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2章7話『最強の盾』

 エスクードさんは俺達の前に立ち、バックから鈍色の鉄の塊を取り出した。

 綺麗な球形のそれには人工的な溝がいくつも彫られている。


「さて……やりますか!」


 エスクードさんは球を自分の頭上に投げた。

 すると、球は空中でガチャガチャと音を出して大きな鎧と兜、盾に変形した。

 さらに、それらは落下してエスクードさんに当たる直前に軌道を変え、鎧や兜は真っ二つに割れてエスクードさんを挟むように自動的に装着。

 盾は彼女の目の前の地面に突き刺さった。


「おぉ…………」


 驚きと感動のあまり、それしか口にできなかった。

 ゼロとティリタに至っては拍手してる。


「すごいでしょ?《ビエンベニードス》に特注した鎧なんだよー!」


 鎧の中からエスクードさんのこもった声が聞こえてくる。

 重苦しい甲冑を着ているのに、溢れ出るオーラは明るい。不思議とエスクードさんが入っているとわかるのだ。


「それじゃあみんな、マティス亜種は任せるよ!」


「はい!…………………………え?」


 時間差で疑問が浮き上がってきた。


「エスクードさんは何をするんですか?」


 こんなゴッツイ鎧着て何もしないの?


「あー…………えっとね、アタシも転生者なんだけどさ、デメリットが『敵にダメージを与えられない』なわけよ!」


 あぁ、なるほど。

 エスクードさんが直接手を下すことは出来ないのか。


「だからアタシがマティス亜種を引きつけるから、その間に攻撃してってこと!」


「そういうことなら、了解しました!」


 俺は後ろを振り返り、ゼロとティリタに号令をかける。


「いくぞ!2人とも!」


 そう声をかけると、ゼロは銃弾を詰め込み、ティリタは杖をしっかりと握って頷いた。


「ギシャアアア!!!!」


 マティス亜種が俺達を威嚇する。全身に電気を帯びた体は触れただけでダメージが入る。

 それに、マティス亜種は1体ではない。俺達が担当するのは総勢10体のマティス亜種。

 それも超級の。


 エスクードさんが耐えきれるかも怪しい。


 そう考えていると、マティス亜種の内の1匹が鎌を地面に刺した。


「溜めすぎた電気を地面に逃がしてるのか?」


 俺は目を細めてマティス亜種を観察する。

 しばらくして鎌を抜いたマティス亜種はもう一度鎌を擦って電気を帯びた。


「ギシャアアアアアアア!!」


 マティス亜種は少し屈む。

 そしてそれを伸ばすと同時に大きく斜め前へ飛び出した。

 放物線を描くように落下してきたマティス亜種。鎌を前に突き出してエスクードさんを狙っていた。


「危ない!」


 反射的にティリタがそう叫んだ。

 しかし、その心配は要らなかったようだ。


 ガキィイン!!


 大きな金属音と共に小さな雷が辺りに散らばった。エスクードさんはマティス亜種に真っ向から挑むように盾を突き出している。

 その境界面には強い電流が流れているが、エスクードさんはへっちゃらそうだった。


「おーい!早くこいつ倒してー!」


 おっと。見とれててすっかり忘れてた。

 俺は右手に力を込め、マティス亜種に向かってフレイムを放った。

 俺のPOWも上がってきたから、魔法の射程も最初と比べるとかなり上がった。

 それでも普通の半分以下だけど。


 バタッと倒れたマティス亜種。

 その姿を見た他の奴らは一瞬後ろに下がった。同胞が倒されたのを目の当たりにして恐怖するとは、なかなか頭のいいモンスターなんだな。


 それにしても…………


「ふぅ〜。いい攻撃だったよ、グレンくん!」


 エスクードさん、本当に余裕そうだ。

 超級モンスターの攻撃をくらってもあんなに涼しい顔してられるのか。


 その旨を本人に聞いてみると、


「アタシ、こー見えても《要塞》なんだよねー!」


 《要塞》。それを説明する前に、《守護者》という職業と職業の階級について説明しよう。


 1つ目。《守護者》とは、敵の撃破を主とせず味方を守ったり囮になったりする職業。いわゆるタンクだ。


 2つ目。職業には階級がある。

 例えば《魔法使い》なら、下級職の《魔法使い》、上級職の《魔術師》、最上級職の《魔導師》、といった風にだ。


 《要塞》というのは《守護者》の最上級職。

 たった1人で軍隊の攻撃も耐え切れると言われる職業だ。《要塞》に守れない物など存在しないとまで言われている。


「エスクードさん、すごい人だったんですね。守れない物がないだなんて」


 ゼロがそう聞くと、エスクードさんはこう言った。


「そんなことないよ。アタシにも……守れない物はあるさ」


 その時だけ、明るいオーラが濁ったように見えた。


「さ、まだまだマティスは多いから!どんどん倒すよ!」


 彼女は持ち前の明るさを取り戻し、もう一度盾を構える。

 とはいえ、残るマティス亜種は9体。他の場所から流れてくる可能性も考えると、まだまだ油断できない。


「何か…………奴らを一掃できる方法は……」


 考えろ…………グレン!


 …………そういえば、アイツら地面に鎌を刺してたよな。電気を逃がしたあともう一度帯電するなら、どうして?


 …………もしかして、あの行為には電気を逃がす以外の目的がある?


「………………そうか!」


 これはあくまで憶測だが、いい方法が思いついたかも知れない。


「エスクードさん!盾を地面につけてください!」


「え?なんで?」


「俺を信じて!早く!」


 エスクードさんは首を傾げながら盾を地面に付けた。そしてそのまましばらく放置する。


 その間に、マティス亜種達が攻撃の準備を行っていた。


 俺はゼロの隣に歩み寄り、比較的小さな声で言った。


「ゼロ、今からマティス亜種を1箇所に集める。俺とお前で全部殺すぞ」


「了解。流れ弾、当たんないように気をつけて」


 難易度がバカ高い要求をされたが、頷いた。


「ティリタ!俺にマジックアップ、ゼロにスピードアップ、エスクードさんにガードアップだ!」


「もう全て済んでいる!心置き無く戦ってくれ!」


 さすがティリタ、優秀すぎる。


「エスクードさん!来ますよ!」


 前方のマティス亜種が、先程と同じように飛び上がった。

 エスクードさんは盾を構えて応戦する。


「よっ………………と!」


 マティス亜種の鎌はエスクードさんの盾とピッタリくっついて動かない。

 さらに、今回マティス亜種側は一撃離脱する作戦だったのだろうか。

 次々とマティス亜種がエスクードさんに飛びついてくる。


 そしてその全てがエスクードさんから離れようとしなかった。


 いや、離れたくても離れられなかったのだ。


 マティス亜種が鎌を地面に刺す理由、それは地面を帯電させるためだ。

 地面を帯電させることで地面がマイナスの電気を帯び、自分もマイナスの電気を帯びることで反発し合い、それを利用して圧倒的な機動力を得る。


 だから、エスクードさんに盾を地面につけてもらって盾のマイナスの電気を地面に流す。

 そうして盾はプラスの電気を帯びるので、マイナスの電気を帯びるマティス亜種を引きつけることが出来るのだ。


「ゼロ!やるぞ!」


「どっちが多く殺せるか勝負ね」


 そこからは早かった。

 集められたマティス亜種を、俺はフレイムを連発して倒す。ゼロは『アクセル』を駆使して倒す。


 そこら中にマティス亜種の亡骸が転がった。


「よし…………これで全部片付いたか」


 俺が額の汗を拭うと、エスクードさんも鎧を球形の鉄の塊に戻した。


「あ〜疲れた疲れた」


「帰り、ラーメン食べに行きましょう。エスクードさんも一緒に」


「お、ゼロちゃんラーメン女子?いいねいいね!」


 俺達はいつもの店でラーメンを食べてから寮に戻った。

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