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2章9話『冷徹な剣』

 ラピセロはギルドメンバーと共にアーカムへ急いだ。


「具体的に、アーカムのどの辺りだ?」


「ミスカトリック川の周辺です。恐らく、海から川を渡って進行してきたものかと」


「なるほど…………」


 ココドリーロは二足歩行のモンスター。私は知らないが、ワニという生物に似ているらしい。

 三又の槍を武器にしている。


 確かにココドリーロは川を通って街に入ってくることがある。

 が、夜間に上陸してくることはない。ココドリーロの目は日光に強く出来ているため、暗闇だと逆に光を遮断して目が見えなくなってしまう。


 それが上陸してきたということは、間違いなく人為的な何か、具体的には『EVOカプセル』の使用が考えられる。


『EVOカプセル』を使用したモンスターは知能が上がる傾向にある。それを利用してモンスターに恐怖を与えて支配する人間もいる。

 被害が出る前に止めなくては。


「ココドリーロの状況は?」


「上陸後数メートル歩いた後、1箇所に集まり始めたとの事です。おそらく全員が集合するのを待っていたのかと」


「歩き方にふらつきがあった、等の情報は?」


「いえ……特に入っていません」


 もし何かしらの手違いでココドリーロが夜間に上陸してしまったとしても、ココドリーロは目が見えないから辺りを徘徊して水を探すという調査報告がある。


 それが明確に、ふらつき等もなく1箇所に集まっているのなら、『EVOカプセル』による視覚と頭脳の進化が考えられる。


 今回は少し手強いかもな。






 しばらくして、私はミスカトリック川の河川敷に来た。街灯も少なく暗くてよく見えないが、確かにココドリーロの姿があった。

 大体7〜8匹。体格も大きめだ。


 私は持参したノートにその情報を書き込み、それをカバンにしまった。


「ありがとう、あとは任せてくれ。私1人で対処する」


「そんな……危険ですよ!」


「なに、私はそんなに弱くないさ」


「でも……あなたは現地人、転生者のように蘇ることが出来ないんですよ!?」


 その通り。私は現地人だから、教会で蘇るようなことが出来ない。いや、転生者が教会で蘇られる方がおかしい。


「大丈夫だ。私は死なない。まだ仕事が残っているからな」


 私は馬車に背を向け、河川敷の坂を下った。

 音に気づいたココドリーロ達が一斉に私の方を見る。

 そして威嚇するように鋭い歯を見せ、三又の槍を持って突進してきた。


「ギルルルァアアアア!!」


「ギルルァア!!」


「ギルルァア!!」


 1匹が雄叫びを上げると、それに応じるように数匹のココドリーロが叫んだ。

 輪唱するかのように辺りを痺れさせるその声たちは、私のSANを削った。


「やはり……知能があるのか」


 ココドリーロはアラーナ以上に攻撃的な性格だ。目に入ったら攻撃すると言っても過言ではない。

 それが雄叫びを上げて連携を取ろうとしているということは、ただ突っ込んでくるだけではない、彼らなりの作戦があるということ。


『EVOカプセル』を投与されたモンスターと戦うのは、楽しみな反面恐ろしくもある。


 私はノートとペンを取り出し、ココドリーロに近づいた。


「ギルルァア!!」


 ココドリーロは私の頭を的確に狙って槍を突いてきた。明確な殺意が私の背筋を逆撫でした。

 私は頭を下げてそれを回避し、その事をノートに記した。


 私が目の前のココドリーロに蹴りを入れて距離を取ると、背後から別のココドリーロが襲ってきた。

 それを横に回って回避すると、今度はその目の前にさらに別のココドリーロが待ち伏せしていた。


「ギルルァア!!!!」


 振り下ろされた槍の先端が私の肩に傷を付けた。

 しかし、ここで怯んでしまえば命はない。私は痛みを必死にこらえて距離を取った。


 今の一連の流れをノートに書き走っているうちに気づいた。いつの間にか、自分が完全に包囲されてしまっていることに。


「…………!」


 一瞬冷静さを失い、腰の鉄に手をかけようとしてしまった。

 まだその時ではない。奪えるものは限界まで奪い尽くさなければ。


 私はノートのページをめくり、自らココドリーロに突っ込んでいった。その方向の先に、ココドリーロは槍を突き出してきたが、私はその槍の根元を掴み、大きく振り回した。

 槍を奪い取ることは出来なかったが、遠心力で大きく吹き飛ばされたココドリーロは別のココドリーロと衝突した。

 そしてそのココドリーロの槍が刺さり、結果的に一体撃破してしまった。


「おっと、力み過ぎたか」


 私は数歩後退し、今の映像をノートに書き記した。そうしている間に、ココドリーロはガサガサと草を踏む音を立てながら私に近づいてきた。


「まだだ…………あと少し足りない」


 そう感じた私は、ココドリーロから足早に逃げた。


「ギルルァアアア!!」


 ココドリーロは走りながらこっちに迫ってくるが、私の方が足が早いようだ。


「ギルルルルルァ!!!」


 ココドリーロは奇妙な鳴き声を放ち、手に持った槍を私に向かって投擲してきた。

 私は反射的に右に逸れてそれを避けたが、私のすぐ横に深々と刺さる槍を見て恐怖した。


 しかし、これで十分だ。

 私はノートに今の映像を書き記し、改めてノートを見返した。

 そしてノートを閉じ、バッグにしまった。


「書き終わった」


 私はそう呟き、腰の鉄…………もとい剣に手をかけ、そのままココドリーロの群れに突っ込んでいった。


「ギルルァアアアアア!!」


 槍を投げたココドリーロが、対抗するように私に突っ込んできた。ココドリーロには鋭利な爪や牙がある。槍がなくても戦えるのだ。


 だが、


「想定の範囲内だ」


 私は剣を鞘から抜刀すると同時に、目の前のココドリーロを斬り殺した。

 ココドリーロの緑色の血が河川敷の草の緑と混じりあって、静かな残酷さを物語っていた。


 次に襲ってきたのは、3体の、槍を持ったココドリーロ。一斉に私に攻撃を仕掛けてくるわけではなく、それぞれ別々に私の隙をついて攻撃してくる。


 しかし、私をなめてもらっては困る。


 ココドリーロの使う三又の槍は、私の剣より射程が長い。

 が、そんなこともはや関係ない。

 私は視界の中のココドリーロを一瞬で骸に変えた。そして私は剣に滴る血を振り落とし、剣を構え直す。次の敵を葬るために。


 私は戦闘中にノートを書く。そのノートには敵の習性や行動パターン、癖などを書き込む。

 そのデータが一定数溜まれば、私は()()()()()()()()()()()()()()()()()


 私とて、ココドリーロと戦ったことはある。しかし、モンスターには個体差があるし、何よりこのココドリーロには『EVOカプセル』の影響が出ている。

 ノートを追加で書き記す必要があった。


 そして私の職業は《剣聖》。剣士の最上級職だ。

 理論上、音速を超える速さで剣を振れる私に近接で立ち向かおうなど自殺行為も甚だしい。


「残りは4体…………30秒で片付ける」


 私は自分に言い聞かせるように剣を輝かせ、ココドリーロを次々に斬り続けた。

 暗闇で散る緑色の血液は不気味だ。


 しかし、緑は人に安心感を与える色。

 私がこうしてモンスターを殺せば、人々は安心して日々を送ることができる。


 汚れ仕事はあまり好まないが、そう考えると悪くないかも知れない。

 自分が汚れることで街の平和が守られるなら、それで満足だ。

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