだと思ってたからだった。
けど、違っていた。
そして肩を落とした後、自慢してた時の事がとても恥ずかしくなったんだ。
「特別な子はいない。今のところはな」
「?」
「特別になるのはこれからなんだよ。みんなね」
「どういう事?」
「それはね――」
『バンッ!』という大きな音がこの家の入り口の方から聞こえてきた。
そして、『タタタタッ~』という子供が走るような音も聞こえた。
「ねーねー!おじいちゃん!あたしのクマさんは!?」
「すまんな。まだ出来てないんだよ」
どうやらその子供はサンタのおじさんの孫のようだった。
「ねーねー!このクマさんはなんで帽子がないの?」
「帽子を無くしたらしくてね。今から用意する所なんだよ」
「そうなの?でも、一人だけなんか可哀想だよ?」
可哀想と言われて僕は落ち込んだ。
僕はみんなよりも劣っているんだと思ったからなんだ。
「そうだね。なるべくいそいであげよう」
「ねーねー。あたしの帽子をこの子にあげてもいい?」
「でもいいのかい。サンタの帽子じゃなくて?」
「んー?サンタの帽子はおじいちゃんのだし、こうすればこのクマさんは世界に一つだけの、あたしだけのクマさんになるでしょ?」
「ほっほっほ。確かにそうだ。じゃあ、頭に被せてあげるといいよ。ただし、このクマさんをプレゼントするのはクリスマスになってからだけどね」
「うん、わかったー!」
僕は不思議な気分だった。
あれだけキラキラの星のついたサンタの帽子を探して、そして見つからずに泣いていた。
なのに、キラキラもない少し古くなったニットの帽子を貰って嬉しい気持ちが心の中から『ポンッポンッ』と飛び出してきたんだ。
そして、帽子をくれた子供は帰って行った。
「いいのか?キラキラの星マークの帽子じゃなくて?」
「……うん。でも、なんか凄く嬉しい気がするんだ」
「こういう事なんだよ。今の君達は特別でも何でもない、同じクマさんなんだ。でもね、君達はこれから子供達と出会いみんな違った思い出を作っていくんだ。その貰った帽子のようにね」
なんか、なんとなく、なんとなーくなんだけど分かった。
特別なんていない。
いないんだけど、みんな特別なんだ。
特別になっていくんだ。
一人一人違う出会いや思い出を作って同じなんてない特別に変わるんだ……。
「ま、時にはジュースをこぼされ色が変わったり、その家の犬に噛まれて綿が出たりするかもだけどね」
それは嫌だなぁ……。
「それでも、その子供達との思い出は君達だけのもので、それが同じなんてない特別に君達をしていくんだよ」
「つまり、僕はこの帽子で特別になったの?」
「そうだよ」
僕は嬉しい気持ちがこころの中で一杯になったんだ。
ただ、僕の帽子探しを手伝ってくれた1匹のクマさんの顔はつらそうだった。
「ごめん!!!!」
そのクマさんが突然大きな声でそう言ったんだ。
でも、僕達には何がなんだか分からなくて、ちょっと困ってしまった。
「じ、実は、お前の帽子をかくしたのは俺なんだ……」
「なんで、そんな事……」
「うらやましかったんだ。同じクマでクリスマスのプレゼントなのに、なんでお前だけが特別なんだよっ!ってくやしくなって……。でも、そうじゃなくてみんな同じなんだって分かって、でもこんな事をした俺は同じじゃなくて、……最低のクマだって思ってすごく後悔した。ごめん!!」
そう言って、自分のサンタ帽子の中から折りたたまれた僕の帽子を取り出し、返してくれた。
僕はもう怒る気はなかった。
だって、僕にはもう僕だけの帽子があるし、僕が特別だって自慢したのが悪かったんだしね。
そして僕も謝ったんだ。自慢してしまっていた事を。
「その帽子は君にあげるよ。僕にはもうこの帽子があるからね」
「ありがとう!絶対に大事にする!」
「ほっほっほ。さて、仲直りできて良かった。だが、これからが本番なのは忘れてないかな?」
「大丈夫!分かってるって!」
「僕も分かってるよー!」
「楽しみだねー!」
「遅かった!迷宮入りし損なってる!!ジーザスだよぉ!」
「しなくていいと思うぞ!」
「タノシミー。タノシミー」
「ほっほっほ」
僕達はこれからバラバラになって、それぞれの子供達と出会って色んな経験をして、僕達は特別なクマさんになっていくんだ。
僕達も、そして僕達とであった君達も、みんなが一人だけの道を進んで代わりなんてない特別な人になる。
僕はそれを学んだこの日の事を、そして同じクマさんの友達の事を忘れない。
これも大事な僕の特別な思い出だから。
◇