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年男競争

作者: 馬河童

昨年末に書いた短編です。とある競争ですが、バカバカしい感じが伝われば。

「さあ、今年の年男競争が今、一斉にスタート! まず先頭を行くのは井野田選手です」

 アナウンスの通り、ラストスパートでもするかのような勢いで井野田が走る。一気に他の選手を引き離してしまった。

「井野田選手、速いっ! 完全に姿が見えなくなってしまいました」

 続いて井野田に引き離された第二集団が通過して行く。

「第二集団は潮田選手を先頭に、バトラー・根津・宇佐美・達川・深山が続き、六選手が鎬を削っております。井野田選手のような無茶はせず、互いを牽制し合いながら自身のペースを守っている、といった感じです」 

 巨漢の潮田がドスドスと地を踏み締めて行く後ろを、小柄な根津が風除けに使いながら軽快に進む。その脇を宇佐美が飛ぶように走り、バトラーが虎視眈々と噛みつかんばかりの表情で駆ける。その少し後ろに達川が独特のフォームで身をくねらせながら進み、それに遠慮するような雰囲気でその後輩の深山が同じ走り方で続く。この六人の固まりはしばらくそのまま行きそうであった。

「その後に続くのは、遠間選手とシープス選手です。前を行く選手には遅れているものの、まさに互角の様相を呈しております」

 百メートル程離れて、顔の長い遠間と縮れ髪のシープスがデッドヒートを繰り広げていた。顔の長い遠間が懸命に首を振り、引き離そうとするが、シープスはもじゃもじゃの髪を振り乱しながら食らい付く。どちらが前に出るともなく、激しく争っていた。

「ん? その後ろに続く三名、サルニコフ、乾、服部の様子がおかしいぞ!」

 その言葉通り、サルニコフと乾が今にも掴み掛らんばかりの勢いでお互いに身体をぶつけ合っていた。サルニコフは爪を立てて引っ掻こうとし、乾は歯を剥き出しにして噛みつかんとするが、それを服部が羽根のように両手を広げて制するような形となっていた。三者とも走りながらの事なので、容易な状況ではない。先頭集団から遅れたのも、この小競り合いが原因であった。 

「おっと、争う三名の脇をすり抜けて行ったのは、最下位だった根古屋選手だ。優勝候補にも挙げられていただけあり、さすがのスピードです」」

 もつれる三人を俊敏な動きで抜いた根古屋は、前の遠間とシープスを捉えんとしていた。

 

 その間、第二集団はゴール手前の急カーブに差し掛かっていた。ここは大木があり、それを避けるように曲り道が出来ているのだが、

「あっと、井野田選手が木に激突している!」

 トップを走っていた井野田は、木に頭をぶつけながらもまだ突進していた。ただ、さすがに木を倒す力はなく、行く手を阻まれながら前進を続けていた。それを尻目に、後続が次々に急カーブを曲がって行き、井野田は一気に最下位に転落した。

 トップは巨漢の潮田。続くのは根津で、彼は姑息にも潮田のズボンにヒモを括り付け、自らの身体を引かせていた。根津が軽い為か、潮田は全く気付いていない。彼らの後方の順位は変わらないように見えたが、

「おや、根古屋選手が三位に躍り出ている!」

 根古屋がいつの間にかトップ集団まで近付いており、根津に飛び掛かる。明らかに敵意の籠もった攻撃だ。ヤバいと感じたのか、根津は潮田の前まで走り出た。そして、尻ポケットから赤いハンカチを取り出すと、潮田にそれを見せながら前を走る。すると、潮田は突然真っ赤になって興奮し、さらに猛進し始めた。引き摺られるように根津は付いて行き、根古屋を置き去りにした。

 あっけにとられた根古屋にバトラーが凄い勢いで当たり、宇佐美が飛び跳ねながら足を踏んづける。続く達川と深山がタックルをかまし、遠間とシープスがまた踏んづけて行く。さらにサルニコフ・乾・服部にもみくちゃにされ、ようやくふらふらと腰を上げたかと思うと、木から脱出した井野田が突進して吹っ飛ばし、きりもみ回転して地面に激突。根古屋はリタイア確実となった。

 トップ集団に目を戻すと、ゴール手前、潮田に引っ張られていた根津が、最後だけ猛ダッシュして相手を抜き去り、一位でゴールした。

「令和二年の年男は根津さんです!」

 飛び上がって喜ぶネズミの根津。続いて、牛、虎、兎、龍、蛇、馬、羊、猿、鳥、犬、猪の順にゴールした。例年このレースは茶番気味で、必ず干支になる者が勝利して、皆で猫をゴールさせないよう仕向けるのであった。



3枚半という規定があったので、13名登場させるのは無理があり、難しかったです。ここに掲載しているのは少し、言葉を足しています。

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