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2章10話『新たな出会い』

「ゼロ!大丈夫か!」


 俺は目の前のゴブリンに応戦しながら、後方の相棒を気にかけた。


「私の心配してる暇あるなら、1匹でも多く殺しなさい」


 ゼロは両手に持った拳銃を、空中で回りながら連射した。その1発1発は確実にゴブリンを撃ち抜き、奴らの命を引き剥がした。


「ティリタ!こっちも火力上げてくれ!」


「わかってる!ギリギリまで引き上げるよ!」


 ティリタの放つ魔法は俺の体に余すことなく付与された。体の内側から湧き上がるような熱い力をそのまま右手に集中させた。


「フレイムッ!!」


 ゴブリンの集団に向かって真っ直ぐに飛んでいく炎の弾が夜の闇を照らした。

 同時に、炎はゴブリン達を焼き焦がす。まるで地獄に堕とされた罪人のように。


「ぐっ!!」


 焔が燃え尽きたのを見届けると、俺の心臓に過大な負荷がかかった。


「ちっと……無理しすぎたか」


 元のPOWが低い冒険者がマジックアップ等で無理やりPOWを上げると、効果終了時に体に負荷がかかる。

 MPの消費も多くなるので、むやみに使うわけにはいかない。


 余談だが、俺が『プリズム』の能力で全属性の魔法を使えるのにフレイムしか使わないのは、フレイムが1番MPの消費が少ないからだ。


 俺が膝をついてしゃがみこんでいると、ゼロとティリタが寄ってきた。


「大丈夫かい?グレン」


「あぁ、大丈夫だ。気にするな」


「いや大丈夫じゃない。HPとMPの消耗が激しい。1度キャンプに戻ろう」


「そうね、私の弾丸ももう無いし」


 ゼロは銃をホルダーにしまう。

 俺はゼロに差し伸べられた手を引いて立ち上がり、来た道を戻り始めた。





 話は少し前に遡る。


「ゴブリンの大量発生?」


「らしいよ。私もよくわかんないけど」


 俺達3人は食堂で夕飯を食べていた。


「レムリア大陸とムー大陸の間に無人島があって、そこに何かしらの原因でゴブリンがわんさか出てきたんだって」


「なるほど。それは奇妙な話だね」


「何にせよしばらくしたら緊急クエスト出るだろうから、準備しとこ」


 ゼロのその提案を呑んで、その話は終わった。

 数時間後、彼女の予想通り緊急クエストが発令された。最近緊急クエスト多い気がする。

 事前に準備していた事もあって、受注後すぐに出発できた。寮長のエスクードさんには予め話をつけておいた。


 現場に向かう用の臨時の船に乗って無人島へ向かった俺達は、船の中でマスターズギルドの役員とクエスト受注手続きを済ませ、手帳に地図を受け取った。


「僕達は第4キャンプだ。ここを拠点として、無人島内のゴブリンの殲滅を狙う」






 その第4キャンプに帰ってきた俺達は地面に布を引いただけの床に寝転がった。他の冒険者はまだ戦闘に行っているらしい。


「とりあえず治療するから、包帯とポーションを貰おう」


 キャンプの隣にある木箱に物資が入っている。誰でも自由に持っていけるが定期的に補充されるからなくなる心配はない。


「それと、グレンはMPの回復もしないと。そろそろ補給船が来る頃よ」


 木箱にない物資は定期的に来る補給船から買える。マスターズギルド公認の店だからかなり良心的な値段だ。


「それじゃあ僕が買ってくる。何か必要なものは?」


「あ、私弾丸欲しい。お金あとで渡すから10ダースくらい買っておいて」


 ティリタは頷いて、沿岸部の方へ走っていった。


「それにしても…………まだ終わんねぇのか」


「ほんとよね。もう3日目?そろそろ温かいシャワーを浴びたいわ」


 島の森の奥に滝があるから衛生面は困っていない。とはいえ、滝の水はシャレにならないくらいに冷たい。


「そもそも増殖したゴブリンを人力で倒そうとするのが間違ってると思うんだけど。空爆とかできないの?」


「ここ結構貴重な花とか鳥とかがいるらしくて、マスターズギルドも下手に手出しできないんだとよ」


 他のキャンプのメンバーから聞いた。


「そんなの見てないわよ?」


「戦うのに忙しすぎて見逃してたんだろ」


 そんな話をしていると、ティリタが戻ってきた。


「ただいま。頼まれたもの買ってきたよ」


「ありがとねティリタ」


 ゼロは銃弾を受け取り、いくつかを銃に詰めて残りをバッグにしまった。

 このバッグ、理論上無限に入るんだがあんまり詰めすぎるとDEXが下がる。


 ゼロのスタイル的に動きが鈍るのは致命的なので、バッグは出来るだけ軽くしているのだ。

 だから弾丸も10ダースしか買わなかった。


「よし、もう少し休憩したらいこうか」


 記念すべき20回目の出撃。







 ザッザッザッザッ。

 周囲を警戒しながら草を踏み歩く。今回は森の方を重点的に活動することにした。

 生い茂る木々、垂れ下がる蔦、頼りない月明かり。それら全てが俺達の視界を妨害する。


 そういう場合、頼りになるのは音だ。

 ゴブリンの足音は人間の足音と少し差がある。ベタベタといった音が鳴るのだ。


 ベタッベタッベタッ…………。


 そうそう、ちょうどこんな感じの音だ。


 …………あ。


「ゴブリンだ!近いぞ!」


 俺が叫ぶと、ティリタは杖を、ゼロは銃を構える。俺達はよく目を凝らしてゴブリン達を探した。

 ゴブリンの肌は深い緑色。暗闇の森は彼らが身を隠すのに最適の場所なのだ。


「ギシャアアアア!!」


 先に仕掛けてきたのはゴブリンの方だった。

 石の斧を持ったゴブリンがゼロに向かって突進してきた。


「うわっ……びっくりさせないでよ」


 ゼロはバッグから催涙スプレーを取り出し、ゴブリンの目に噴射した。

 ゴブリンは声にならない声を上げ、両目を抑えて悶絶する。


 ゼロ製の催涙スプレーはマジで痛い。


 ゼロはそのまま銃をぶっぱなし、一瞬のうちにゴブリンを狩りとった。

 そしてゴブリンの亡骸を拾い上げ、森に見せびらかした。


「こうなりたくなかったら、大人しく出てきなさい」


 ゼロがそう言ってゴブリンの死体を持ちながら歩くと、隠れていたゴブリン達は重い表情で出てきた。


「凄い……言葉が通じてる」


「人型とはいえ、モンスターに脅しが通用するとはな」


 ゼロは出てきたゴブリンを1列に並ばせる。


「今、私の銃には弾が1発だけ詰められている。弾丸は6発まで詰められるから、あなた達は6分の5の確率で生き延びられる」


 そう言ってゼロはゴブリンの頭に銃を当て、引き金を引く。


 ドンッ!


 ゴブリンは脳に穴を開けてその場に倒れた。


「おっと、逃げたらダメだよ。逃げた奴から順番に、弾を全部詰めてあるもう1つの銃で撃ち殺すから」


 ゼロがそう言うと、ゼロはまたゴブリンの頭に銃口を当て、トリガーを引いた。

 総勢8体、全てのゴブリンがゼロの前に骸と化した。


「なぁ、思ったんだけどさ」


「うん。こっそりリロードしてた。意外と気づかないものね」


 さすが死刑執行人。

 どんなに無慈悲な方法だとしても殺すことを躊躇わない。


「さて……と。この辺のゴブリンは殺し尽くしたし、他の所へ………………」


 次の瞬間、ゼロの背後の草むらが揺れた。


「ギシャアアアア!!!!!」


 大きな雄叫びを上げて飛び出したのは、1体のゴブリンだった。


「ゼロ!!」


 なんとか助けようとするも、今からじゃフレイムが間に合わない。

 あと1秒しない内にゼロは死んでしまう!


 そう思ったその時。


 スパパパパッ!


 そんな擬音が似合う、風のような剣士が現れた。


「危なかったな!間に合ってよかったぜ!」


 俺達と同じくらいの歳のその剣士。上に尖った緑色の髪に眩しいくらいの笑顔。

 そして腰に輝く一筋の剣。


「……お前は?」


 少年は笑顔で答えた。


「俺はタルデ!剣士のタルデだ!」

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