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2章2話『初めてのダンジョン』

 アオイとアルマドゥラは、一層重くなった空気の中で対談を続ける。


「『這いよる混沌』の襲来予測は?」


「まだなんとも言えませんが、レムリア大陸であることは間違いありません」


「我々で何とかするしかないということか」


 レムリア大陸に本拠地を置くギルドは3つ。

 《アスタ・ラ・ビスタ》、《ブエノスディアス》、《ビエンベニードス》だ。


 その内、《ビエンベニードス》は商業系ギルドの為、戦闘に慣れていない。

 更に、他のギルドを呼ぼうにも有力者が長期間現地を離れることはモンスターや犯罪者を野放しにすることを意味する為、できるだけ避けるべきだ。


 したがって、必然的に《アスタ・ラ・ビスタ》と《ブエノスディアス》が『這いよる混沌』の対応を強いられる。


「奴の襲来の前に、戦闘者を選別しなくてはなりませんね」


「あぁ」


 アルマドゥラは腕を組み直し、眉間にシワを寄せる。


「《アスタ・ラ・ビスタ》は、選考をもう進めているのか?」


「候補者を絞るようにはしていますが、出動を決定した方は1人もいません」


「そうか……」


「《ブエノスディアス》の方はどうなっていますか?」


「私と私の秘書は確定しているのだが、他の面子が揃わない。どうにも、奴と対峙するには力不足な者が多くてな」


「やはり前回の襲来であれだけの被害が出てしまうと、慎重になってしまいますよね」


 アルマドゥラは黙り込んだ。


『這いよる混沌』の襲来は初めてではない。

 300年前、一度経験している。

 その時は名だたる冒険者が自分の命を削って、やっと追い返せた。


 しかし、あくまで追い返せただけ。それも、退けたというよりかは時間を稼いだ故に本人の気が変わって帰ったという感じのもの。

 とても勝利とは言えない。


 更に、直接二グラスの大地を踏んだ訳でもないのに、ある深刻な被害がその地を襲った。


「集団的狂気………………」


 人間は『這いよる混沌』を理解してはいけない。それを理解した瞬間、人々は正気を失ってしまうからだ。


 しかし、前回の襲来の時は当時栄えていたギルドのギルドマスターが『這いよる混沌』について一般人に説明してしまった。

 その善意ある行動が、結果的に裏目に出た。


 いざ『這いよる混沌』が襲来した時、人々は目に映るそれを理解してしまった。

 その瞬間、それを理解した全ての人々のSANが一斉に減少。0へたどり着いてしまった。


 結果、『這いよる混沌』は追い払えたものの目撃者達の発狂は収まらず、事件事故が多発。

 転生者も現地人も分け隔てなく死んでいった。


 以前ゼロが催涙スプレーを舐めて発狂から立ち直る出来事があったが、あれは本当に奇跡。

 もう一度彼女が発狂したら、同じ方法で直せるか分からない。


 発狂とは、死を超える恐怖。死を超える絶望なのだ。


「前回と同じ悲劇を繰り返してはいけません」


 だからアオイもアルマドゥラも、奴を倒す冒険者を選考しているのだ。


 アルマドゥラはゆっくり、そして深く頷いた。


「あぁ、そうだ。《ブエノスディアス》からも1つ報告がある」


 アルマドゥラはカバンから資料を取り出して机に置いた。

 アオイはそれを手に取り、じっくりと読んだ。


「なるほど…………」


「その資料にある通りだ。《アスタ・ラ・ビスタ》のクエストボードに貼っておいてくれないか」


 アオイは一瞬それを了承しようとしたが、あることを思いついた。


「その必要はありません」


 アオイは机から紙と万年筆を取り出した。












「ふぁ…………ねみぃ」


 昼下がり、昼食を食べ終えて部屋に戻っていた俺は睡魔と格闘していた。

 前日遅くまでクエストに出ていたため仕方ないといえば仕方ないが、すごく眠い。


 少し昼寝しようとベットに寝転がったその時、


「入るよ」


 ゼロが部屋に入ってきた。ノックもしないで。


「あぁ、ゼロどうした?」


「別にどうということは無いけど、暇だから来てやったのよ」


 上から目線するならせめてノックしてから入ってこい。


「金借りに来たとかじゃなくて?」


「どちらかと言えば胃薬を貰いたいわ」


 案の定、昨日の味噌バターラーメンが響いたんだな。油分に殺されそうになってやがる。


「今度からは油マシマシじゃなくて油マシくらいにするわ」


 デフォルトで我慢しろよ。


「そういえばティリタは?」


「部屋にいないのか?」


「薬持ってそうだから行ってみたけどいなかったわ」


 と、噂していると


「グレン、失礼するよ」


 ティリタが入ってきた。こいつもノックしないで。


「あ、ゼロもいたんだ」


「ティリタ。どこ行ってたの?」


「そう、それなんだけど」


 ティリタは水色の封筒を取り出した。


「僕達に、()()()()()()()()()()()()()


「ダンジョン攻略?」


「ニグラスにはモンスターの巣窟となっている建物や洞窟、廃村などがいくつか存在する。それをまとめてダンジョンと言うんだ」


「それを俺たちに攻略して欲しいと?」


「あぁ。ダンジョンはモンスターが出てきたり、人がさらわれたり、いろいろ災難がある。でもそれを攻略するとしばらくはダンジョンの動きが大人しくなる」


 上手く行けばダンジョンそのものを完全に動作停止させることも可能だとか。


「確かにダンジョン攻略は時間もかかるし、難易度も高い。でも、その分報酬も莫大だ」


「受ける価値は十分にある、と」


 ティリタは頷いた。


「それに、ダンジョンの攻略は大きな実績となる。もしかしたら、超級クエストの受注許可が下りるかも知れない」


「なるほど…………」


 どちらにせよ受けるしかない空気だったが、俺は改めて決意した。


「受けよう」


 俺はゼロとティリタを見るが、両者とも微笑んでいた。俺の意見に同意してくれたようだ。


「それで、どんなダンジョンに行くんだ?」


「今回依頼が来たのは《テララナの城》というダンジョン」


 アーカムの北にある、潰れたギルドの本拠地ビル。そこに大量のアラーナが住み着き、瞬く間にダンジョンと化した。


「あのギルドが潰れたのはつい最近だろ?そんなにすぐダンジョンになるものなのか?」


 ティリタはいつもより低い声で言った。


「なるよ…………アラーナの内1匹が『EVOカプセル』を投与されていればね」


「なっ……!」


 俺とゼロは衝撃を隠せなかった。


「ダンジョンにはその空間を司る、いわゆるボスモンスターがいる。今回のボスモンスターはそのアラーナだ」


 調査部隊の報告によると、そのアラーナは女王だとしても大きく、アラーナとは思えない攻撃を仕掛けてくるらしい。

 マスターズギルドは強化個体として扱っているが、カプセルを投与されたと見て間違いない。とのことだ。


「『EVOカプセル』は滅んでいない。まだどこかで製造されているんだ」


 一刻も早く止めなくてはならないが、今は手がかりが少なすぎる。

 まずは目の前の問題を解決しよう。ボスモンスターと対峙すれば何かヒントがあるかも知れない。


「『EVOカプセル』も気になるが、今優先すべきはダンジョンの方だ。アラーナのダンジョンなら、放っておけば街にも被害が出るだろ?」


 ティリタは頷く。


「明日、ダンジョンに乗り込もう。善は急げだからな」








 次の日の朝、俺達はアーカム行きの馬車に乗って《テララナの城》へ向かった。

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