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3章18話『最強の魔導士』

「アオイさん……どうしてここに?」


俺の問いに対し、アオイさんの代わりにティリタが答えた。


「ここに侵入する直前にアオイさんから連絡があったんだ。この拠点は一ギルドとして制圧するって。僕は水晶玉を回収したら一度脱出するつもりでいたし、それに同意して座標を伝えたんだけど…………」


まさかここに直接来るとは思わなかった。との事だ。


「でも、教会の座標を送っただけでよくここが分かりましたね」


ティリタが伝えたのは教会の入口付近の座標。にも関わらずアオイさんはピンポイントに俺達のいる最深部へ転移してきた。


「それはまぁ……長年の勘ってやつですよ」


アオイさんはフフッと優しく笑う。


「君は確か《アスタ・ラ・ビスタ》の…………」


「初めまして、アオイと申します」


アオイさんは男に礼をした。男はその様子を見て、両手を広げて首を振っている。アオイさんを甘く見ているようだ。


「子の戦いを親が肩代わりしに来たって訳か…………まぁ、どちらが来ようが私の勝利に変わりはない」


「あら、そうでしょうか?」


アオイさんは1歩ずつ男に近づいていく。右手に持った魔導書には大量の光幻素が蓄積されている。


「蛙の子は蛙。ギルドメンバーが雑魚である以上、そのギルドマスターも雑魚に違いな――――」


男はそこまでで煽りを止めた。

理由は簡単、()()()()()()()()からだ。


「なっ……何っ!?」


焦って周囲を見渡す男だったが、一足遅かった。

既にアオイさんは男の背後に立って光魔法の準備をしている。


「ホープス」


キィィインッ!

光が一瞬にして男の後頭部を襲った。瞬きするほどの間もなく、苦しい顔一つ見せず、アオイさんは光属性の最上級魔法を放った。


「ぐはぁっ!!」


カリアドに物理攻撃は通りにくいが、魔法攻撃なら十分に通る。アオイさんは男がカリアドと一体化しているのを知ってか知らずか、瞬間的に男の頭にそれを叩き込んだ。


「…………なかなか質のいい魔法を使うな。それに動きも早い」


男は大きく穴の空いた頭を抱え、粘液でそれを埋めていく。


「だが、今のは至近距離だったからの話だ。もしお前がそこから動けなくなれば、今と同じように行くかな?」


男はそう言って息を切らせながら右手を伸ばす。すると、アオイさんの足元から俺達の時と同じように粘液が溢れ出した。

もちろん、それは彼女の足を絡め取り硬質化する。彼女の足はがっちりと固められ、ピクリとも動かせない状況になった。


「お前はここに足を踏み入れた時点で負けなんだよ」


男はそう言い、アオイさんにゆっくり近づいていく。


しかし、


「なっ…………消えただと!?」


コイツ、どうやら気づいていないらしい。アオイさんが転移魔法を使えるという事実に。

アオイさんは魔導書に光幻素を貯めることで任意の座標に転移できる。

確かにこの粘液の拘束は俺達には効果絶大だ。だが、それがアオイさんに仕掛けられた途端、この拘束はただのオブジェと化す。


「残念、私に拘束は通用しません」


アオイさんはそう言ってまたホープスを放つ。そもそも最上級魔法というのはそうポンポンと連続で撃てるようなものではない。反動や体への負担、MPの消費などが激しい。

昔俺もたまたま闇属性の最上級魔法ディスペアーを撃ったことがあるが、その時はMPを使い切り、さらに幻素が体内から出ていかなかったため即刻保健室送りになった。


それを軽々と、まるでお菓子を食べるように放っているアオイさんは本当に凄い魔法使いだ。


ふと気になって、隣のティリタに話しかけてみた。


「アオイさんってあんなに強かったんだな。てっきり戦闘は慣れてないかと思ってたぜ」


「僕も最初はそう思ってたけど…………違った。彼女は恐ろしく強い《魔導師》だ」


《魔導師》というのは魔法使い系の職業の最上級職。俺には到底手の届かない場所だ。


「彼女が自ら戦いに出ることは滅多にない」


確かにベルダーの時も、ペルディダやナーダの時も、アオイさんが直々に手を下すことはなかったな。

今の強さを見る限り、彼女が動けば余裕で世界は平和になっただろうに。

まぁ、彼女なりに俺達を育成するだとか次の世代を伸ばすとか色々考えがあったのだろう。『アンティゴ研究会』の時はナイアーラトテップの襲来と時期が被って忙しかったんだろうし。


「でも、ひとたびアオイさんが魔導書を握れば誰も彼女に勝てない」


「誰も彼女に勝てない、か…………」


「君はニグラス内の序列について気にしたことがあるかい?」


「そりゃあるさ」


ニグラスでは定期的に冒険者同士の闘技大会みたいなのが開かれて、そこでの成績はマスターズギルドが管理し序列を付けている。

俺も何度か出たことがあるが、ティリタのマジックアップがないとまともに戦えない俺の序列が上がることはなかった。どういう仕組みなのかLvも50に統一されてしまうからLv差で押し切ることも出来ないし。


「例えば、エスクードさんは153518位、ラピセロさんは132461位、《ビエンベニードス》のギルドマスター・ディエスミルさんに関しては9位という記録を残している」


ちなみにディエスミルさんのデメリットは闘技大会中だけ無くなって彼女のLvも50に統一されている。

この事からデメリットを管理しているのはマスターズギルドだとはっきりと分かる。でなければデメリットを無効化するなんてことは出来ないはずだからな。


「アオイさんは、2位の《ブエノスディアス》ギルドマスター・アルマドゥラさんを押さえて1位に、それも《100年間首位を譲らないままだ》」


「なっ…………!」


俺は絶句した。絶句することしか出来なかった。


「アルマドゥラさんでさえアオイさんには手も足も出ない。なんなら、アルマドゥラさんとディエスミルさんが同時にかかっていっても、決着が着くのに1分要らないんじゃないかな?」


と、ティリタはアオイさんをベタ褒めする。

だが、実際目の前の状況はそれを証明していた。


さっきから男はアオイさんに翻弄されっぱなしだ。攻撃しようにも驚異的な速さで後ろに回られ、そのままホープスを的確に叩き込まれる。

行動を予測しようとしてもアオイさんはさらにその上を行く。


男は必死になってアオイさんを追うが、そのアオイさんはどこか遊んでいるようにも見える。


天と地の差とはこういうことを言うのだろう。


「…………仕方ない、切り札を使おう」


男は焦りながらも、それを悟られないように作り笑顔を見せる。

次の瞬間、男の全身は一気に緑色になった。カリアドの能力を使うつもりだ。一体どんな攻撃が繰り出される…………?


男は雄叫びを上げながら、全身に力を込める。体はメキメキと音を立て、膨張していく。


いや、違う。

男の足先が変色し始めた。変色と言うよりかは半透明だった色が濃くなったと表現すべきだ。

男は両腕を顔の前にやり、体を守るように縦に構える。


「まさか……体を硬質化させて!?」


コイツ、俺達の足を絡めたように全身を硬質化させてアオイさんの攻撃を耐えるつもりだ!

確かに硬質化したカリアドの粘液は俺達の剣や魔法では傷1つつかない強度がある。

でも、そんな事をしたらアイツも動けないはずじゃ…………!


そう思っていた矢先、男は硬質化しているにも関わらず顔を動かして喋った。


「私は硬質化を自由に解除できる。貴様のMPが切れた頃を見計らってなぶり殺してやるよ」


ヤバい……!硬質化した体にアオイさんの攻撃が通るかどうか分からない!


俺は反射的にアオイさんの顔を見る。


すると、彼女はポカーンとした顔で男を見ていた。


「…………終わりですか?」


アオイさんは「え……?」という驚きの表情を見せる男にそれ以上の言葉をかけなかった。


彼女は魔法を至近距離から撃つわけでもなく、20mは離れているであろうその場所から魔法を放った。


「マルヴァ・ブランカ」


アオイさんがそう唱える。

すると、彼女の右手から光のつぼみがいくつも放たれる。そのつぼみは男を取り囲むように四方八方に飛び散る。もちろん硬質化している男はそこから動くことはできない。


光のつぼみは全て先端を男の方に向け、ゆっくりと回転しながら開花し始めた。


と同時に強力な光線が男の体を一斉に攻撃する。キュイイイインッ!!!と高い音を立てながら放たれるその魔法は男の体を徹底的に破壊し続ける。


アオイさんは振り返り、その光を背にしてこう言った。


アスタ・ラ・ビスタ(またいつか)


これがアオイさんの勝利宣言。

もう二度と会うことはないと確信した上で、あえて「またいつか会いましょう」と呟く。そんな皮肉を込めた、最強の勝利宣言だ。


その言葉通り、男の死体はどこにも残らなかった。アオイさんの攻撃で男の全てが幻素へと還ったのだ。


アオイさんは呆気に取られている俺達に対し、優しい笑顔を見せた。

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