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1章33話『最終局面』

「この扉の奥に、ベルダーがいるはずだ」


 ティリタは本棚をかき分けた先にある鉄製の扉を指差して言った。

 俺達3人はお互いに顔を見合った。

 全員、覚悟はできているようだった。


「行くぞ、2人とも」


 俺がそう言うと、2人は同時に頷いた。

 俺は冷たいドアノブを捻り、大きく引いた。


 その先にあった空間は、謁見の間のような部屋だった。

 真っ黒い天井から放たれる青白い光が灰色の床や壁を照らす。真夜中の路地に街灯がいくつか点々と存在しているような印象を受けた。


 俺の足元には赤いカーペットが敷かれている。

 まっすぐに伸びるそのカーペットの先にあったのは、壁一面の本棚をバックに輝く藍色の玉座。


 そしてそこに座る、ローブを着た白髪の青年。

 彼の右手には分厚い本があった。


「ベルダー……!」


 俺は反射的にそう言った。


「あれ、僕のことを知っているのかい?」


「……俺達にあんなに絶望を植え付けたんだ。忘れたとは言わせねぇぞ」


「すまないね、忘れてしまったよ。人に絶望を植え付けるなんて日常茶飯事だからね」


 そうか、こいつも…………

『紅蓮』にならなきゃいけない奴か。


「それにしても、君たちは本当に優秀な本だ」


 ベルダーは本をパラパラと捲る。


「地上にいる部下から、上の冒険者達は罠にかかって全滅したとの報告を受けた」


 ドクン……!

 その一言を聞いた瞬間、俺の頭に衝撃が走った。


「どうやら最上階に僕がいると勘違いしたようだね。仕掛けておいた毒ガスを吸ってそのままみーんなお陀仏だってさ、哀れだねぇ」


「…………ッ!」


 俺は奥歯を食いしばり、拳を強く握った。


「でも、君達は優秀だ。僕の策に気づき、シエルを倒し、そして僕の下までやってきた。こんなに優秀な本は君たちが初めてだ」


 ベルダーは拍手して俺達を称える。


「だが、どんなに素晴らしい本でも中身を読む人がいなくてはただの紙切れだ」


 そう、これがベルダーの理論。

 優秀な人材は活かさなくては意味がない。だからベルダーはこの世界全てを自分のものにして、自分が支配者となって世界を導こうとしている。


 その絶対的な自信は彼自身の持ち味であり、厄介な部分でもある。


「君達は自分に力があることを知りながらも、それを活かすことができない。本自身が内容を理解することは不可能だからだ。優秀な本には、それを読めるさらに優秀な人材が必要だ」


 なるほど。納得と理解不能が2:8くらいで俺の中に存在している。


「僕は君達より遥かに優秀だ。君達を読むことも、君達を理解することも可能だ。僕は君達を無駄なく効率的に使える唯一の存在だ」


 だから…………と続ける。


「《エンセスター》に入らないかい?」


 なるほど。こうやってメンバーを増やしていったというわけか。


 まず相手を褒める。その後、自分が直接もしくはメンバーを介して『ベルダー』と言う存在がいかに優秀かを練り込む。

 そして勧誘する。


 確かに、理にかなっている。


 だが…………


「フレイム!」


 ベルダーは俺のフレイムをガードして言った。


「この攻撃は、拒否と取っていいのかい?」


「俺達は、優秀な本なんかじゃねぇよ」


 突き出していた右手を軽く振って、口を拭った。


「中途半端な、書きかけの本だ」


 ベルダーは短いため息をつく。


「そうか、残念だ」


 ベルダーの魔導書が、勝手にパラパラと捲れる。

 その中心部から紅い光が漏れ出し、1箇所に集中した。


「なら、ここで散れ」


 光を纏ったベルダーの右手が俺達に突き出されるその瞬間は、スローモーションに見えた。


「ヘルファイア」


 ベルダーの手から放たれた手のひら大の炎は俺達に近づくに連れて大きく広がっていく。

 段々と威力が下がっていく俺のフレイムとは大違いだった。


 俺達はアイコンタクトを取り、横にずれてヘルファイアを回避した。

 壁に激突したヘルファイアは一瞬白い光を放って消え失せた。


「僕に読まれることを拒む本なんて、僕の本棚に入るべきではない。君のページに絶望を書き込んで、終幕とさせてあげよう」


 今度は闇幻素を溜め始めた。

 ベルダーの狙いはどうやら俺のようだ。


「ディスペアー」


 ベルダーの手の中心から細く黒い線が伸びる。

 その線は俺の目の前で途切れ、空間を割っているかのように歪な線を放射状に乱射し、その中心の黒い珠が一瞬で大きく広がっていく。


「フレイム!」


 俺はフレイムでディスペアーを少しだけでも相殺し、残りはそのまま受けた。

 体内に禍々しい何かが侵入してくる感覚が俺を襲った。


「グレン!」


 ゼロが銃を抜いて駆け寄る。

 ゼロはベルダーの目の前で停止し、銃を人差し指にかける。

 トリガーを起点にぐるぐると回り出す2丁の拳銃から、的確に、且つ高速の、鉛の塊が放たれる。

『アクセル』だ。


 ゼロは辛い表情をしながら『アクセル』を行う。

 彼女の銃の固定ダメージは、ベルダーのローブに全て防がれてしまうからだ。


「無意味だ。支配者への抵抗は許されないのだから」


 ローブで身を守るベルダー。


「…………!ダメだった!」


 ゼロは弾丸が尽きたのを確認し、銃をレッグホルダーに仕舞った。

 拳を強く握って悔しがるゼロを仕留めようとベルダーが魔法を貯め始める。


「いいや、完璧だ!」


 俺はベルダーの背後から渾身のフレイムをぶっ放そうと接近していた。


「ティリタ!マジックアップだ!」


「もう完了している!そのまま叩き込もう!」


 俺は腕を大きく後ろに引き、それを一気に振り下ろした。熱を纏った右手は燃え盛っているかのように紅く輝く。


「死ねッ!!」


 ドドォォォォオオオオン!!!

 大きな爆発音が部屋に響き渡った。


「馬鹿だねぇ。僕に勝てるわけがないのに」


 ベルダーは人差し指を突き出していた。

 その人差し指の先からは俺の全力のフレイムと同等、もしくはそれ以上の火属性魔法が放たれていた。


「ぐぁぁあああっ!!!」


 俺はそのまま押し負け、背後の壁に叩きつけられた。


「ハハハハハッ!どうだい?指1本で自分の全てを押し切られる気分は!」


「くっそぉ…………!」


 俺は壁を叩いた。


「まだだ!俺はまだいける!」


 俺は無我夢中にベルダーに向かって走り出した。


「ダメだグレン!」


「Lv999とはいえ相手は魔法使い、結局はパワーとパワーのぶつかり合いだ!」


 それに競り勝つことさえ出来れば俺の勝ちだ。


「その前提が間違っているんだ!」


 俺はフッと我に帰った。

 冷静になり、ティリタの話を聞くことにした。


「なんだと……?」


 こうしている間にも、ベルダーは幻素を本から抽出している。


「グレン…………君はかつて何と呼ばれていたんだ?」


「……『紅蓮』。連続殺人鬼『紅蓮』だ」


「だったら、一度クールダウンしようよ。殺しは常に冷静に行うんだろ?」


「…………そう、だな」


 殺しは常に冷静でなくてはならない。

 一瞬の隙が命取りになるからだ。


「でも、今の俺にベルダーを倒す策はない。……どうすれば」


 ティリタは一瞬ためらったが、口を開いた。


「1つだけ、策がある。…………でも、成功するとは思えない。それに、失敗したら君は死ぬ」


 ティリタは不安そうにうつむいている。

 だが、結論は一瞬で出ていた。


「上等だ。どっちみちここでビビっても死ぬんだ。タダでは死んでやらねぇよ」


 俺は、拳を胸に当てた。

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