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2章21話『2つ目のダンジョン』

 カリアドとの戦闘の次の日、俺達は先の見えない洞窟の前にいた。

 俺はそっと胸に手を置いた。心臓がいつにも増して活発に動いている。

 1回深呼吸をした。


「この先が《クン=ヤン》…………僕達が挑む、2つ目のダンジョンだ」


 ティリタが俺達に再確認させるようにそう言った。


 他の冒険者達は別の入口から突入したり、俺達と間を開けて突入するようだ。

 ここで先鋒に選ばれたのを光栄に思うと同時に、ベルダーを倒したことや《テララナの城》を攻略したことが大きな功績になっているのだと改めて実感した。


 12時30分に一斉に突入するよう言われている俺達の視線は手帳に内蔵されている時計に集中していた。


 27分……28分……29分……。


 ついにその数字は30になった。

 俺は2人の顔を見て、坂道になっている洞窟の入口を駆け下りていった。


 5分ほど真っ暗な洞窟の中をライトで照らしながら下りて行くと、うっすらと青い光が見えてきた。

 光は近づくにつれて青色から空色に変わっていく。サファイアに強い光を通したような色だ。


 もう1つ、下に進むにつれて変化していったものがある。


「何だ……?この臭い」


 嗅いだことの無い激臭が、下に行くにつれて強く漂ってきた。例えるなら、チーズや生ゴミ。それらが腐ったような臭いだ。


「ねぇグレン……この臭いってさ」


「どうしたティリタ。なんか心当たりあんのか?」


「…………いや、黙っておくよ。SANがもったいないからね」


 あぁ……なるほど。

 やんわりと理解してしまった俺のSANも減っているんだろうな。


 俺達は遂に、光と臭いの元である大きな空間の前まで来た。扉のない入口の先に、長い髭を伸ばした人間がうじゃうじゃいる。


「何モンだアイツら……」


「他の冒険者が言っていた。彼らはクン=ヤン人。このダンジョンに住む地底人だ」


 地底人か……。


「友好的な民族だといいんだが…………そうもいかないだろうね」


 ダンジョンとして攻略対象になるくらいだからな。


 俺は中の人間にバレないように空間を覗いた。中はコンサートホール程の巨大な部屋で、所々水晶で出来た柱が立っている。

 とはいえその数は数えられる程。それに柱は透明だ。身を隠せるとは思えない。


 中にいる人間は20人くらい。俺達以外の冒険者が同じようにどこかから隠れて覗いてるとしたら、強行突破できない数ではない。

 賭けになることは間違いないが。


「どうする?このまま突っ込んで倒せるだけ倒すか、それともキャンプからの連絡を待つか?」


 状況を送信すれば、キャンプの戦略本部が指示を出してくれる。

 だが、それを待つ間にクン=ヤン人に見つからないとは限らない。


「グレン、僕がマジックアップをかけたとして、ここからバーニングを撃ったらどの辺まで届く?」


「そうだな…………だいたい20mくらいか」


 魔法使いなのにPOW低いの辛い。


「ゼロ、君がハンドガンを撃ったとしたら?」


「…………50mは届くけど、音でバレないかしら」


「確かにそうだよね。グレンのバーニングに頼るしかなさそうだ」


 ティリタの作戦は、まず俺が何かしらの魔法でクン=ヤン人の注意を引く。そしてクン=ヤン人が集まってきた所を俺とゼロが一網打尽にする。というものだ。


 そう上手くいくか?

 まぁやってみるしかないか。


「最悪何かあったら他の冒険者が加勢してくれるはずだ。やってみよう」


「よし……!ティリタ、マジックアップ頼む!」


 展開された杖の先から出る閃光が俺を包む。内側から湧き出てくる力をそのまま放出するように、空間の中にバーニングを放った。


 ドォォォン!


 バーニングの衝撃音は空間いっぱいに広がり、クン=ヤン人は辺りを見回した。


「何だ!?ギャア=ヨスンが暴れ出したか?」


「違う、天井が崩れたんじゃないか?」


 なるほど。言語能力は俺達と大差ないのか。


 クン=ヤン人はバーニングの着弾点に集まり出した。計画通りだ。

 俺はゼロの顔をチラリと見る。彼女は不敵な笑顔を見せた。ミステリアスながらも安心感のあるその笑みを見て、俺は頷く。

 そしてクン=ヤン人に突撃していった。


「おらぁ!」


 俺はもう一度バーニングを放つ。MPの消費は激しいがその分高威力だ。フレイムの何倍も強い。

 更に畳み掛けるようにダークネスを放つ。クン=ヤン人の中心で消えた黒い線は爆発して一気に広がった。


 残ったクン=ヤン人は後ろからボロボロのナイフを取り出して応戦しようとする。

 中には笛を吹いているヤツもいた。


 それらまとめてゼロが一掃した。

 彼女は殴りや蹴りを素早く連発し、その間に拳銃を脳天に叩き込んでいく。中距離の相手には催涙スプレーを吹きかけて動きを止め、その隙に間合いを詰めて首を折る。


 ゼロの武器は銃だけではないのだ。


 彼らの死体の中に仕留め損ねたクン=ヤン人がいた。首を痛そうに擦りながら薄目を開ける。

 ゼロはソイツの胸ぐらを掴み、持ち上げた。


「く……苦しい……」


「これからいくつかの質問をするわ。答えなかったら即刻撃ち殺すわよ」


 クン=ヤン人の女は微かに首を縦に振る。

 ゼロはそれを見てニヤッと笑った。


「まず、あなた達はここで何をしているの?」


「…………い……」


 い?


「イグ様への…………信仰を捧げている……」


 イグ様か……。あの言い方、ベルダーやペルディダのような団体の長ではなく本当に神を崇めているようだな。


「なぜ外の人間を襲うの?」


 このダンジョンの付近からは数々の人の死体が見つかっている。それ故に危険なモンスターが中にいると予想されていたが…………中にいたのは同じ人間だった。


 ゼロの問いに対し、クン=ヤン人はこう答えた。


「ギャ…………ギャア=ヨスンの……え」


 ゼロは何かを察したようにクン=ヤン人の口に銃をねじ込んだ。

 ティリタも同時に拳を強く握った。


「この異臭…………やっぱりそういう事だったのか!」


 恐怖と怒りが混ざったような顔を見せる。


「もう1つ質問があるわ。そのギャア=ヨスンはどこにいるの?」


「……ここから更に下の部屋……。だけど、さっき笛を吹いたから…………もう……」


 こっちに迫って来ているということか。

 それは非常にまずいな。


「もう1つ質問。カリアドもクン=ヤン人の産物?」


「ち……違う……。カリアドは……イグ様の従者ではない…………」


「じゃあ、誰の従者なの?」


「…………這い寄る………………混……沌」


 這い寄る混沌…………聞くからにヤバそうな名前だ。神と言うより邪神か?


「そう。質問は以上よ。ありがとう」


 ゼロはクン=ヤン人を地面に落とした。

 クン=ヤン人はゲホゲホと咳をする。しかし、上から聞こえるチャキッという音に反応してすぐに上を向いた。


「じゃあね」


 ダンッ!

 鈍い銃声が空間に鳴った。











「この女の話が本当なら、そろそろギャア=ヨスンとかいうのが来るはずだけど……」


 ゼロは先程まで生きていた死体の頭をつま先でつつく。その目は呆れたように冷たかった。


「…………あの状況で嘘を言うとも思えないよね」


「あぁ……覚悟決めるか」


 俺は赤石手袋をしっかりとはめ直した。

 ギャア=ヨスンの襲来に備えて。

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