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2章18話『中毒症状』

 俺達はクエストの依頼主に、セルピエンテの亡骸を届けに行った。出来るだけ新鮮なうちにと言っていたが、装備でも作るのだろうか?


「あぁ……!これはまた良質なセルピエンテだこと……!」


 依頼主の若い女性はセルピエンテの頭を撫でながら俺達にペコペコとお辞儀をした。

 俺は残りのセルピエンテも全て渡す。


「今回はどうもありがとうございます。クエストの方はこれで達成ということで――――」


 女性がそう言った時、背後からゼロがツカツカと女性に迫った。


「そのセルピエンテ、何に使うんですか?」


「………………皮を剥いで、アクセサリーに」


 女性の額から汗が垂れる。


「喋る気はないのね」


 ゼロは溜め息をつくと女性にタックルを決めた。そのまま後ろに倒れる女性に馬乗りになり、口の中に銃をねじ込んだ。


 とても冗談半分でやってるようには見えなかった。


「このクエスト、不可解な点が多かったの。セルピエンテが大量発生したという割には、森に行ってもなかなか姿が見えなかったし、駆除が必要なだけなら死体を持ってくる必要もない」


「死体を持ってこさせたのはアクセサリーを作るためだとさっき――――――」


「じゃあ何故大量発生と称してクエストを立てたの?素材にしたいなら正直にそう書けばいいじゃない」


「………………」


 女性は黙り込んだ。


「さっき知ったんだけどさ〜…………セルピエンテの毒って、()()()()()()()()()?」


 確かにセルピエンテの毒には幻覚作用がある。それを調整すれば麻薬のような効果が現れてもおかしくない。

 そしてその毒は牙…………もっと言うなら、依頼主が傷つけるなと依頼した頭に含まれている。


 ゼロは銃を更に奥までねじ込んだ。


「洗いざらい吐きな。麻薬密売人・ディシー」


「……!」


 ゼロが言った名前はクエストの依頼主欄に書かれていた名前ではなかった。

 ディシーは他人の名前を勝手に使ってクエストを発布し、冒険者を騙して麻薬の材料になるセルピエンテの毒を収集していたのだ。


「…………うぁぁああああ!!!」


 ディシーはゼロを跳ね除けて背中からナイフを取り出した。


「用心深い奴だぜ…………」


 俺は後頭部を掻き、右手に赤い手袋を嵌めた。

 ディシーの持つ鉄色のナイフは夕暮れを反射して赤く輝き、彼女が俺達に殺意を持っていること、そして彼女に常識が通用しないことを証明していた。


 だからこそ、俺達は冷静に立ち回る必要がある。


「ゼロ……ティリタ……とっとと片付けるぞ」


 2人は頷いて、各々の武器を手にした。


「うごァァァああ!!!」


 獣のような雄叫びを住宅街に響かせながらディシーは俺に突撃し、ナイフを振り回した。空を切るナイフの音が彼女の必死さをよく表している。


「バーニング!」


 俺は至近距離でバーニングを放つ。

 上級魔法であるバーニングをほぼゼロ距離で撃って耐えられる人間などいない。

 はずだった。


「きゃぁぁああああ!!!」


 なんとディシーはバーニングに向かってナイフを振り下ろし、それを消し去ってみせた。

 さすがの俺も驚きを隠せなかった。


「…………!新手の魔法か……!」


 姿勢を低くする俺に対し、ティリタが背後から叫ぶ。


「彼女のナイフには無属性幻素が漂っている!その幻素がグレンの火幻素(バーニング)を打ち消したんだ!」


 なるほど、以前戦ったシマキが風魔法で俺の魔法を消してきたのと同じ原理か。

 無属性幻素は特徴がない分、濃度が高くなりやすい傾向にある。あのナイフがある限り、俺の生半可な魔法はディシーに届かない。


「なら、私の銃で!」


 ゼロは銃を構えて、ガン=カタを開始した。

 彼女のガン=カタは上達しつつある。ただの遠距離攻撃の派生だった最初とは違い、遠近両方に対応出来るようになってきた。


 しかし、


「ぐぁぁあああ!!」


 彼女に距離は関係ないようだ。

 飛んできた無数の銃弾はナイフに叩き落とされた。周りに浮遊している無属性幻素が弾の威力を落とし、彼女を守ったのだ。


「私の銃もダメ…………打つ手なしね」


 ゼロは銃を太ももにしまいながら言った。

 彼女の言う通り、打つ手なしだ。俺達が放てるどんな技も、ディシーは受け止めてしまう。

 シマキのカウンターとはまた別の絶望があった。


 そんな中、ティリタが前へ出た。


「グレン……ゼロ…………一つだけ、思いついた作戦があるんだ」


 ティリタは不安そうに俺に相談してきた。


「だが、この作戦が失敗すれば間違いなく僕達は負ける…………だから、どうするかをちゃんと話したいんだ」


 ティリタの眼差しは真剣そのものだった。

 だがそこには俺達への思いやりとプレッシャー、そしてそこから来る不信感がうねっていた。


「どうする?グレン」


 ゼロはティリタと同じように強い目を見せた。

 だが、俺の答えは既に決まっている。


「ティリタ、やろうぜ」


 俺はふてぶてしく笑って言った。


「たとえお前がミスっても…………俺とゼロが何とかしてやるよ」


 俺は「だろ?」とゼロの方を見る。彼女もまた、フフッと小さく微笑んでいた。

 ティリタはホッと一息つき、大きく縦に頷いた。


「ありがとう、2人とも」


 ティリタは杖を構えて、前に突き出した。

 そして1回深呼吸し、もう一度大きく息を吸ってディシーに魔法を放った。


「マジックアップ!」


 ティリタが叫んだのは対象のPOWを底上げする魔法マジックアップ

 それを敵に放つとは…………一体どういう狙いだ?


「あ…………あががぁ?」


 ディシーは頭を抱えて、フラフラとしていた足を改めて立て直した。彼女の表情から焦りや狂気がだんだんと消えていき、普通の女性の顔に戻った。


「私…………何を?」


 彼女は手に握ったナイフをじっと見つめ、ポカーンとしている。


 そうか……!マジックアップはPOW……つまり精神力を上げる魔法!

 対象の精神力を上げて麻薬の効力に打ち勝つことが狙いだったのか!


「さすがだな、ティリタ」


 俺が彼を褒めるために彼の顔を見ようとした。

 しかし…………ティリタはまだ魔法を打ち続けている。


「ティリタ、ディシーは正気に戻ったぞ。MPの無駄遣いは控え――――」


「彼女は心優しい冒険者を私利私欲の為に騙し続けたんだ…………。その罪は、死で償ってもらうッ!」


 ティリタが杖を持つ手に強く力を込めると、ディシーは腕を掻きむしり始めた。

 最初は右腕だけ。それが左腕、首、腹…………だんだんと広がっていった。

 それだけではない。


「痛っ…………痛いっ!痛い痛い痛い!!!」


 彼女は唐突に二の腕を掴んでうずくまってしまった。


「ティリタ!これは一体どういうことだ!」


 あまりの急展開に大声で叫んでしまう。

 対してティリタは依然冷静に答えた。


「セルピエンテの毒が脳に達すると、体が自然と無属性幻素を収集する…………」


 ナイフから漏れている幻素がディシーの体内に取り込まれたという訳か。


「マジックアップでその吸引力を上げれば、体は幻素に耐えられない!」


 …………こいつ、無属性幻素の中毒症状を利用してディシーを殺す気だ。

 無属性の幻素は濃度が高くなりやすい。中毒症状が起きるまでさほど時間はかからない。


「うっ…………うぉぉぉおおおお!!!」


「痛い!!痛い!!!誰かッ!誰か助けてぇぇええ!!!」


 ティリタはディシーの悲痛な叫びを耐え、マジックアップを撃ち切った。

 その頃には既に、ディシーは赤い水溜まりと化していた。

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