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2章35話『一本道』

 俺とタルデが2人の下に戻ると、そこには多くの冒険者がいた。おそらく撤退してきた突入隊だろう。

 それにしても酷い有様だ。全身傷だらけ、火傷の跡や打撲の跡もある。HPもSANも大幅にすり減ってしまっている。


「グレン!タルデ!2人とも大丈夫かい?」


 こちらに気づいたティリタが声をかけてきた。

 ティリタは冒険者の治療に追われている。そしてそれは他の《聖職者》も同じだった。


「俺達は大丈夫だが……中で何があったんだ!?」


「…………化け物だよ、あれは」


 掠れた声で横から言ったのは俺達もよく知る人物。


「エスクードさん…………!」


 彼女も顔や腕に傷を作っていた。

 エスクードさんは右の肩を抑えながら、足を引きずって俺達に寄る。


「内部の『アンティゴ研究会』は予想以上に武装していた。機関銃とか装備してね」


 俺達が戦った研究会メンバーも同じ装備をしていたから、そこに関しては驚かなかった。


「驚きはしたけど、難なく突破できたよ。わざわざアオイちゃんに突撃任されたんだからそう簡単に負けてられないしね」


 以前エスクードさんと共闘した事があるが、彼女の巨大な盾はあらゆるものを跳ね除ける。

 機関銃の攻撃など、取るに足らないだろう。


「その後もどんどん進んでいって、1番奥の研究室までたどり着いたんだけど…………」


 そこで体験したことは恐ろしかったという。

 エスクードさんは、『アンティゴ研究会』のボスは『EVOカプセル』を投与したモンスターを大量に従えて戦うのではないか、と予想していた。

 そのため突入隊がモンスターの情報を集め、特攻隊はその情報を元に装備を整える。という流れを編み出していた。


 しかし、結果は予想とは大幅に違った。


 ボス・ペルディダは自ら『EVOカプセル』を服用、自分ひとりで突入隊と戦った。

 何度も言うが、ここにいるのは各ギルドの精鋭部隊。中でも突入隊は防御面で優れた人材が多い。

 その突入隊が、たった1人の男に撤退を余儀なくされた。この衝撃は、作戦に参加している冒険者全員が痛感していた。


「ボスは……ペルディダは何のモンスターの『EVOカプセル』を使用したんですか?」


『EVOカプセル』はモンスターの遺伝子を使って作るため、元になったモンスターの特徴を引き継ぐ。そのモンスターを特定できれば、弱点や攻略法が見えてくるかも知れない。


 しかし、エスクードさんはこう言った。


「わからない」


 と。


「確かにヤツは『EVOカプセル』を使用した。それは間違いない。だけど、彼の体にはまるで変化がなかった。濃い毛が生えたりすることも、爪や牙が伸びることも、肌の色が変わることもなかった…………」


 …………まさか、ペルディダは『EVOカプセル』に耐性が出来てしまったのか?

 アイツなら自分を実験台に『EVOカプセル』を開発するくらいしてそうだ。娘を神にしようとしている以上、その娘に下手に『EVOカプセル』を使うことはできないだろう。

 不純物を混ぜる訳にはいかないからな。


「…………ティリタ、調査隊、特攻隊が到着するまでどれくらいかかる?」


「さほど時間はかからないとは思うけど…………到着した所で、ペルディダを倒せるかどうか……」


 突入隊ですらここまでボロボロになるほどの強敵だ…………他の2つの部隊が耐えきれるわけが無い。


 …………俺はある決断をした。


「……エスクードさん、もう動けますか?」


「動けるには動けるけど、もう一度ボスに挑んだら死ぬだろうね」


「……ボスに挑まなければ死なないんですね?」


 エスクードさんは首を傾げた。


「俺達、西側の警備をしてたんです。そこを代わりに守ってください」


「…………グレン君、君は?」


「俺は…………」


 そうするしか思いつかなかった。


()()()()()()()()()()()()()


「なっ……!」


 全員が、目を大きく見開いた。


「ペルディダは自分の娘に……ナーダに大量の『EVOカプセル』を投与するつもりです。罪のない少女を危険に晒すというなら、奴は俺の殺害対象(ターゲット)です」


 自分で言うのもおこがましいが、前世で俺は極悪犯罪者を殺すことで人々を救ってきた。

 そしてそれはニグラスでも変わらない。


「…………本気?」


 エスクードさんが煽り混じりにそう聞く。俺はしっかりと頷いた。エスクードさんを心配させないように。


「アイツは生半可な強さじゃない。娘を神にしようって抜かしてるだけあるよ…………。それでも、行くんだね?」


 俺はもう一度頷き、入り口に向けて歩いた。


「待って」


 そう声をかけたのはゼロだった。


「いい加減自覚しなさい、グレン。あなたは弱い」


 ゼロは左の髪をファサッと揺らした後、不敵に笑った。


「私がいなきゃ勝てないでしょ?」


 …………ったく。


「あぁそうだ。俺はお前がいないと勝てねぇ。だから着いてこいよ、相棒」


「珍しく素直じゃん。私の力、貸してあげるわ」


 俺とゼロは拳でタッチした。


「待ってくれ!僕も行くよ!2人が危険に立ち向かっているのにここで待っているなんて、そんなの嫌だ!」


「俺も行くぜグレン!俺だってお前の仲間だからな!」


 ティリタもタルデも、そう言ってくれた。

 危険な事だということはみんな分かっているはずだ。それでも俺に協力してくれた。


 本当に、いい仲間を持った。


「…………ありがとよ。じゃあ、行くぞ!」


 俺はエスクードさんと少し会話を交わした後、《テララナの城》跡地、もとい『アンティゴ研究会』の本拠地に乗り込んだ。


 中は蛍光灯がついているが薄暗い。深緑色の廊下の至る所に死体が転がっていた。研究会メンバーと思われる死体もあれば、そうでない死体もあった…………。


 途中で何人か研究会メンバーが襲ってきたが、ゼロが超人的な反応速度で相手が撃つより早く的確にアサルトライフルで脳を撃ち抜く。

 その音におびき寄せられた他のメンバーも、ゼロのガン=カタの前に帰らぬ人となった。


 そのまま、地下2階、3階、4階…………と下っていき、ついにそこにたどり着いた。

 地下5階。廊下のない1つだけの部屋。


 扉は既に破壊されており、中の様子が見える。

 中は廊下よりさらに薄暗い。機械から出る電子的な明るさ以外に何も無い、まるでパソコンの中にいるかのような空間だ。

 そしてその先には、白衣を着た銀髪の男。相変わらずポケットに手を突っ込んだまま、遠くを見つめている。

 俺は躊躇うことなく部屋に突入し、


「よぉ。久しぶりだな、ペルディダ」


「…………君は、ベルダーを倒した魔法使い。そしてその仲間達か」


「へぇ、覚えてくれているとは光栄だ」


「覚えているさ。世界を支配しようとする《エンセスター》、その長であるベルダーを倒した君達は英雄だと有名だ」


「そうか、俺は英雄として噂になっているのか」


 俺は手袋をはめた。


「なら、ここから先の展開は分かるな?」


 それに合わせて他の3人も武器を構える。

 ペルディダはため息を1つついてまっすぐ立った。


「分かるものか。未来など誰にも予測できない」


 ペルディダは自分に『EVOカプセル』を投与した。が、エスクードさんの言っていた通りペルディダの体に目立った変化はない。


「この『EVOカプセル』、とてもいい性能だ。協力してくれて助かった」


 ペルディダは俺にそう言った。


「あぁ?何のことだ」


「思い出したまえ。無人島のゴブリン大量発生の緊急クエスト…………あの時、我々の隠し研究所で君は何をした?」


 俺が何をしたか?

 確かあの時は研究会メンバーの発言にキレてそのまま研究会メンバーを機械にぶち込んで…………


 そこまで考えて気づいた。その機械がこの部屋にも無数にあるということに。


「まさか…………!」


 この機械は、『EVOカプセル』の製造装置……!?


「その通りだ」


 ペルディダはシャープなメガネをクイッと押し上げた。


「これは()()()()E()V()O()()()()()()()

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