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2章5話『命の代償』

「クルルキャアアアアア!」


 フェルメノ=アラーナは俺達の前に立ち塞がり、尖った口を大きく横に開いた。カクカクと腕を動かしながら、俺達をじっと見つめる。

 そして俺達を敵だと見なした瞬間、威嚇するように腕を地面に叩きつけた。


「コイツが…………ボスモンスター!」


 俺は巨大なアラーナを睨んで、手袋をはめ直した。


「『EVOカプセル』の力で新たな能力を得ている可能性は資料にも載っていたけど……まさか体の大きさを自在に変えられるとは……!」


 ティリタは生唾を飲む。


「それに……あのモンスター、女の人の腹から!」


「バカ!それ以上考えるな!」


 絶大な恐怖は理解してはいけない。

 この世界では思考停止すら賢明な判断となる。


「……………………ッ!」


 ゼロはガン=カタで攻撃する。

 が、数え切れないほどの弾丸は全てアラーナの体にぶつかって砕け、星屑のように消えた。


「な、なんだコイツ!」


 俺が衝撃のあまり叫ぶと、ほぼ同じタイミングでティリタも叫んだ。


「装甲だ!」


「…………装甲?」


「一部のモンスターは分厚い毛や皮に覆われている。その毛や皮は今のように放たれた銃弾ですら砕いてしまうんだ!」


 それが装甲ってわけか。

 固定ダメージの銃ですら無意味だとなると、かなり分の悪い勝負だ。


 でも、やるしかなかった。


「ティリタ!マジックアップを!」


「わかった!耐えてくれよ!」


 ティリタは俺にマジックアップをかけた。俺のPOWが何倍にも跳ね上がる。


「うぉぉおおおおお!!!」


 俺は右手に闇幻素を溜める。

 アラーナの弱点である、闇属性魔法を。


「ダークネスッッ!!!」


 放たれた黒い弾はアラーナにぶつかると大きく爆発し、アラーナのHPを大きく削った――――――

 ようには見えなかった。


「……これもダメなのかよ!」


 アラーナは何をされたか分からないという素振りを見せた。


「フェルメノ=アラーナは無属性のモンスターだ!どの属性の魔法も弱点にはならない!」


 …………さすがダンジョン最深部のモンスターだ。


「何か…………アイツを倒す方法はないの?」


 ゼロはティリタにそう問いかけるが


「……………………」


 ティリタは静かに首を振るだけだった。


「クソッ………………!」


 俺はアイツが許せない。あの女性の腹を喰い破って出てくるなんて、あの人は本当に救われなかっただろう。


 何とかして、アイツを叩きのめしたい。

 報酬とか、街の平和とか……そんなものどうでもいい。

 俺個人の感情が、アイツを殺せと言っている。


 何かないのか……アイツを殺す方法!


 考えろ……!


 考えろ、グレン……!!


 …………………………………………。


 …………………………。


「1つだけ、アイツを倒す方法がある」


 2人はゆっくりと、驚きの表情を見せて俺を見た。


「本当かい?」


「あぁ、この方法でなら勝てる。だが…………正直、成功するかは分からない。それに、もし失敗したら…………」


 俺は脈を打つ自分の右腕を見た。

 高ぶった心は血液をドクンドクンと振動させる。


「ゼロ、お前はいっつも『無茶するな』って言ってくれるけど…………今回ばかりは無茶しないといけない」


「……そう」


 ゼロは髪をくるくると弄りながら、そっぽを向いた。

 少し嫌われてしまったかな、と不安になったその時。


「……勝てる?」


「何とも言えない」


「…………行ってきな」


 ゼロはふうっとため息をついた。


「私はグレンを信じることにする。私を裏切りたくなければ、必ず生きて帰ってきてね」


 そう言うと、ゼロは微笑んだ。


「あぁ。死なねぇよ、絶対に」


 俺の覚悟はもう一度強く固まり、目の前の恐怖に立ち向かう勇気が湧いた。

 俺はフェルメノ=アラーナを指さし、鋭い眼光と不敵につり上がった口角を見せつけ、こう言った。


「ゲームオーバーだ」


 俺は一瞬重心を低くし、勢いよく飛び出した。

 そしてちょうどアラーナの真ん前に来た時に、もう一度足に力を込めて高く飛び上がった。

 空中で右の手のひらに熱を集中させ、落ちると同時に叩きつける。


「フレイム!」


 叫んだと同時にアラーナに攻撃が当たったが、アラーナは痛くも痒くもないといった反応をした。


「やっぱり装甲が厚すぎる!僕達の攻撃は奴には通らない!」


 あぁ、知っている。

 コイツの体にはゼロの銃ですらもろともしない強靭な装甲がある。俺のフレイムなんかが通るわけがない。


 アラーナは頭上の俺を大きな腕で払い除け、そのまま鋭い腕を俺の胸に突き刺そうとしてきた。

 俺は体を回転させてそれを避け、もう1発フレイムを放った。


 アラーナに当たった炎の塊はすぐに空中に散り、そこには何も残らなかった。


「…………チッ!」


 アラーナに接近し直し、超至近距離で3度目のフレイムを放った。が、何度も言うようにアラーナには厚い装甲があるため、俺の攻撃は全く通用しない。


 それどころか――――――


「ぐあっ!!」


 俺はアラーナの巨大な両腕に掴まれた。


「クソッ!離せ!離しやがれ!」


 俺はアラーナの手を蹴りまくるが、全くもって効果がない。そのまま目の前で大きく口を開けるアラーナ。

 絶望的としか言えない光景だった。


「グレンッッ!!」


 ティリタの叫ぶ声が聞こえる。

 今にも底の見えない深淵に呑み込まれそうになっている俺の姿を見て、かなり焦りを感じているのだろう。


「ゼロ!アラーナを撃って!」


「今撃ったらグレンにも当たる。出来るわけないでしょ」


「でもこのままじゃグレンは……!」


「ティリタ…………目を閉じて。そしてここから先は、何も考えないで」


 俺はアラーナに完封されたまま、アラーナに丸呑みされた。













 グレンがアラーナに喰われた。

 ティリタにこの瞬間を見せなくて本当に良かったと思う。こんなにショッキングな映像を見せられたら、ティリタは間違いなく発狂していた。


 そうなれば、いよいよ勝ち目はなかった。


「グレン…………」


 私は無意識に呟いた。

 口では、彼を信じると言った。頭でも、あいつはそう簡単に死なないと分かっている。


 でも、心のどこかであいつを心配している。あいつを信じきれないでいる。

 私はグレンに嘘をついてしまった事になる。


 …………今はネガティブ思考に陥っている場合じゃない。


 もし本当にグレンが殺されてしまったとしたら、アイツの相手は私達がしなくてはならない。

 ティリタのSANも底をつきそうだ。下手に動く訳にはいかない。


 私は太もものホルダーから2丁の銃を取り出し、くるくると回した。


 その時だった。


「グルルル…………!」


 アラーナが突然暴れ出した。

 いや、暴れるというよりもがくという表現の方が合っている。

 私達に攻撃を仕掛けようとしているのではなく、自分を襲う何かを緩和させようと暴れているのだ。


「まさか…………!」


 私はアラーナの腹を見た。

 アラーナの黄色い腹は、一部分だけ焦げたようにうっすらと変色していた。

 焦げ跡は急速に広がっていき、灰がポロポロと落ち始める。


「…………さっすが私の相棒」


 私が髪をくるくると弄り始めたすぐ後に


「うぉらぁあああああ!!!」


 グレンはアラーナの腹を突き破って出てきた。


「クルキャアアアアア!!!!!」


 アラーナはひっくり返ってジタバタと暴れる。


「どうだ?痛いだろ?苦しいだろ?」


 グレンはアラーナの頭に顔を近づける。


「これが腹を喰い破られる感覚だ」


 この時のグレンは、冷酷で、無表情だった。でも内側に秘める怒りはメラメラと燃えたぎっていた。

 アラーナを見つめる彼は紛れもなく『紅蓮』だった。


「てめぇに慈悲は与えねぇ。俺を恨む暇もなく地獄に叩き込んでやるよ」


 グレンはアラーナの頭にそっと手を置き、右手に火幻素を集める。

 強い熱を放出する炎はアラーナの装甲を貫通し、脳を焼き焦がし、一瞬で命を消し去った。


「命の対価は命だ。たとえ相手がモンスターでも、代金は支払ってもらう」


 グレンは手を包む炎を、手を大きく振り下ろして消した。

 刹那に舞った火の粉が私達の勝利を讃えているように輝いていた。

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