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2章20話『混沌の従者』

「グレン!大丈夫かい!?」


 ティリタは俺に回復魔法を撃つ。

 と同時に、隣にいたタルデの存在にも気づいた。


「君は……あの時の剣士!君もここに来ていたのか」


「おぉ!ティリタだな!覚えてるぞ!」


 タルデがニコニコしながらティリタに近づくが、ゼロがそれを止めた。


「今は感動の再開に浸ってる場合じゃないわ」


 ゼロは両手の銃をクルクルッと回転させ、目の前の異型を睨んだ。

 その重い空気を感じ取った俺含む他3人も、緑色の人型のジェルを凝視した。


「貴様らは、私を見るのは初めてか?」


 異型が突然、言葉を喋った。というより、直接脳に語りかけてきているという感覚だった。

 その声は何重にも重なって、言葉を聞くだけで脳が痺れてしまいそうだ。


「…………お前は何者だ」


 俺はダメ元で異型にそれを問う。


「私はカリアド。混沌の従者…………」


 異型はそう言って腕を少し上げる。ドロドロのジェルが地面にとめどなく垂れた。

 異型に顔はない。楕円形の頭とスラッとした体の全てが緑の粘液で形成されている。

 生物なのか否かすら分からない。


「ティリタ、アイツの正体わかるか?」


 ティリタは首を傾げ、恐る恐る口を開いた。


「少なくとも、二グラスの者ではないね。だけど、何かしらの液体に土幻素が集中した物だということはわかる」


 土幻素。周囲の土や砂を集中させることが出来る幻素だ。これを使った土魔法はあるが、なかなか使い勝手が悪いらしい。


「じゃあ…………倒せない相手ではないのね?」


 ゼロが不敵に微笑みながら聞くと、ティリタは同じく不敵に微笑みながら頷いた。


「どうやって意志を持っているかは知らないけど、所詮は液体と幻素の集合体。攻撃……特に魔法攻撃を加えれば簡単に倒せるはずだよ」


 なるほどなぁ。

 俺の中のボルテージは最高まで上がった。

 そのまま手袋をはめ、ニヤリと笑う。


「ここからは俺のターンってわけか」


 すると、異型が言った。


「そうはさせん」


 次の瞬間、異型の手の先から歪みが発生した。その歪みは俺に直接入り込んできているようで、頭が劇的に痛くなった。

 そのままヘナヘナと地面に倒れ込むように沈んでいく。


 そしてそれはティリタも同じのようだった。彼も頭を抱えて小さく唸っている。


「テメェ…………何しやがった!」


「封じたのさ。虚数空間への扉を」


「虚数空間の扉…………まさかっ!」


「そうだ。人間共は幻素を虚数空間から引っ張り出し、それを集中させて魔法とぬかしているのだろう?その虚数空間の扉を閉ざされた今、貴様らに魔法は放てるか?」


「…………クソッ!」


 俺は地面を強く殴った。

 魔法を封じられた今、デメリット効果で物理も使えない俺に打つ手はない。

 完全に足手まといだ。

 ティリタは杖を前に向けて強く念じる。しかし、その先端から魔法が放たれることはなかった。


「…………ダメだ、本当に魔法が使えない!」


「…………チィッ!」


 ティリタも魔法を使えないんじゃあ、攻撃はゼロとタルデに任せるしかない。

 だが、液体であるカリアドに物理攻撃が通るのか?


「ゼロ……俺とティリタはもう戦えない。アイツを、カリアドを頼めるか?」


 ゼロは俺に背を向け、銃をクルクルッと回転させた。そして少しだけ後ろを振り返り、微笑んだ。


「あなたの相棒を信じなさい」


 ゼロはそう言って髪をファサッと揺らし、カリアドに向かって走り出した。


「タルデ、あなたも手伝って」


「おう!やってやろうじゃねぇか!」


 タルデも刃をスッと撫で、カリアドに切りかかる。

 タルデの細長い剣はカリアドの緑色の体を縦に切り、グチャリと音が鳴った。

 しかし、液体であるカリアドにはほとんどダメージが入っていない。


 カリアドがタルデをなぎ払おうとしたその時、カリアドの背後をついたゼロの銃撃が炸裂した。


「タルデ!避けてね!」


 ゼロは右足を軸に大きく2回転し、その間に17発もの銃弾を撃った。ゼロの掃射攻撃はカリアドだけでなくタルデにも牙を向いたが、幸いタルデの方はかすり傷程度で済んだ。


 かと言ってカリアドに大きくダメージを与えられたかと言えばそうではない。カリアドはジェルの中に銃弾を閉じ込め、吐き出すように排出した。


「私に貴様らの攻撃が通るとでも?」


 同時に何十人も話しているように聞こえるその声でヤツはゼロとタルデを煽った。

 タルデは「あ!?なんだと!?」と怒りを顕にしていた。が、ゼロは依然ふてぶてしく笑っていた。


 ゼロは絶対的な自信を持っている。

 自分は負けない。自分は天災級の冒険者。自分は最強の銃使い。何度も彼女自身に言い聞かせている。

 そして、彼女はそれに見合う実力と頭脳を持っている。最も敵に回してはいけないタイプだ。


 ゼロは弾丸をリロードして攻撃を続けた。

 武闘家特有の身軽かつ繊細な動きで、カリアドを殴り、蹴り、そのまま流れるように銃を撃つ。

 彼女はガン=カタを既に我が物としていた。


「無駄だと言っているのが分からないのか?」


 ゼロは一切反応を示さない。

 そしてその態度にカリアドが怒ることも無く、虚無と虚無がぶつかり合っていた。


 たった1人を除いて。


「うらぁぁぁあああ!!!」


 タルデは大きく助走を付けてカリアドの背後から真っ二つに切り分ける。

 水音すら発生せず、カリアドの体がただただ2つに分かれた。


「俺を…………俺達を舐めるな!」


 タルデはあからさまに目を尖らせ、歯を強く噛み締めていた。


 しかし、


「全く、人間とは愚かなものだ」


 カリアドはそれでも生きていた。

 それどころか、真っ二つにされた体一つ一つが改めて人型に形成され直した。

 つまり、分裂したのだ。


「どっ、どういうことだ!!」


 とっさに俺も叫ぶ。


「土幻素だ!あの生命体は周囲の土幻素を集中させて分裂するんだ!」


 ティリタの説明を聞き、血の気が引いた。

 まずい。ただでさえ数的優位を作らないと勝ち筋が見えなかったのにそれすらも覆されてしまった。


 俺はますますゼロとタルデを凝視する。


「そうだ、面白いものを見せてやろう」


 2人のカリアドはタルデを取り囲み、地面に吸い込まれて行った。

 次の瞬間、タルデの体が徐々に下に降り始めた。


「うっ、うわぁぁぁ!!!」


 底なし沼にはまって足を思うように動かせないのか、地面が下の方から持ち上げられるように揺れた。


「私が彼の隣にいる限り、彼は沈んでゆく。しかし私を殺そうにも、貴様らにそれは出来ない。銃も剣も、意味を成さないのだからな」


 カリアドは両側からタルデの頬を撫で回し、俺達の脳内に直接嘲笑う声を送り付けた。


「テッメェェエエ!!」


 俺は怒りのあまり、手袋を脱ぎ捨ててサバイバルナイフを手にした。しかし、デメリット効果は明確な殺意を持ってしまった俺が凶器を握ることを認めなかった。

 鋭い電撃が刺さると同時にヤツへの怒りも増していく。


「無力だな、人間というのは」


 カリアドがジェル状の体を揺らす。

 だが、彼女がカリアドの背後で礼をしていた事に本人は気づいていなかった。


 起き上がったゼロは無表情でこう呟く。


「これより、死刑を執行します」


 ゼロは両手の人差し指に一丁ずつ銃をぶら下げた。その指はタルデの両側に立つカリアドに向いていた。

 その指が内側に向き、ゼロはハンドガンを高速で回転させる。と同時にガガガガガ!!!と銃声が連続で響く。


 ゼロの『アクセル』だ。


「何度も言うが、無意味だ。貴様の攻撃は私には届かん」


「…………どうかしらね?」


「なんだと?」


 ゼロはニヤァ〜っと笑った。


「あなたが何者かは知らないけど、この世界にいる以上この世界のルールに従ってもらうわよ」


 ゼロのアクセルはまだ続く。

 止まる気配がない。


「この世界には、HPという概念がある。どれだけ小さなダメージでも、それが蓄積すればいずれ死に至るわ。そして銃は固定ダメージ…………あとは言わなくても分かるわね?」


「…………ハハハ!やるではないか人間!」


 そう、ゼロはHP切れによる勝利を狙っていた。

 小さなダメージを大量に蓄積させれば、攻撃が通らなくとも相手を殺せる。

 いくら銃弾を取り込んでいるからと言って、全くダメージが入らないという訳ではない。


「面白い!我ら混沌の従者は、人間は生きるに値しないと考えていたが…………訂正しよう!」


 カリアドはドロドロに崩れてきた体のまま、俺達の脳に遺言を叩き込んだ。


「人間は我らの玩具に相応しい!我らの玩具として生きるべき存在だ!」


 ヤツは最期に高笑いをして、緑色の水と幻素に戻った。

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