表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

97/150

3章22話『仕事』

「『血塗られた舌』の本拠地を特定しました」


アオイさんが地図に赤い丸を付けて見せてくれた。そこはキングスポートの更に北にある丘、それを超えた先の砦跡だ。

夜中、この砦跡に同じ服を着た人が何人も入っていくのを目撃した人物がいるそうだ。その人に聞いてみれば、その服は『血塗られた舌』の制服と特徴が一致していたとの事。


おそらく《エンセスター》の時と同じで砦跡自体はカモフラージュ。その地下に巨大な空間を作ってそこを拠点にしているのだろう。


「本当に大丈夫なんですか……?私もご一緒しますよ?」


「いえ、大丈夫です。ここからは俺のソロパートなんで」


俺はアオイさんに地図のお礼を言い、馬車を使って赤丸の位置まで移動した。

丘を越えた辺りから砦跡が見えてきたが、黒く地面に突き刺さるように立つその建物は強い威圧感を放っていた。

だが、不思議と恐怖は感じなかった。俺はもう全てが終わった後の事を考えている。


アオイさんは兵を集めて明日、明後日には制圧を開始すると言っていた。2日もあれば『血塗られた舌』の人数は大幅に減るだろう。そうなれば後は消化試合みたいなもんだ。


もちろん、これは俺が任務を成功させなければ水の泡になる。だが、そんな心配は必要ない。


ゼロにも言ったが、俺は魔法使いとしてはかなり弱い。だが、この仕事をさせれば俺の右に出るものはいない。


そう考えているうちに砦へ辿り着いた。

俺は改めてその砦を見上げる。大きくそびえ立つ砦はとても俺を歓迎しているようには見えなかった。

まぁいい。どちらにせよ歓迎されるようなものでもない。


さぁ、仕事(殺人)の始まりだ。


俺はまず門の影に隠れ、出入口付近に人がいないかを確認する。いないようだったら少し待って出てくるのを待つ。


しばらくすると、1人のメンバーが外へ出てきた。手には本を持っているが、魔導書には見えない。コイツだ。コイツにしよう。


俺はバッグから1枚の皿を取り出した。

そしてその皿を思いっきり壁に叩きつけ、粉々に砕いた。

パリンッ!石造りの砦にその音が響いた。


「何だ?何の音だ?」


計算通り、メンバーは音の方向へ……すなわち俺の居場所まで歩いてきた。俺は咄嗟に物陰に隠れた。

メンバーは白く輝く食器を見つけ、拾い上げる。なぜこんな所で皿が割れているのだろう?と首を傾げた所で、俺は一気にメンバーと距離を詰めた。


メンバーのフードを剥がし、頭の頂点を右手で鷲掴みする。ここで強く握りすぎると警戒されるが、優しく握ることで仲のいい誰かの所為だと勘違いして一瞬隙が生まれる。

そこに魔法をぶち込む。


「フレイム」


俺はあえて威力の低いフレイムを選択した。それでも脳を破壊するには十分な火力なので、メンバーはそのまま息絶えた。

たまたま転生者だったから遺体がすぐに消えて教会に転送されたようだが、これが現地人だったら少し厄介だったかも知れない。


まぁ結果オーライということで、俺はその場に残された『血塗られた舌』の制服を手に入れた。メンバーが死ぬ直前でグッと制服を引っ張った為、ギリギリで持ち主が俺という判定になり、転生についていかなかったようだ。


俺は軽く土をはらってその制服を羽織った。フード付きのポンチョの白い制服さえ着てしまえば、他のメンバーは俺を敵だとは思わない。

個人個人を認識できるほど小さな組織ではないからな。

ここで制服に血が付いてしまうと怪しまれる可能性がある。だから


俺は堂々と門をくぐり、砦跡へ入っていく。そのまま人の流れを見て地下への入口を発見した。案の定、本拠地は地下にあるようだ。


階段を下りると、椅子に座った男が俺を止めた。


「そこのアンタ、フードを取れ」


俺はキツめの言い方でそう促された。おそらくこの男は門番の仕事をしていて、コイツだけは全員の顔をうっすらと覚えているのだろう。


ここは変にオドオドしてると怪しまれる。そう思い、俺はゆっくり両手を上げた。一切物怖じせず。


すると男はそれ以上俺を警戒することはなく、そのまま見張りを続けた。俺はそのまま廊下を歩いていく。


以前別の拠点に誘拐された時も同じ質問をされた。あの時は俺と、一緒にいたタルデは正直にフードを外してしまったが、ここでの正解はフードは取らず両手を上げることだ。

仲間内だけに教えられている合言葉みたいなものだ。


数分ほど廊下をウロウロとしていると、メンバー個人個人の個室が並んでいる一角へ辿り着いた。と言っても個室を持てるのは上級のメンバーだけのようだが。


そういえばさっき殺したメンバーから奪ったこの制服、ポケットに鍵が入っている。もしかして、アイツ個室を持っていたのか?

俺は鍵の番号を確認し、その個室に向かった。そして鍵穴に鍵を刺してみると鍵はピッタリと一致し、俺を室内に入れてくれた。


中は民間のホテルの一部屋のようなカーペットとベッドとバスルーム、トイレ、それと冷蔵庫とテレビが置いてあった。

地下だから窓がないため閉鎖的ではあるが、一見快適そうな部屋だった。


俺は目の前にあった机の引き出しを漁る。

中には筆記用具や本、メモ帳なんかが入っていた。


その中で俺が見つけたのは、この本拠地の全体図。


「よし、運がいい」


俺はその地図だけ持っていき、個室を出た。

そのまま地図を頼りに本拠地内を進み、ある部屋へ向かった。


「ここで間違いないか」


俺がそう言って地図と見比べた場所は『教祖室』と書かれた場所だ。

今回の殺害対象ターゲットは、言うまでもないが『血塗られた舌』の長。ここでは教祖と呼ばれているらしい。


俺は人を待っているフリをして物陰から教祖室を見張ることにした。


今回、俺は正面からの殺人ではなく暗殺による殺害を採用した。

というのも、これだけの人数がいる団体のボスを目立つように殺そうものなら、他のメンバーが黙っていないだろう。1分も経たないうちにリンチされて殺されるのは目に見えている事だ。


前世で『紅蓮』として活動していた時も、もちろん正面から殺すことの方が多かったが、暗殺もそれなりに行っていた。

例えどんな手段だろうと、人殺しをさせたら俺の右に出る者はいない。


そんなことを考えている内に、明らかに俺や周りのメンバーが着ているものとは違う色の制服を着た女性が教祖室に近付いた。

俺の制服は灰色が強いが、女性の制服は真っ白かった。


女性は手にケーキを持っている。中にいる教祖に差し入れしに来たのだろうか。

俺は女性が教祖室に入ったのを見計らって周囲を確認し、怪しまれない程度に教祖室の入口に近付いて耳をよく澄ませた。

ドアにピッタリ耳をつけているわけではないが、中の会話はハッキリと聞き取ることが出来た。


「コーヒーを持ってきてくれ。喉が渇いた」


「仰せのままに。少々お待ちください」


なるほど。この女性は差し入れ担当のような立ち位置で、定期的にここにケーキやコーヒー等を差し入れしに来ているわけか。

今、コーヒーを持ってきてくれと言っていたな。


これはチャンスだ。


俺はまた物陰に隠れ、女性が扉から出てきたタイミングを狙って怪しまれないように女性の背後を取った。

そのまま存在感を消して女性についていく。


そうして辿り着いたのは『第3食堂』と書かれた場所だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ