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2章25話『森の中の人形』

 アトランティス大陸に上陸した俺達は港からすぐの場所にあった馬車を借りた。この馬は手動で動かさなければいけないが、ないよりはマシだろう。

 俺とゼロ、ティリタとタルデがそれぞれ共通の馬に乗って内陸部を目指す。

 調査を依頼された砂漠はここからかなり離れている。到着は明日になるだろう。


 俺は馬を走らせながら、辺りの風景を見渡した。

 最初に訪れた港町はなかなか発展してはいたものの、至る所に廃墟となった家屋があった。

 ボロボロになって骨組みが露出していたり、屋根が剥がれていたり。


 近くを流れていた川も黒く濁っていた。

 見た感じ、生ゴミやモンスターの死骸をそのまま川に流しているようだった。


 マスターズギルドはアトランティス大陸の開発には消極的らしい。

 何でも、アトランティス大陸は危険なモンスターがあまりに多く、発展させて人が移住して来てもすぐに襲われてしまうし、そもそもモンスターの妨害のせいで発展させること自体困難だそうだ。


 それにしたってもうちょっと綺麗にしておかないと衛生面的にダメだろ…………。


 街から離れて土の道を走っていると、深い森林に差し掛かった。

 レムリア大陸の森は、昼間なら多少日光が遮られて薄暗い程度だが、この森は本当に真っ暗だ。一度馬を止めて懐中電灯を取り出し、前方を照らしながら改めて森の中を進む。


「なんかユーレイでも出てきそうな雰囲気じゃねーかー?」


 タルデが隣の馬からそう言う。


「まぁ確かにこうも暗いと、出てきてもおかしくはないわな」


 基本オカルト系の話は信じないタイプだが、興味がないわけではない。


「あー…………でも似たようなものはいるって聞いたよ……」


 ティリタが言葉を濁しながら言った。


「似たようなもの?」


「この森の中心、少し空いた空間があるんだけど…………そこに墓地があるらしいんだよね」


 以前民間ギルドがこの森を開拓しようとした際の事故で亡くなった人達の墓らしい。

 森の中で迷子になって飢えに苦しんだ末、食べたらヤバいものを食べてしまったようだ、とティリタが言っていた。


「そういえばうちのギルドメンバーが言ってたわ。アトランティス大陸のとある場所にはゾンビが出るって」


 ゾンビか…………。

 まぁ、よくある噂話に過ぎないだろうけどな。


 そんな話をしているうちに、森の中に光を見つけた。ぽっかりと穴が空いたように、その空間だけ太陽光をそのまま下ろしていた。


 そして何より驚いたのは――――


「あれ……民家じゃない!?」


 その空間の片隅に家があったことだ。


 俺達は森の中を長いこと走り続けたこともあって疲れたため、一度そこで休憩することにした。


 俺達がそこに馬を止めた辺りで、俺達に気づいた家の主が俺達が訪問するより早く様子を見に来た。

 よそ者の俺達がここに来たのが気に食わなかったから文句言いに来たっていう可能性も十分あったが、その心配はいらなかった。


「こんな所に来客とは珍しい。道に迷ったのですか?」


「いえ、僕達この森の先に用があるんですけど、疲れちゃいまして」


「あぁ、オーゼイユ街からここまで馬で来たのですか。それはさぞかし大変だったでしょう。私の家で良ければ、お貸し致しますよ」


 家の主の紳士は俺達に空き部屋を貸してくれた。


「森の先へ向かうとおっしゃいましたね。ここからだと森を抜けるには数時間かかる。この森を夜、駆け抜けることになります」


 マジか。それはかなり危険だ。


「今夜はここで1泊していくといい。布団も出すし、夕食もご用意しましょう。これも何かの縁ですからね」


 そこまでの待遇をされてしまうと遠慮したくなってくるが、断ればこの森を夜抜けることになる。

 ここは紳士の誘いに乗るのも悪くないかも知れない。


 俺達は一晩、ここで世話になることにした。








 夕方、空き部屋で武器の手入れをしながら今後の予定について皆で話していると、窓から外を眺めていたタルデが興奮した様子で俺達を手招きした。


「おいみんな!あれ!あれ見てみろよ!」


 俺は気だるげに後頭部を掻きむしって窓の外を見る。

 そこにあったのは墓だ。10個ほどの苔むした墓が綺麗に整頓されて並んでいる。

 しかし、今はそんなこと気にならなかった。墓の前に立つ全身土まみれの男に比べれば。


「なんだ……?ここの主じゃねぇよな」


「…………待って、まさか!」


 ティリタは部屋を飛び出し、男の下へ向かった。それを追うように俺達も外へ向かった。

 夕日はもう完全に落ち、頼りない月明かりが俺達を照らした。

 その姿を見た男は、口をがぱっと開いてうめき声を上げた。


「アァァァアアアアア…………」


 力の入っていない腕を俺達の方に伸ばし、首を左右にガクガクさせながらゆっくり近づいてきた。

 この動きを見れば、誰でも分かる。


「コイツ…………ゾンビかよ!」


 俺は反射的にバーニングを放つ。

 光を放って真っ直ぐ飛んでいく炎は見事にゾンビに命中する。

 しかし、ゾンビは体に攻撃が当たったにも関わらず俺に近づくのをやめない。


「チッ…………!ゼロ!頭撃て!」


 ゾンビは頭が弱点だと相場が決まっている。

 ゼロはハンドガンを構えて頭を狙うが、


「ダメ……狙いが定まらない!」


 予測不能な首の動きやら、光がほとんどない暗闇やらが重なってゼロは行動を間接的に封じられた。


「…………タルデ!アイツの体斬れるか!?」


「やるだけやってみるぜ!」


 タルデはダダダッと走り、ゾンビに向かって剣を振り下ろした。ゾンビの体は死後硬直によって硬くなっている。そのため、ゾンビはタルデの剣を手で受け止めてしまった。


「体の腐敗が進んでない…………あのゾンビ、まだ死んでから時間が経っていないのか?」


 ティリタが口元に手を置いて考える。


「…………じゃあ、アイツはつい最近死んで、つい最近ゾンビになったってことか?」


 ティリタは頷く。

 が、そうなると1つ矛盾が生じる。

 俺は相手をよく観察し、その矛盾を解決する糸口を探した。


 しかし、ヤツは…………いや、ヤツらは俺にその隙すら与えなかった。


「アアアァァアア!!」


 俺の背後から別のゾンビが襲いかかる。

 両手を広げて俺を掴もうとしたゾンビを、俺は屈んで避け、ウィンドを撃って距離を取った。


「アアァァァアア…………」


 俺の魔法も、タルデの剣も通らない。ゼロも銃を撃てない……。

 クソッ!このままじゃラチがあかねぇ……!


 俺はゾンビから距離を取るように後ろに後ずさりした。

 コイツら、死んでるということもあってか全く恐怖を感じていない。俺がいくら魔法を撃とうと、もろともしていない。


 ……が、ここで転機が訪れた。


 俺はついに追い詰められた。後ろには井戸、前にはゾンビ、横から逃げようにもギリギリゾンビの手が届く。

 まさに『背水の陣』だ。


 俺は近づいてくるゾンビに焦りながら、足元のバケツを掴んだ。中には水が入っている。きっとこの井戸の水だろう。

 近づいてくるゾンビに向かってその水をかける。あくまで時間稼ぎ。ほとんど無駄な行為だと思っていた。


 が、違った。


「アアアアアアアア!!!!」


 ゾンビはもがき苦しみ、地面に突っ伏した。まるで土下座するかのような形で俺に頭を向ける。

 チャンスだ。

 俺はゾンビの頭を掴み、叫んだ。


「バーニング!」


 ゾンビの頭の中で小爆発が発生し、その場には首だけになった死体が残った。











 タルデと対峙していたゾンビにも水をかけ、そのままゼロが脳を撃ち抜いて撃破した。


「ふぅ……これで何とかなったわね」


「……そうだ、あの紳士は大丈夫だろうか!?」


「様子を見に行こうぜ!」


 多分、大丈夫だろう。

 そんな暗い安心を胸に、俺は3人について行った。

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