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2.今日も成果無し

イギリスの魔術師が起こした大災厄


『ベンジャミン・エフェクト』


本来交わることのない二つの世界が重なり、一つの世界としてしまったその事件は、お互いの世界の理を大きく変えてしまうことになった。


夢物語の中だけだった魔術が使えるようになり、それが当たり前だった別世界の『ヒト』達が姿を現したのだ。


世界的な大混乱の中、さらに追い打ちをかけるように悪魔、魔物と呼ばれる『外敵』が出現し、破滅へと近づいていた。


皆が絶望の淵にいたある日、悪魔達に反撃を開始した組織が現れる。


『主君無き円卓の騎士団』


彼らは悪魔と戦う術を持っていた。

すべての人類のため戦うと宣言した彼らは、二つの世界の手を結ばせ、悪鬼羅刹を斬り捨て、人類に希望を見せた。

多くの犠牲を出しながらも彼らの活躍で世界は薄氷の平和を取り戻すことができたのだ。

人々が以前の生活を取り戻しつつある中――


僕はここ、東京で、しがない保険屋の営業マンとして生活している。


●  ●  ●


「今時保険たってねぇ、運送業でもなけりゃ危険な目にあうことなんか滅多にないんだし……」


10件目でようやく話を聞いてくれた中年のおじさんは少し薄くなっている頭をポリポリと掻きながら言う。


僕の右目についた大きな傷を見ると、大体の人は話も聞かずに逃げていく。

だが、彼はそれを見ても気にする様子はなく、カッコいいじゃないかとほめてくれた。


実際、僕も結構気に入ってたりする。

これで営業マンでなく、騎士だったら歴戦の戦士感があっただろう。まあ、そうじゃないんだけど……


「それに事故で怪我することになってもよほどの大けがじゃなければ医療魔術で治っちまうんだからさぁ。いやはや便利な世の中になったもんだよねぇ」


「そ、そうですね……ですが、このご時世、何があるかわかりませんし。それに、医療魔法を受けるとなると法外な金額を請求されることがあります。ですので――」


「いやね、俺も当時は生きるために必死で逃げ回ったわけよ。兄ちゃんは小さかっただろうからあんまり覚えてないだろうけど、ありゃあ地獄だったよ本当に」


僕の言葉を遮るように、というより、もともと聞いていなかったのだろう。

おじさんはべらべらと喋り続ける。


「はあ……」


どうやら保険に興味を持ったわけではなく、自分の話がしたいだけのようだ。


「バケモンがうじゃうじゃ現れてさ、テレビも世界の終わりだーってなっててそりゃあ酷かった。仕事なんかほっぽって家内と持てるだけの荷物持って家を出てさ、そうそう、あそこらへんは今でもまだ魔物が多く出るからって、廃墟のままらしいよ」


うんうんと昔を懐かしむように遠い目をする。


「せっかく逃げてきた東京も危ないって時になんたら騎士団だっけ?そいつらが現れてバケモンをバッタバッタと倒していくのをさテレビで中継されるのを見たわけよ!ありゃー昔読んだ漫画のヒーロー集団にそっくりだったよ」


「はあ……」


「俺も憧れてさー。騎士団になれるかもって思ったよ。こう見えて俺、魔術の才能がそこそこあったみたいだしさ。まあ、不合格になったんで今の仕事してるんだけども」

「そうなんですね……」


話の長いおじさんだ。そう思いながら適当に相づちをうって返す。


「で、何の話だっけ?」


「そのですね。生命保険のほうを」


「あーあーそれそれ。悪いけどうちにはいらないわ。悪いね」


「はぁ」


がっくりと肩の力が抜ける。それならこんな長話に付き合う必要はなかったのに。余計に疲れた感じがする。


「そういやあんた、まだ若いんだし騎士学校にでも行って"護衛騎士(パラディン)"にでもなればいいのに。モテるぞ~それにめちゃくちゃ給料いいらしいからな」


「ははは……考えておきます」


バタムッとドアが無情にも閉じられる。


……なれたらもうとっくになってるよ。


そう悪態を心の中でつきながら僕は回れ右して屍人のようにふらふらとその場を離れた。


……今日も成果無しか。今日も上司に怒られるんだろうな。


このまま会社に戻らず逃げ出すわけにもいかないので、どんどんと重くなる足を引きずりながら会社へと戻った。

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