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3章11話『暗い光』

 ディエスミルはあからさまに表情を変えた。平然を装おうともしたが、出来なかった。

 まさかデメリットまでバレているとは思わなかったからだ。


「Lvはその者が持つ力と経験を数値化したもの。そのLvが5までしか上がらないということは、冒険者になったばかりのアマチュアと大差ないということだ」


 ディエスミルが銃をメインに使っていたのはこう言った理由からだ。

 銃のダメージは固定。どのLvの冒険者が使っても一律して同じダメージが出る。低いLvの冒険者には重宝する武器だが、逆にLvが高くなるにつれ本人の能力も上がり銃の固定ダメージではもの足りなくなってくる。

 その為、銃使い=弱者というイメージが付いている人も少なくないのが現実だ。

 実際にはゼロやディエスミルのような実力者もいるのに。


「ちなみに俺のデメリットは『所持金0スタート』だ。ま、デメリットにしては軽い方だがな」


 自慢げにそう言うレパティアが憎たらしくて仕方がなかった。


「《ビエンベニードス》製の盾はいいな、生半可な攻撃じゃ全くもって通らない」


 そう言ってレパティアは盾を掲げる。


「……ほぉ?ならばご購入を検討頂きたい」


「悪いが無理だ。1つや2つならともかく、発狂した市民に配るほどには手に入れる必要があるからな」


「そうか。ならばそれ以上わらわの商品に手垢を付けるな」


「いいや、これは俺達のもんだ。もうお前に所有権はない」


「ならば死ぬがよい」


 ディエスミルは銃を撃った。

 バンッ!と小さな破裂音とともに銃弾が飛ぶと同時にレパティアは盾を構えて前方からの攻撃を防いだ。少し前に押し出された盾は銃弾を上に跳ね返した。


「さっきも言っただろ、生半可な攻撃じゃ全くもって通らないと」


 レパティアが小馬鹿にするようにそう言ったが、ディエスミルは口角を上げ、こちらもレパティアを小馬鹿にするように言った。


「今のが生半可な攻撃じゃと?」


 ガンッ!ドスンッ!


「ぐほぁはっ!!」


 レパティアは腰の辺りを撃ち抜かれ、小さく悲鳴を上げた。


「まさか……跳弾?」


 ディエスミルはゆっくりと頷いた。


 ディエスミルは盾を撃ち抜く時に少し角度を付けた。これにより、撃った弾が盾に弾かれた場合天井に辺り、背後の壁に辺り、そしてそのままレパティアの腰を撃ち抜いた。


「Lvが表すのは力だけじゃ」


 ディエスミルは両手で腰を押さえるレパティアを見ながら銃の弾を詰め直した。


「経験は数値化できぬ」


 ディエスミルはレパティアの頭目掛けて発砲する。また乾いた爆音が武器庫内を駆け巡った。


「くっ……!」


 レパティアは盾を構え、今度は跳弾を防ぐようにやや下向きに縦を持って攻撃を防いだ。予想通り、銃弾は地面に命中して弧を描くように小さく跳ね返った。


「やってくれたじゃねぇかこの野郎!」


「それはこっちの台詞じゃ。これ以上はやらせぬぞ」


 ディエスミルは懐から何かを取り出した。ちょうど手で隠れていて、レパティアの位置からはそれが何かは見えなかった。

 ディエスミルはそれを持った右腕を大きく後ろに振りかぶり、そして勢いを付けて投擲する。彼女の手から放たれたのは黒い楕円形の物体だった。


「…………手榴弾だと!?」


 信じられなかった。確かに武器庫の中には手榴弾があったからディエスミルが持っているかも知れないという思考には至った。

 だがここは《ビエンベニードス》の武器庫。ここで手榴弾を爆発させればここに保管されている武器は一緒に破壊される。他の手榴弾を誘爆して更にその被害が大きくなる可能性だってある。


「この倉庫ごと俺を殺そうってのか……」


 レパティアは手榴弾を目で追い、爆風に耐えられるような構え方で盾を構える。

 コロン……と手榴弾が床に転がると、それは内部から光を放ち始めた。ディエスミルはその様子を眺めて笑みを浮かべた。それもそのはず。


 レパティアが自分の仕掛けた罠にまんまと引っかかったからだ。


 気持ちいいくらいに騙されてくれたレパティアにむしろ感謝すら覚える。ディエスミルは作戦実行のために移動する。

 それと同時期にレパティアも自分が罠にかかっていると気づいた。


 手榴弾が光ること以外に何もしなかったのだ。


「まさか……これは!」


 そう、これは手榴弾ではない。閃光弾だ。

 ディエスミルは手榴弾に見せかけた閃光弾を投げて相手を警戒させ、その隙に離脱した。

 わざわざ見た目まで手榴弾に似せておいたのでレパティアはそれに引っかかってしまった。


「ちくしょう……どこ行きやがった!」


 レパティアは周囲をくまなく見渡し、ディエスミルの姿を探す。彼女の体の小ささを考えると、この武器庫の中は隠れられる場所でいっぱいだ。

 レパティアは彼女がスナイパーライフルを持っている事を忘れていない。いつどこから狙撃されるか分からない恐怖に戦いていた。


 とりあえず周りを注意しながら盾を構える作戦をとる。

 盾を捨てて逃げ回る事も考えたが、走るとどうしても周りへの警戒が疎かになってしまうし、あのディエスミルなら走り回っていても当ててきそうだ。という抽象的且つ屈辱的な予想があったからその作戦はやめた。


 結果、盾を持ったまま耐えてスナイパーライフルのマズルフラッシュを探す他に方法が残されていなかった。


 レパティアはじっと待った。

 敵はどこから撃ってくるか分からない。耳と目に神経を集中させた。自分の周囲の世界が妙に立体的に見えた。


 スンッ…………。


 その音はレパティアのすぐ後ろで鳴った。

 呆気に取られたレパティアがほぼ何も考えずにそちらを振り向くと、そこには床にめり込んだ弾丸があった。


「……攻撃だ!」


 レパティアは盾を構え直す。弾丸の方向を確認しておおよその敵の位置を把握し、そこから弾が飛んでくると仮定して盾を持つ。


 今の攻撃が命中していないということは敵もこの暗闇の中から狙撃できるほどの技術は持っていないものと見た。

 落ち着いてマズルフラッシュを探そう。レパティアは乱れた呼吸を整え、もう一度集中し直した。


 今回はさほど時間が経たなかった。

 ちょうどレパティアが注目していた場所に小さな光が現れた。その光を確認し反射的に体を飛びあがらせると同時にレパティアは盾の位置を微調整し、攻撃に備える。

 その攻撃はほとんど無音で、気づいたら地面に銃弾が突き刺さっている。居場所を特定できていなかったらと考えるとゾッとする。


 レパティアは攻撃を確認した直後、手に持っていたナイフを投擲した。最初から投げるために作られていたのか、そのナイフは面白いくらいに狙い通りに飛んでいった。


 ガンッ…………!


 武器庫に響き渡ったのはその音だった。


「…………外したか」


 レパティアは舌打ちをするが、これで相手は警戒して迂闊に攻撃を仕掛けてこないだろう。

 また敵の位置を捕捉して攻撃してもいいし、隙を着いて逃げ出してもいいだろう。

 顔を見られてようが関係ない。どうせすぐに自分のことなど気にしていられないくらいの混沌が世界を襲うのだから。


 だが、彼女の声が聞こえた。


「どこを見ておる」


 バンッ!

 レパティアは背後から手を撃たれる。盾を持っていた手は強い衝撃に耐えかねて盾を落としてしまった。


「…………何だと!?」


 ディエスミルはレパティアのすぐ後ろで笑っていた。彼女の手には1冊の本と小さなハンドガンが握られている。


「なぜ……ここにいる!」


 確かに自分はマズルフラッシュを確認したはずだ。にも関わらずディエスミルは真後ろにいる。

 一体どうやって一瞬で移動したのか。


 それが分からないまま、またディエスミルとレパティアは正面衝突した。

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