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3章8話『称号』

 ピントルは息を荒らげながらアルマドゥラを強く睨む。対するアルマドゥラは呆れたように目を細めていた。


 ピントルは剣を前に突き出すように構え、もう一度猛スピードでアルマドゥラに突っ込んでいった。

 アルマドゥラは右足を軸に体を回転させてそれを避け、ピントルの背後に回った。アルマドゥラを通り越して数歩歩いたピントルは流れるように振り返り、また全速力でアルマドゥラに攻撃を仕掛ける。


 アルマドゥラはピントルの剣の先端を自分の剣でいなし、そのままピントルの腹を蹴ってピントルと距離を取る。今度は逆にアルマドゥラが体制を崩したピントルに向かって突進した。

 ピントルは剣で応戦しようとするが、体制を立て直してアルマドゥラに対応するには少しばかり速さが足りなかった。


 アルマドゥラの剣はピントルの脇腹をかすり切り傷を彫り込んだ。致命傷にこそ至らなかったが、強い痛みがピントルを襲った。


「いっっってぇええ!!!」


 ピントルの悲痛な叫びが公園中にこだまする。アルマドゥラはその隙をついてもう一度ピントルの背後に回り、ガラ空きになった背中目掛けて縦に剣を振り下ろした。


 しかし、


「…………ッ!」


 ピントルの背中に隠されていた剣がそれを許さなかった。


 ピントルは痛がるふりをしてアルマドゥラを油断させ、もう一本の剣で不意打ちを狙っていた。そしてアルマドゥラはそれにまんまとハマってしまったのだ。


「ぐっ……!」


 鉄の剣がアルマドゥラの腕に深々と突き刺さる。出血の量も多く、真下の地面が真っ赤に染められていた。

 ピントルはその隙を見逃さず、手に持っていた剣をアルマドゥラの首に思いっきり振った。空間を切り裂く音が絶望と共にアルマドゥラの耳に届く。


 間一髪それを回避できたが左腕へのダメージは尋常ではない。その傷は風にさらされて継続的に痛みを加えてくる。


「まさか…………そんな隠しダネを持っていたとはな」


 アルマドゥラは両手に剣を構えたピントルに向け、鈍い声でそう言った。


 二刀流。ピントルの戦闘スタイルはそれだった。両手に剣を持つことは単純に攻撃力が2倍になるだけでなく、攻撃や防御のバリエーションが増えることにも繋がる。

 それに上手く使えば今のように不意打ちを行うこともできる。


 まさに剣士の切札と言えるだろう。


「こう見えても俺は《剣豪》なんだ。舐めてもらっては困る」


 《剣豪》は《剣士》系の職業の上級職。その実力は1人で10〜20匹程の超級モンスターの群れを壊滅させられる程と言われている。

 もちろん、同じ《剣士》系の職業であるアルマドゥラはその凄さを理解している。


「確かに《剣豪》等の上級職は就職が難しい。それに就いているのは胸を張っていいことである」


 突然敵に褒められたピントルは8割の警戒と2割の喜びを内側に秘めていた。

 だがアルマドゥラはこう言う。


「しかし実力が見合わなければ称号なんて何の役にも立たない」


 アルマドゥラは目視できないほどの速さでピントルに接近し、下から上に斬り上げるように剣を振った。

 ピントルは咄嗟に2本の剣を交差させてそれを防ぎ、アルマドゥラの剣を弾き飛ばして反撃した。2本同時に縦に剣を斬り込もうとするが、それを避けることは容易い。

 アルマドゥラはピントルの反撃を回避した上でさらに反撃する。


「ぐぼぉぉおああッ……!」


 アルマドゥラが突くように向けた剣はピントルの腹を貫通し、アルマドゥラ以上の出血が起きた。即死こそしなかったが、この状態で戦闘を継続するのは難しい…………いや、間違いなく無理だ。


「私の勝ちは決定した。これ以上争うことは無意味だ」


 アルマドゥラは促すようにピントルにそう言う。しかしピントルは腹を押さえたままアルマドゥラを睨み続ける。その目はまだ殺意に燃えていた。


「争う意味はあるんだよッ…………!俺の絵を傷つけたお前は俺に殺されるべきなんだよッ……!」


 掠れた声がだんだんと治っていくのが分かる。

 アルマドゥラはまさかと思いピントルの腹に目を向けた。


「それが……ナイアーラトテップ様の意思だ」


 ピントルは立ち上がり、落としていた剣を拾った。アルマドゥラの予想通り、ピントルの腹についた傷は既に埋められていた。

 緑色のジェルのようなもので。


「『血塗られた舌』の内、位の高い何人からカリアドの一部を体に移植している。どんなに深い傷跡が出来たとしてもそれがすぐに埋まるんだよ!」


 アルマドゥラは顔を歪めた。

 カリアドという名前自体は知っている。そしてそれがナイアーラトテップの配下だと言うことも。

 だが、体に移植すれば瞬時に傷が治るとは知らなかった。まず異形の一部を人間が移植すること自体倫理的に想像がつかない。そして実際に移植してこのような結果を生み出せるとも予想できない。

 それをさも当たり前のように行っている『血塗られた舌』がいかに危険な集団か、アルマドゥラは再確認した。


「ぅぉおおらぁ!」


 ピントルはグンッ!と一気に距離を詰め、アルマドゥラの両側から挟むように剣を振る。

 アルマドゥラは高く跳び空中で一回転するように離脱し、そのままもう一度突きをしようとした。

 だがその攻撃はピントルの二刀流に阻まれ、なぎ払われた。


 アルマドゥラは左腕をチラリと見た。出血は依然収まらず、息も切れてきた。そろそろ決着を付けないと出血多量で死んでしまう。

 だが、アルマドゥラはさっきのピントルの防御で勝機を見出していた。いや、あの時点でアルマドゥラの勝利は確定していた。


 アルマドゥラは剣の先端についた血を指先でなぞり、大きく振って散らした。


「貴様の敗因は、剣を2本持ったことだ」


 アルマドゥラは剣を横に構え、ピントルに向かっていった。ピントルもそれに応じるようにアルマドゥラに接近し、両者はその中点でぶつかり合った。


「ふっ…………!」


 ピントルはクロスした剣に力を込めアルマドゥラの攻撃を受け流そうとする。

 しかしアルマドゥラも負けてはいない。血塗れになった左腕からはブクブクと血液が溢れ出てくる。だがここで引く訳にはいかなかった。


「…………!」


 ピントルの足が1歩後ろへ下がった。そのまま押されるように2歩、3歩と下がっていく。同時にピントルの焦りも少しずつ蓄積していった。


「私も以前、二刀流を試してみたことがあるが…………使いこなせなかった。理由は簡単だ。剣が2本ある分、1本1本の力が弱くなるからだ」


 それが二刀流最大の欠点。アルマドゥラはそれを知っていたのだ。


「だとしても、《剣豪》の俺をお前と同じ基準で考えられるわけが――――」


「あるさ」


 ピントルは「何っ?」と首を傾げる。


「私は《剣聖》だ。《剣聖》の私が出来ないことを《剣豪》の貴様が出来るわけがない」


 そう言った直後、ピントルの剣は派手な音を立てて2本とも砕け折れた。


「貴様に《剣豪》の称号は似合わん。この世界から消えろ」


 アルマドゥラはピントルの首をはねた。

 ゴツンとレンガの上に落ちるピントルの頭と倒れ込む体。

 首からは緑色の粘液が垂れていた。切れた頭を探しているようにも見える。


 流石にここから蘇生することは不可能だとは思うが、念の為アルマドゥラはピントルの頭に剣を少し刺した。そのままメキメキと頭蓋骨を破壊し、脳を突き破り、刃を貫通させた。


 その瞬間、一瞬ピントルの顔が歪んだのを見て若干の恐怖を感じた。

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