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2章23話『新入り』

「よし、これで大丈夫だよ」


 ティリタがゼロの精神分析を終え、立ち上がった。ゼロも発狂から戻り、タルデのケガもだいぶマシになった。


「ありがとう。助かったわ」


 ゼロは髪をファサッと揺らし、銃弾を詰め始めた。あんな小さなハンドガンのどこに50発も弾が入るのだろうか。


「タルデも大丈夫か?ここで待っててもいいんだぞ?」


「…………いや、ここまで来て引き下がるなんてお断りだ。俺は皆についていくよ」


 タルデは剣を杖代わりにし、ぐっと立ち上がった。

 俺達は顔を見合わせ、頷く。全員の覚悟と不安が手に取るようにわかった。


 ――――先程、キャンプから連絡があった。

 俺達がギャア=ヨスンに気を取られている間に他の部隊がダンジョンの最深部までたどり着いたこと。

 ダンジョンのボスはフェノメナ=ギャア=ヨスン。ギャア=ヨスン達を従える女王だということ。


 そして、そのフェノメナ=ギャア=ヨスン1体に総勢17人の冒険者が倒されたことが報告された。


 名だたる冒険者がボロボロと殺されていく様はこの世のものとは思えなかったそうだ。

 報告した冒険者本人も、キャンプに引き返して精神分析を受けているという。


「それだけ強い相手って事よね……」


 俺は重く頷く。


「だが……やるしかねぇだろ。ここで引き下がったって何も得られない。何も得ずに生きるくらいなら何かを得て死んでやるよ」


 俺は手袋をしっかりとはめ、MP回復ポーションを一気飲みした。渋くて甘い薬の味が舌に気持ち悪く残る。


「僕も……君と同意見だ」


 ティリタは展開前の杖を強く握った。


「俺だって……覚悟決めるさ!」


 タルデは自分の胸をドンッと叩き、引きつった笑顔を見せた。


「ゼロ……お前はどうなんだ?」


 俺はゼロに視線を向ける。ゼロは唇をスッと親指で擦り、言った。


「私が負けるわけないでしょ」


 ゼロは、相変わらずゼロだ。俺達に心配する余地すら与えない。生意気だけど、カッコいい奴だ。

 俺はゼロに小さな憧れを抱くと同時に、最深部へと向かう階段を見つめる。


「行くぞ…………みんな!」


 俺達は真っ暗の階段を駆け下りた。










 最深部には鉄製の扉があった。

 聞き耳を立てても全く中の音が聞こえないほど厚い扉だ。クン=ヤン人はフェノメナ=ギャア=ヨスンを警戒して、厚い扉を設置した最深部の部屋に隔離したようだ。

 つまり、そうしなければいけないほどの強敵だということだ。

 俺の手が少し震え出した。


「開けるぜ……!」


 タルデが先頭を切って扉に手をかける。

 ドアノブが捻られると同時にめいっぱい奥に押された鉄の板は、その先にいる巨大な猿人の姿を公開した。


 見た目的には、ギャア=ヨスンによく似ている。全身毛むくじゃらで長い牙が生えている。


 しかし、女王ということもあってか細かい部分はギャア=ヨスンと異なっている。

 牙が綺麗な白色をしていたり、毛並みが整っていたり、全体的に大きな体をしていたり。

 1発でギャア=ヨスンの長だとわかる見た目だった。


 ボスは鋭い目で俺達を睨み、威嚇した。


「グギャギャアアアアア!!!」


 空間がビリビリと痺れる爆音に、とっさに耳を抑える。だが、それでも俺は怯まずに右手を突き出した。


「ダークネス!」


 一筋の黒い線がボスの胸の辺りまで飛び、一瞬の空白を経て漆黒の爆発を起こした。

 ダークネスは俺の使える魔法の中で1番射程が長い。その分威力や弾速は遅いが、牽制に使うくらいなら不自由ない。


 俺はボスが一瞬怯んだ隙をついて駆け込み、地面を強く蹴った。


「バーニング!」


 叩きつけるようにバーニングを撃った。落下のスピードと重力が合わさって、なかなかの火力が出た。

 とはいえ、相手はダンジョンのボスモンスター。腕に命中した俺のバーニングを難なくいなし、長い爪で反撃を仕掛けてきた。


「ウィンド!」


 落ちてくる爪をウィンドで止めながら回転回避する。


「ティリタ!マジックアップだ!」


 ティリタは杖を展開してマジックアップを俺にかける。俺のPOWは上昇し、更なる威力の技を放てる。

 俺最大の欠点・POWの不足はティリタのマジックアップと『彗星』の力で多少は緩和されている。それでもまだ他の魔法使いに比べると弱いが。


「バーニング!」


 俺は更にバーニングを放つ。距離的に命中するかどうか怪しいし、当たったとしても大きなダメージにはならない。

 しかし俺の目的は別にある。


「うぉぉおおお!!!」


 ボスの背後からタルデが剣を振るう。縦一直線に振るわれた凶器はボスの毛を削ぎ落とし、背中に傷を付けた。


「グギャギャアア!!!」


 ボスは叫ぶと同時にタルデの方を振り返って爪を振りかざした。タルデはそれを剣でいなす。

 それでもタルデは大きく後ろにノックバックした。あの攻撃を喰らったらひとたまりもないだろう。


 そしてそのタルデを踏み台にして、後ろからゼロが飛んできた。


「空中戦は苦手ね。反動の制御が難しいわ」


 と言いつつもゼロは空中で回転し、ボスの目に攻撃を加えた。普通なら目玉が潰れていてもおかしくないが、さすがは女王。少し痛がる素振りを見せただけでほとんどダメージが入っていない。


「グギャギャアアア!!!」


 ゼロはそのままボスの攻撃をくらった。

 上に上げるように殴られたゼロは天井に強く叩きつけられ、そのまま落ちていく。


「おっと!大丈夫かゼロ!」


 タルデは落ちてくるゼロをキャッチし、地面にそっと置く。ゼロは苦い表情を浮かべながら、作り笑顔を見せた。


「私が死ぬとでも?」


 ガクガクになった体を無理やり起こし、ボスに立ち向かっていく。

 俺はゼロを援護しようと彼女に近づいた。


「どうしたの?」


「なに、相棒のピンチに駆けつけただけさ」


 俺は目の前のボスにバーニングを放つ。


「ティリタ!スピードアップを頼む!」


「わかった!でも無理しないでよ!」


 ティリタから送られてくるスピードアップは俺の体を軽くする。これはDEXを上昇させる魔法だ。

 だが、重い体を強引に動かす分負担は大きい。

 多用はできない。


 だが、今は使うべきだ。何故かって?

 俺はボスを指さした。


「ゲームオーバーだ!」


 勝利が見えたからだ。


「ゼロ!弾丸よこせ!」


「弾丸……?何に使うの?」


「説明は後だ!俺を信じろ!」


 ゼロはフッと笑い、俺に弾薬の入った箱を投げつけた。

 それを受け取った俺は、「ありがとよ!」と告げ、ボスの周りを猛スピードで走り出した。


「グギャギャアアアアア!!!」


 ボスは俺を威嚇してくるが、気にしてられない。

 俺は地面を強く蹴り、高く飛んだ。


 ボスは威嚇をする為に口を大きく開く。

 そしてそれは威嚇が終わった今もそのままだ。


「ほら、エサだ」


 俺はボスの口の中に弾丸を投げ込んだ。箱の口を少し開けておいたので、ボスの口の中で弾丸がバラバラと散らばる。

 すかさず俺は右手を突き出した。


 この作戦は一か八かだ。たとえ成功してもアイツを倒せるとは限らない。

 だが、俺は成功させて見せる。

 ここで成功させるのが、天才殺人鬼『紅蓮』だからな。


「バーニング」


 俺はボスの口の中にバーニングを放つ。

 綺麗に口内に命中したバーニングは強い熱と炎を発生させた。


 パン!


 1つの音が鳴った。


 パンパンパン!


 続けて複数の音が鳴った。

 ポップコーンが弾けるように連続して爆発する火薬はボスの頭を内側から撃ち抜いた。


 これが俺の作戦だ。

 ボスの口の中に弾丸を入れ、それにバーニングで引火することで内側から脳を撃ち抜く。

 毛皮で覆われたボスを倒すのに、最も効率のいい方法だ。


「グギャギャアアアアアアアアア!!!」


 ボスは今戦闘最大級の叫び声を上げて、直後にバタリと倒れた。バサッと上がった砂煙はボスの体から蒸発する魂を表しているようにも見えた。












「なんとか勝てたな……」


 俺は息を切らせながらそう言った。


「とにかくキャンプへ戻ろう。ゼロの体も心配だ」


 ティリタの提案に乗り、急いでキャンプに戻ろうとしたその時、


「待ってくれ!」


 タルデが声を上げた。


「俺を、お前達の仲間に入れてくれないか?」


「えっ……!」


 驚いたあまり、俺はそう声を漏らすことしかできなかった。


「今まで俺は1人で戦ってきた。でも、あの日初めてグレンやゼロ、ティリタと一緒に戦って、仲間ってのがどんなものか分かったんだ!」


 タルデは目を輝かせながら言った。


「偶然にもこうしてまた会えたんだ。俺はみんなと一緒に戦いたい!」


 タルデのその訴えに、俺とティリタは顔を見合わせた。が、お互い答えは出ていたようだ。


「大歓迎だ。これからよろしくな、タルデ」


 俺が差し伸べた手をタルデは強く握った。

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