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2章27話『呪い』

 俺達は紳士の家、もといカダベルの研究施設を出て再度馬を走らせていた。

 森を抜け、しばらくずっと草原を走っている。

 目的地まで、そう時間はかからないだろう。


 今は夜中の3時。戦闘での疲れもあってか、強力な睡魔が襲ってきている。

 どこかで仮眠を取った方がいいだろうか。

 現にティリタの後ろに乗っているタルデはティリタに抱きつきながらぐっすり寝ている。


 どこか適当な場所を見つけて寝よう。

 そう思っていた時だった。


「うわぁああ!!」


 叫び声が聞こえた。

 俺とティリタは目を合わせて頷き、声が聞こえた方へ馬を方向転換させた。


「ティリタ、この先なんかあんのか?」


「大陸の地図を見た感じ、この先には何も無いはずだけど…………だからこそ、悲鳴が聞こえたということは何か危険なことが起きているはずだ」


 もしこの先に民家等があるならそこまで大きな出来事ではないかもしれない。家に虫が出たとか、イタズラがてら驚かそうとしたら思いのほか驚いてしまったとか。


 だが、そうではないとなれば原因は絞られてくる。その中にはもちろん、『人がモンスターに襲われている』も含まれている。


 俺達はなお一層馬を急がせた。


 しばらくすると、まだ明けていない夜の暗闇の中に小さなオレンジ色の光が見えた。

 まさか、誰か人が住んでいるのか?


 と思ったが、そうではなかった。

 オレンジ色の光はゆらゆらと揺れ、動いている。恐らく松明の光だろう。


 だが、あの揺れ方はおかしい。この辺りを探索しているという感じでも、狩りをしていて獲物を追いかけている様子でもない。

 時折止まり、またすぐに発進しを繰り返しているあの光。


 何者かから逃げているようにしか見えなかった。


「ティリタ!飛ばすぞ!」


 俺はそう声をかけ、その光の下へ急いだ。


「うわぁぁあああ!!!お、お前らもアイツの仲間か!!?」


 取り乱した様子の男性は俺達を見て酷く怯え、手に持った松明を振り回した。


「違います!悲鳴が聞こえたから助けに来ました」


 俺は馬を適当な所に停め、周囲を見渡した。

 辺りは開けた草原。遮蔽物となりそうなのは大きな岩と何本かの木だけ。

 そして、目の前には短剣を持った男が立っていた。


「何だアイツ……」


 男はニヤニヤと笑いながら俺達を見つめている。少なくとも味方には見えなかった。


「《盗賊》か…………盗賊はDEXとSTRが上がりやすい傾向にある。十分注意してくれ!」


「あぁ!」


 俺は手袋をはめ、敵を睨みつけた。


「おぉ怖い怖い……そんなに睨みなさんな」


 敵が両手を上げ、俺達を煽るように笑った。


「なに、そこの男を殺そうって訳じゃない。ちょっと協力してもらいたいだけさ」


「何だと?」


「彼の研究している、環境に対応したモンスターの資料。それが欲しかっただけさ」


 一瞬、そこまで悪いやつではないのか?と思ったが、次の一言で全てひっくり返った。


()()()()()()()()


 ゾワッ!全身に鳥肌が立つのが分かった。

 我が父……以前対峙したペルディダを表す言葉。そしてそのペルディダは、アンティゴ研究会の長。『EVOカプセル』の開発者……。


 手加減する訳にはいかなかった。


「テメェらの好きにはさせねぇよ」


 俺はティリタにアイコンタクトを送った。

 上手く感じ取ってくれたティリタは俺にマジックアップを付与する。

 そのまま俺は男に向かって走り出した。


 それに合わせて男も走り出す。明らかに相手の方がDEXが高い。

 だが、相手は盗賊。射程の短い短剣を用いる。

 遠距離攻撃職の魔法使いは苦手なはずだ。


「バーニング!」


 俺は足を踏ん張り、盗賊を迎え撃つように魔法を放った。が、盗賊はその魔法の下にスライディングし、さらに距離を詰めてきた。


「チッ!」


 俺は一度引く。

 ゼロが通り過ぎたのか、背後から風が吹いた。


「はぁっ!」


 ゼロは盗賊とほとんど間を開けず、中距離から銃を放った。

 ダンッダンッダンッと切れ目のいい銃声が心地いい。


「ほぅ……やるじゃないか」


 男はニヤリと微笑み、ゼロに短剣で斬りかかる。

 俺は彼女に加勢しようと、もう一度バーニングを放った。


 …………ポスン。


「…………は?」


 これは……初めて魔法を撃った時と同じ感覚だ。

 最近はティリタのマジックアップや、単純なレベルの上昇から、魔法の射程や火力も比較的マシになってきたはずだ。


 フレイム(下級魔法)ならまだしも、バーニング(上級魔法)でこの程度の威力しか出ないなんて……!


「クソッ!」


 仕方なく俺は近接戦闘にシフトすることにした。


 原因は分からない。

 たまたま幻素の集合率が悪かったか、俺が魔法を撃つのを失敗したか。

 となれば、2発目以降は元通りの威力のはずだ。

 が、念の為接近戦を仕掛けよう。


 試しに目の前の盗賊に向かってウィンドを撃ってみる。


「ウィンド!」


 俺は叫んで右手を突き出したが、手袋はちょっとふわっと風を生み出しただけで、あとはうんともすんとも言わない。


「やっぱりか……」


 明らかに俺の火力が落ちている。

 ティリタに頼んで追加でマジックアップを撃ってもらったが、妙に体の負担が大きい。


 ゼロの動きも鈍り始めた。

 いつもは目が慣れないと目視できないような速さで行う戦闘中の弾のリロードも、今では攻撃を避けながら1発1発慎重に詰め込んでいる。

 ガン=カタの速さも落ちている。


「うぉぉおおお!!」


 俺の後ろから俺を飛び越えるような形で飛び出してきたタルデは盗賊めがけて一直線に剣を振り下ろした。

 盗賊は短剣で対応するも、タルデの剣をいなしきれず、 後ろへ大きく後退した。


「悪ぃな!ぐっすり寝たからパワー100倍だぜ!」


 タルデはさらに畳み掛けるように剣を振り回す。その度に盗賊が巧みに回避する。それがしばらく繰り返された。


「さすがね、あの子」


 ゼロが髪をファサッと揺らし、笑った。

 タルデは歴戦の剣士。そう簡単に負けるような奴ではない。


 と、ここである事態が起きた。


「うぉ…………!」


 カラン。

 タルデは剣と一緒に地面へ転げ落ちた。

 まさか、盗賊の攻撃を食らった!?いや、盗賊とタルデの間は十数メートルある。あの短い短剣が当たるわけが無い。


「くっそぉ……!」


 タルデは剣を拾い直し、もう一度盗賊に斬りかかった。しかし、盗賊はタルデの剣を軽々といなし、さらに素早く追撃した。


「タルデ!」


 おかしい。今の攻撃、タルデなら見切れたはずだ。それ以前に、タルデの剣を赤子の手をひねるようにいなしたあの男の事も気になる。

 さっきはいなし切れてすらなかったのに。


「…………まさか」


 俺は周囲をもう一度見渡した。

 大きな岩、数本生えている樹木。そして俺達。

 敵が隠れているような場所はどこにも無い。


 つまり………………


 俺は襲われていた男性の方を見た。


「…………フフフ、バレちまったか」


 男性は不気味に目を細めて笑い、俺達に向けて杖を突きつけた。


 最初から俺達を陥れるための罠だったとでも言うのか……!?


「ぐっ……!」


 次の瞬間、地球が俺達を引きつける力が増大した。全身がとてつもなく重く感じる。


 そうか……俺の火力不足、ゼロの鈍り、タルデの攻撃力の低下…………全て辻褄が合う。


「あの男……《呪術師》だ!」

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