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6.早速の仕事

「ちょっと待ってください!僕、戦闘の経験なんて皆無ですよ!皆無!」


だから何だと彼は眉をひそめる。


「二人は戦闘のスペシャリストだ。問題はあるまい」


隣で微笑むあやめさんを見るととてもそうは思えないが、円卓の騎士であるジャックさんが言うからにはそうなのだろう。

だけど僕まで行く必要があるのだろうか?その疑問が喉元まで来てごくりと飲み込む。


「あくまで地下で何が行われているのかの調査だ」

「調査と言われましても……」

「拒否権はない。しっかりやれ」


有無も言わせぬ威圧感。

冷徹な視線にあらがうことはできず、僕はうなだれて返事をする。


「は、はい……」



ピピピとジャックさんの時計が鳴り、彼は時間を確認する。



「時間だ。あとはあやめ君を通して説明してもらう。急ぎの案件なので早急の対処を頼むぞ」


そういうとこちらを一瞥することもなく、スタスタと事務所から出ていったしまった。

まるで、早送りの人生を送っているかのような人だ。


「大丈夫ですよ蔵人さん。私たちがしっかりお守りしますから」


励ますようにあやめさんが僕の肩に手を当てる。ありがたいような、情けないような気持ちで、自然と大きなため息が出た。





――仕事の依頼はこうだ。



数日前、今は全面立ち入り禁止となっている旧地下鉄施設に何者かの出入りが確認されたというものだ。


以前は人の往来のために利用されていたという東京メトロ。

しかし、魔物の巣窟となってからは利用を禁止され、中から魔物が這い出てこないように出入り口はすべて封鎖、監視を行うため警備が常駐するようになった。

20年前の文明の遺物と言っても過言ではない。

幾度か再開計画という形で護衛騎士による掃討作戦が行われたが、すべて失敗に終わっている。

利便性を高めるために幾重にも伸びた路線は皮肉にも魔物が生息しやすい環境を作り、誰も近づかないダンジョンと変貌させてしまっていた。

手練れの護衛騎士であってもそんな中へ入っていくのは自殺行為に近い。

しかし、わざわざそのダンジョンへ潜る人間がいる。

その理由を調査してほしいというのが、ジャックさんからの依頼だ。


――昨日撮られたという衛星写真にはすべて、武装した男が数人入っていく所が写っている。


「……彼らにもし遭遇したら?」


写真に写る人物は皆、屈強な肉体をし、いかにもな強面な風貌をしている。その中の一人は僕の頭なんかよりも二の腕が太そうだ。


「捕まえる事になると思います」

「捕まえるってことはつまり……」

「はい、戦闘になっちゃいますね。残念ながら……」


あやめさんは申し訳なさそうに告げる。ですよね。と僕はため息で返事をする。


「ふーん。おもしろそー」


ミティは写真の一枚をつまみ上げてひらひらと揺らす。僕には興味がないが、写真の男たちには興味しんしんのようだ。


「ミティちゃん。真剣なお仕事よ」


「はーい」


空返事を返すミティに、困った顔するあやめさん。

改めて見るとやはり戦闘のスペシャリストとは思えない。2人ともモデルかなんかの仕事の方が向いてそうなほどだ。

だが、やはりこういうことには慣れているのだろう。2人はてきぱきと準備を開始する。


「装備取ってくる。場所は分かったし、先に行っててもいーよ」


「そうねぇ。蔵人さん、武器は持っていらっしゃいますか?対人戦も考慮しないといけませんので重火器の準備もいるかもしれません」


「いえ、お恥ずかしい話ですけど。魔物と、ましてや人と戦ったことなんかないので家にもそういった類のものは……」


「ですよねぇ……どうしましょう。ここには私の装備しかありませんし……」


やっぱりという風な形であやめさんは頬に手を当てて思案する。


「大丈夫なのこの人。足手まといになるからポーションいっぱい必要になるかも」


ミティが僕を指さしていたずらっぽく笑う。


「ミティちゃん。でも、そうですね。装備はしっかり整えておかないといけませんね……」


たしなめる様に答えるあやめさんだが、ミティの指摘には一理ある。

僕は完全にド素人だ。

女の子二人に心配されるなんて何とも情けない限りだが……


「先生が急ぎとも言ってましたし、日が落ちる前には終わらせてしまいましょう。ミティちゃん、蔵

人さんと準備してから行くから、警備ゲート前で集合ね」


「遅かったら先に入っちゃうから」


「ダメよミティちゃん、絶対に待っててね」


「……はーい」


2人のやり取りを見るに、ミティはあやめさんのいう事は意外と素直に聞くようだ。


「すぐに着替えてきますね、蔵人さん。いいお店がありますので、そこで装備を整えてしまいましょう」


「じゃあね~」


ミティは楽しそうに口笛を吹きながら事務所を後にし、あやめさんは戦闘準備ということで奥の部屋へと消えてしまう。

傍から見れば二人ともまるで買い物にでも行くようなテンションだ。

だが、向かうのは危険がたっぷりのダンジョンである。


――事務所に一人取り残された僕は天を仰ぐ。


これから、命懸けのお仕事が始まるんだよな……夢にまで見た、護衛騎士の仕事なんだからしっかりやらなければ……


自分にそう言い聞かせても、まるで実感は湧かなかった。

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