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2章17話『予備電源』

「ふぅ、長かったわね」


 5時間近くに渡る長い船旅。ゼロは小さくあくびしながら船から降りた。


「そう言えば、あの後勝てたのか?」


 ゼロがカジノに籠っていた事を思い出して、なんとなく聞いてみた。


「………………知らぬが仏よ」


 こいつマジで。


「ゼロにギャンブルはやらせちゃダメだよ。勝っても負けても引き下がらないんだもん」


 最悪じゃねぇか。

 ホントに金貸さなくてよかったわ。


「ま、クエスト報酬で負け分取り返すわ」


 つまり実質タダ働き。


 と、くだらない会話をしながら俺達は街を散策した。

 港から1番近い街は《アラオザル》と言う街だ。ムー大陸の中でもかなり発展した都市である。

 港町という事もあり、物流が盛んに行われているらしい。卸売市場が多く目に付く。

 レムリアに帰る時はここでお土産買っていくか。


 しばらく内陸の方に歩いていくと、今度は店と住宅が並び立つよくある街並みになった。道路はレンガで整備されており、街灯は黒色で背が高い。

 どこか洋風なイメージを持たせる場所だった。


 俺達は適当な宿を見つけ、ムー大陸にいる時はそこを拠点とすることにした。

 ムー大陸はレムリア大陸より発展していない。それ故に、ムー大陸の首都とも呼べるこの街でも、レムリア大陸の港町・キングスポートくらいの宿代で済む。


「さて、今日は疲れも溜まってるし休むとして…………明日はクエストに出たいよね」


 ティリタが椅子に座りながら電子職業手帳の画面をスワイプしている。俺もその隣でクエストを探していた。


「あ、これなんてどうだ?」


 ふと目に止まったのは、セルピエンテというモンスターの討伐依頼だった。

 近くの森でセルピエンテが大量発生しているから駆除して欲しいということだ。


「なるほど、報酬金もオイシイしこれにしようか」







 翌日、俺達はクエストの目的地へ向かっていた。

 ムー大陸でも移動手段は馬車だ。一部の富豪は自動車を使っているらしいが、爆音と排気ガスに痺れを切らしてモンスターが襲撃してくるらしい。


 今回の目的地はアラオザルの北西にある森。

 ムー大陸の森はレムリア大陸のように、自然環境を壊さない程度に整備されている森ではない。

 完全に森。


「歩きにくいわね、このツタ何とかならないの?」


「どうにもならねぇよ、我慢しろ」


 と軽くあしらってしまったが、歩きにくい事には同情する。この辺、ツタだの枯れ木だのが俺達の足場を絶望的に悪くしている。

 ジメジメしてるし、昨日雨が降ったのか土はぬかるんでるし、早く片付けて帰りたい。


 今回のターゲットであるセルピエンテはヘビ型のモンスター。発達した筋肉で森の中を素早く駆け抜け、獲物に巻きついて捕食する。

 集団で行動することが多いため、大量発生すると群れが大きくなって厄介なのだそう。


 かれこれ2時間くらい歩いているが、それらしき気配が全くない。セルピエンテは黄色をしているから見つけやすいはずなんだが…………。


「全ッ然いねぇな」


「全ッ然いないわね」


「全ッ然いないね」


 もうみんな疲れ始めてる。

 そりゃそうだ。このツタだらけの道を2時間も歩き続けてるんだからな。

 しかもこのツタ、妙に弾力があるんだ。

 歩く度にニュッ、ニュッ、ニュッ、モニュンッって。


 モニュンッ…………?


 ハッとして、さっき通った道を振り返る。

 その道は、今ちょうどゼロが通ろうとしている。足元から顔を出す黄色いヘビに気づかないまま。


「ゼロ!下だ!」


 彼女が「えっ?」と顔を下に向けた時には遅かった。ツタの下から顔を出したセルピエンテはむき出しになったゼロの足に強く噛み付いた。


「痛いっ!!!」


 ゼロはとっさに足を振り回してセルピエンテを振り切ろうとする。

 そして太ももから銃を取り出し、涙目になりながらセルピエンテの頭に銃口を向けた。


「ダメだ!依頼主はセルピエンテの頭を傷つけないで亡骸を持ってこいと言っていた。頭を撃つな!」


 ゼロは悔しそうにセルピエンテから距離を取る。

 が、ここで異変が怒った。


「…………?…………?」


 ゼロが千鳥足でフラフラと俺の目の前を往復する。頭を抱えながら、バランスが悪そうに。

 その時の俺は、足元が悪いから滑ってしまったのか、木の根っこかなにかにつまづいてしまったのか。と考えていた。


 しかしティリタは違うようだ。

 手帳を必死に左にスワイプしていき、その項目を見つけた。


「やっぱり…………!」


 ティリタは青ざめた顔で叫んだ。


「セルピエンテの牙には毒が含まれている!噛まれたらしばらく幻覚症状に襲われてしまう!」


「何だと?」


 あのフラフラした歩き方は幻覚症状によるものだったという訳か。


「解毒せずに長時間置いておくと毒が脳に回って後遺症が残る!早くゼロを助けないと!」


 ティリタはゼロに向かって走っていく。

 しかし、俺はある事が気になってそれを止めた。


「グレン!離してくれ!」


「バカ!あれを見ろ!」


 俺はゼロを指さした。

 ゼロは鋭い眼差しでこちらを睨みつけている。その左手は銃を持とうとしていた。


「あいつには俺達が敵に見えてるらしい。今迂闊に動くのは危険だ」


「でも…………このままじゃ!」


「…………クソッ!」


 ティリタの言う通り、このままだとゼロは危険だ。が、だからといってゼロに近づいて解毒しようものなら、ゼロは俺達を撃ち殺す。


「何か…………何かいい方法はないのか!」


 俺がそう考えているその時だった。


 パァン!


 突然銃声が鳴り響いた。


「な……何してんだあいつ…………」


 ゼロの銃の先端から煙が立ち込める。そして撃たれたその相手は右手からダラダラととめどなく血を流す。

 その撃たれた相手とは………………


 ()()()()()()()


 ゼロは呼吸を荒くしながら痛覚に耐えている。

 またユラユラと体を揺らし始めたが、今度はセルピエンテを視認し、銃で正確に胴を撃ち抜いた。


「ゼロ!大丈夫かい!?」


「…………割と大丈夫じゃない」


 ゼロは疲れ切ったような青ざめた顔でティリタに笑いを見せる。


 後から聞いた話だが、俺がティリタを止めた時、朦朧としてこそいたもののまだゼロには意識があったらしい。

 まだ毒が回ってないうちに強い痛覚を叩き込んで、脳の普段使われていない部分…………いわば予備電源を起動させようとしたらしい。

 そうして何とか意識を取り戻したというわけだ。


 ゼロにはそう言う生物学的知識もないし、成功するかも怪しかった。

 にも関わらず、ゼロはここぞと言う時に巨大な成功を決めてくる。


「本当に面白い(危なっかしい)相棒だよ、お前は」


 俺が目を逸らしてそう言うと、ゼロはフッと鼻で笑った。








「とりあえずこれで解毒は完了した。とはいえまだ体に毒が残ってるかもしれないから気を抜かないようにね」


「ありがとう、助かったわ」


 俺がセルピエンテの巣穴の作業から戻ると、ティリタがゼロの解毒を終えていた。


 さっきセルピエンテが出てきたツタの下に彼らの巣穴があったので、そこにバーニングやらダークネスやらを撃ってセルピエンテを狩っていた。

 やってる事的には強盗。


「とりあえず4匹狩ったぞ。さっきのと合わせて5匹だ」


「だいたい群れ1つ分か。今回は不作だったね…………」


 ティリタは残念そうに言う。


「いや……そんなことはないわ」


 ゼロは唇を撫で、目を鋭く光らせた。

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