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2章19話『攻略前に』

 とある昼下がり、俺達は森の中を歩いていた。

 セルピエンテのクエストでも述べたが、この辺りの森は本当に密林に近い。歩くだけで疲れ果ててしまう。

 それでも、俺達はここを歩く必要があった。


「ねぇ、まだ着かないの?」


「もう少しの辛抱だ。我慢しろ」


 そもそも、俺達が何故ムー大陸に来たのか。《クン=ヤン》というダンジョンを攻略するためだ。

 今はその《クン=ヤン》に挑むための冒険者キャンプへ向かっている途中だ。


 これだけ足元の悪い森の中だと馬もまともに走れない。だからこうして森の中を歩いているという訳だ。


「もう少しで着くはずだけど…………あっ!」


 ティリタが前方を指さして叫んだ。


「見えた!冒険者キャンプだ!」


 俺とゼロは同時にティリタに寄って、


「マジか!どこだ!?」


「あ、ほんとだ。見える!」


 俺達3人は緑色しかない森の奥に小さな光、そして簡易的な木造の小屋を発見した。


 そこから先は一瞬に感じた。

 実際にはかれこれ10分くらい歩いていたとは思うが、俺には数十秒ほどに思えた。

 3時間近く同じ景色を見続けた俺達の疲労と空腹は限界を超えている。

 そこを救済するかのようにキャンプが見えたのはこの上なく嬉しかった。


 小屋には俺達以外にも冒険者が何人かいた。

 以前俺達が攻略した《テララナの城》はダンジョンとしては小さい方だったようで、今回挑む《クン=ヤン》は逆に大きいようだ。

 複数のルートから攻略する作戦らしい。


 作戦は明後日決行される。

 それまでここで攻略の準備をしておこう。

 俺達は指定された部屋に荷物を置いて、適当に床に座った。


「とりあえず飯買ってくる。おにぎりでいいか?」


 2人は頷いた。

 異世界に転生してきてそれなりに経つが、食文化が現世と変わりなくてよかったと痛感している。


 キャンプの購買で3人分のおにぎりを買って部屋に戻ろうとした時、後ろから誰かが俺の肩を叩いた。


 まさか……アンティゴ研究会の使者!?と、神経質になって反射的に振り向いた。

 その人物を見て、別の意味で驚いた。


「やっぱりグレンだ!久しぶりだなぁ!」


 上に尖った緑色の髪。眩しいくらいの笑顔。腰に刺さった銀色の剣。

 間違いない。


「タルデ…………!」


 ゴブリンの討伐クエストで共に戦った剣士・タルデだった。


「どうしてここに?」


「あぁ、なんかモンスター狩りまくってたら背ェ高いパッツンの女の人にここに行ってくれって頼まれてな!報酬も多かったから来てみたんだ!」


 背が高いパッツンの女の人…………もしかして、カスコさんか?アルマドゥラさんの秘書の。

 てことは、タルデも《ブエノスディアス》から紹介を受けたのか。


「お前、結構腕の立つ冒険者だったんだな」


「まぁな!つっても、無我夢中に剣振り回してるだけだけどな」


 以前共闘した事があるから分かるが、確かにタルデは無我夢中に剣を振っているだけだ。

 彼は自分でも意識しないうちに、抜群の運動神経と剣の技術、そしてそこから来るフィーリングだけで《ブエノスディアス》に認められる程の実力を得たようだ。


 なかなか憎らしい歴史である。


「グレンもここにいるってことは、あいつらもいるんだろ!?じゃあ今回もよろしくな!」


 タルデは俺の肩をポーンと叩く。

 俺はそれを見て笑い、タルデの肩をポーンと叩いた。


 次の瞬間。

 ウーッ!ウーッ!ウーッ!ウーッ!

 警報が小屋に響いた。


「緊急事態!東の森に超級オークを確認!繰り返す!東の森に超級オークを確認!」


 俺とタルデは顔を見合わせ、東の森へ向かった。

 太陽は天にさんさんと輝いている。その白い光はオークの黒い肌をより際立たせ、オークの持つ銀色の斧の光沢を強調した。


「急いでゼロとティリタに連絡を……!」


 俺は電子職業手帳でティリタに電話をかけた。


「グレン!大丈夫かい!?」


「今オークの目の前にいる!そっちの様子はどうだ!」


「他の冒険者達は別のオークに向かっている!共闘を煽るのは難しい!」


 オークは複数体いるのか……!


「僕達もそっちに向かうから、それまで持ちこたえてくれ!」


「分かった!なるたけ急げよ!」


 俺は電話を切った。

 そしてそれと同時に手袋を深くはめ、タルデをチラリと見た。


「準備はいいか?」


「…………いつでも大丈夫だ!」


 俺はオークに向かってバーニングを放つ。

 オークはそれを避け俺達に迫る。


 オークはゴブリンによく似た人型のモンスター。ゴブリンより肌の緑色が濃く、武器も鉄製になっている。


 そして何より、オークは知能が高い。鉄製の武器を使えていることから分かるように、彼らは火を使え、鉄を精錬でき、その鉄を武器にすることが出来る。


 そのため、オークはモンスターの中でも危険な部類となっている。


「タルデ!俺が引き付けてる内に後ろへ回り込め!」


「お、おう!」


 タルデはテンパリながらもオークの背後に走り込んだ。空色が混ざったタルデの細長い剣がオークの背中に一筋の傷を作る。


 …………と思われた。


「ぐあぁっ!」


 オークはタルデの腹を蹴って距離をとり、俺を追い続けた。DEXでは勝ってるため追いつかれることはないが、その差はかなり小さい。

 この距離でバーニングを打ち込んだら、俺にもダメージが入る。


「……チッ!」


 俺は風魔法を放ってオークの動きを一瞬だけでも止め、全速力で走った。

 そして振り返り、右手を左手で抑え、右手に幻素を集中させた。フレイムを超える高熱が俺の手の中に発生し、大砲のように飛び出した。


「バーニング!」


 反動で少し仰け反る。

 後ろに倒れそうな体を前に振って保ち、オークを凝視した。

 焼け跡こそ多少ついたものの、ギリギリの所で斧を盾にして被害を抑えてきた。

 それに、鉄製の斧で火属性魔法を防いだということで斧は非常に高温になっていた。


 あの斧はまずい。


 俺はとっさにタルデに目をやる。

 タルデは剣を構えて、今にもオークを討たんとしていた。


「タルデ!やめろ!」


 そう叫んだものの、その声はタルデには届かなかった。タルデは俺より遥かに速い瞬足でオークの背後から剣を縦に振るう。

 しかしオークはそれより速く反応した。タルデの剣を折ろうとあえて横向きに斧を叩き込む。


 ガキィィイイン!


 高い金属音が耳を攻撃した。

 タルデとオークとの距離が近すぎてバーニングも撃てない。俺はタルデに加勢しようと走った。


 しかし、その必要はなかった。


「うぉぉおおおおおおおお!!!」


 オークが1歩、また1歩と後ろ歩きをする。それに合わせてタルデも1歩、また1歩と前に歩く。

 ミキミキと音を立てて交わり合う2つの武器。


 その片方は既に限界が近かった。


 ガッシャァァンン!!!

 オークの持つ鉄の斧はタルデの剣の前に派手に大破し、そのまま腹部に大きな傷を作った。

 溢れ出る緑色の血液がタルデの勝利を物語っていた。


「すげぇ……すげぇじゃねぇかタルデ!」


 オークに単純なパワーの差で勝つとは恐ろしい男だ。


 そう思っていた矢先。

 オークの死体からネチャネチャっと音が鳴った。オークの死体の中から、細長い手が生えている。

 手はオークの腹をバキバキバキッ!と引き裂き、緑色をした透明の粘液に塗れてオークの腹の中から現れた。


「こいつは…………やばいな」


 生まれた生命体は俺達に向かって、固めた粘液を投げつけてくる。得体の知れない物体をモロに喰らうのは危険だ……!


 俺は身構えて自分の頭を腕で守った。

 その時。


 パンパンパンッ!


 乾いた銃声とともに粘液が爆発して散らばった。


「ふぅ……間に合ったかしら」


 聞き慣れた声に釣られて顔を上げると、そこには銃をクルクル回しながら不敵に笑う女の姿があった。

 俺は焦りと安心から飛び出しそうになる声を抑えて、カッコつけた。


「遅せぇよ、ゼロ」


 俺は相棒の到着に胸を躍らせた。

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