船酔い
甲板に出て、海でも眺めようと思ったら風が冷たかった。
思わず、くしゃみがでる。
拍子に目玉が落っこちた。
両方共だ。
ぼくは慌てて拾おうとしたけれど、目玉は甲板を転がっていく。
目玉が転がるんだから、ぼくの視界は上へ下へとぐるぐる回る。
それで、ぼくは気持ち悪くなってしまった。
早く目玉を拾わなくてはと思ったのだけれど、目玉がないことにはなかなか目玉を見つけられない。
そのうち、船も上へ下へと大きく揺れる。
右へ左へと大きく揺れる。
ぼくの身体も上へ下へ、右へ左へと揺れて、よけいに気持ち悪くなっていった。
とうとう甲板に座り込んでしまって、もう動けない。少しでも動くと胃の中のものが全部、出てしまいそうだった。
それなのに船は容赦なくぼくの身体を上へ下へと動かそうとする。
目は回るし、気持ち悪いし、ぼくはもうどうにでもなれという気持ちになって、甲板の上で大の字になった。
すると、目の前に真っ青な海が見える。船が通ったときにできる白い泡が見えた。
急に目がしみて、ぼくは泣き出した。
目玉は海へ落っこちて、海水が目にしみる。涙はでるけれど、海の青いのはよくみえた。
空のほうにある海がキラキラしている。
小魚たちが通り過ぎて、その腹に太陽の光が反射してキレイだった。
ぼくの目玉はゆっくりと沈んでいく。
そうして、海がしょっぱい理由を知ることになった。
海の底の光もあたらないようなところに、目玉がいっぱい落ちていた。
みんな、海水が目にしみて、泣いている。
最後までおつきあいくださり、ありがとうございました。