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2章12話『原材料』

「これは…………」


 度肝を抜かれた。

 そこにあったのは青い光を放つガラスのカプセル。中は透明な液体で満たされており、小さな泡が生まれては消え、を繰り返していた。


 その液体の中に、人型が1体浮かんでいた。

 酷く痩せ細った体。いや、削り取られたと表現した方がいいだろう。

 左足からホースを繋げられ、そのホースは外部の機械に接続されている。機械には「16kg」と表記されていた。


「おい、みんな見ろよ!」


 タルデが空間の少し奥を指さす。そこにはまた別の人型の何かを中心に浮かべた液体カプセル。それも数え切れないほどあった。


「なんだ…………この施設」


 マッドサイエンティストの研究室のようなこの部屋にいるだけで、SANはみるみる減っていく。

 このまま答えを知ったら、発狂してしまうかも知れない。


 だからできるだけ考えないようにはしたが、やはり気になってしまう。

 この施設は何を何の目的でどうしているのか、脳が真相の要求と拒否を同時に行っている。


「…………この部屋って一体」


 ゼロは機械を観察しながらボソッとつぶやいた。


「世界をあるべき姿に戻す部屋さ」


 聞き覚えのない声が、部屋の奥から響いた。

 反射的にバッと振り返ると、そこには白衣に眼鏡の高身長な男性がいた。


「ここに入ってくるとは大したものだ。しかし、歓迎はできない」


 男は後ろに隠していた左手を前へ突き出した。その手には分厚い1冊の本が握られている。


 魔導書だ。


「この施設は何だ。答えろ」


 俺がそう叫ぶと、男は眼鏡をクイッと整えて呆れたような目でこちらを見た。


「君たちには分からないだろうが、教えてやろう。この施設は『先に進むことで家に帰る』施設だ」


 先に進むことで……家に帰る……?

 言ってる事の意味が分からなかった。


「どういうことだ」


「君の要求する質問には答えた。これ以上答える義理はない」


 自分で考えろってことか。

 あぁいいさ。考えてやるよ。


 状況を見返そう。

 この施設にあるのは人型の生物を監禁した液体カプセル。そしてそれに繋がった機械だ。

 中の生物は削り取られたように痩せていて、機械には重量表記がされていた。


 ここから、人型の生物…………主にゴブリンの体を何かしらの方法で採取している事は分かった。


 では何のために?

 こんな大規模な機械まで作ってゴブリンの体を集める理由とは?


 そう考えた時、ひとつの仮説が成り立った。

 いや、既にその仮説は俺の中で答えと名乗っていた。


「先に進む…………それ即ち、『進化する』。この施設は、《EVOカプセルを生成する施設だ》。違うか?」


 これは俺の予想だが、あのホースのような所からモンスターの遺伝子を吸い上げ、機械でEVOカプセルに加工しているのだろう。

 あの重量表記は蓄積されたEVOカプセルの量を表している。


 男はまた眼鏡をクイッと上げる。


「なかなか頭の切れる奴じゃないか」


「……認めるんだな」


 男は静かに頷く。


「地上に大勢のゴブリンがいただろう?EVOカプセルの実験台になったゴブリン達が数頭逃げ出してな。EVOカプセルを使うと繁殖力が上がるから、異常に増えてしまったようだ。駆除してくれて助かるよ」


 俺はそこまで聞くと、ツカツカと男に歩み寄った。男のすぐ目の前まで来ると、俺はつまらなそうな顔をしている男に言い放った。


「クエスト報酬はテメェの命で払え」


 俺は自分の出来る最速のスピードで男の脳にフレイムを叩き込んだ。


 しかし、その攻撃はほとんど意味を成さなかった。


「私たちは生物研究者だ。故に、実験台が暴れ出すことを想定して備えてある。つまり何が言いたいかと言うとだな」


 男は頭を握る俺の手を振り払い、言った。


「私のGRD《物理防御力》とSID《魔法防御力》は限りなく高く設定されている。貴様の貧弱なフレイム《下級魔法》なんぞ取るに足らん」


 男は反撃するように俺の腹に1発のパンチを繰り出してきた。


「かはっ…………!」


 その瞬間、俺に明確な隙が出来た。

 男はその隙をついて俺に水魔法を打ち込もうとする。男の持つ魔導書は機械と同じ青色に光り、少しずつ液体を生み出した。


 だが、俺は1人ではない。


「はぁあ!!」


 ゼロは背後からガン=カタを使って男を襲撃した。ゼロの銃は固定ダメージ。防御力を無視してダメージを与えられる。

 大口叩いてた割には呆気ない終わり方だな。


 と、一瞬思ったが


「この私が固定ダメージの対策をしていないとでも?」


 男に当たるはずだった銃弾は男に当たる直前で地面に墜落し、小さな音を鳴らした。

 男が何らかの方法で『装甲』を身につけているのは見てわかった。


「グレン、大丈夫かい?」


 駆けつけてくれたティリタとタルデ。


「あぁ、何ともねぇさ」


「あのヤロー、グレンを殴りやがった!」


 タルデは床を蹴り、風のように男を斬りに行った。しかし、縦一筋に破れた白衣の下から男の血が現れることはなかった。


「まさか、これで終わりじゃないよな?まだ始まってすらいないだろう?」


 タルデは奥歯を噛み締めて、男から距離を取った。


「さて、次はこちらの番だ」


 男は魔導書に集中した液体を、逃げるタルデに放った。広範囲に広がる魔法はタルデの速度より早く、タルデは背中にそれをモロに受けた。


「ぐあぁっっ!!!」


「タルデ!」


 このままでは次の一撃でタルデは死んでしまう。

 しかしあの魔法の速さだ。

 今から倒れ込んでいるタルデを回収して魔法を回避するのに何秒かかる?

 魔法が着弾するより早く動けるか?


 一瞬で頭の中に作戦を巡らせる。

 しかし、ここで予想外の事が起きた。


 男が魔法を撃ってこないのだ。

 男はタルデに1歩ずつ近づいていきながら、こう言った。


「ほぉ、これはいい素材かも知れないな。EVOカプセルを飲ませるとするか」


 なっ…………!


「まさか……お前!」


「EVOカプセルを飲んだ人間の耐性が低いと、人間がモンスターそのものになってしまうという。不必要な人間はこうしてEVOカプセルの材料にすることで、世界のために活用していくのさ」


 その言葉を聞いた時、俺の怒りは限界に達した。

 人間を私利私欲のためにモンスターに変化させ、自分だけの都合でEVOカプセルに加工する。


 そんな理不尽な事がこの世界にあってたまるか。


「不必要な人間はEVOカプセルの材料にする、か…………」


 俺は右手に力を込めた。


「テメェの考えはよーく分かった」


 俺はフレイムを放った。

 高速かつ高出力なフレイムを。


「ぐあっ!」


 そのフレイムは男をノックバックさせた。

 男はそのままバランスを崩して尻もちをつく。俺はそのチャンスを見逃さなかった。


「ぐっ…………」


 男の胸ぐらを掴み、持ち上げる。

 そして俺の右側には空の液体カプセルがあった。


「実験材料を提供してやるよ」


 俺は男を掴んだまま高く飛び上がり、カプセルの上から男を中に叩き込む。

 バリィィン!と砕けたガラスが飛び散り、男は中で痛みにもがいた。そして何の幸運か、男の左足にはホースが突き刺さった。


「…………そこで世界のために活用されてろ。もっとも、この空間がギルドに見つかるのは時間の問題だがな」


 男はカプセルの中でつまらなそうな表情をしていた。


「あばよ」


 俺は機械についている「起動」と書かれた赤いスイッチを強く押した。










「じゃあ、俺はそろそろ行くよ」


 レムリアに戻ってきた後、タルデは宿に帰ると言って俺達と別れた。


「また会えるかもな!じゃあな!」


 タルデは最後まで笑顔で手を振っていた。

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