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1章29話『ファイナルウェーブ』

「グレン、いるかい?」


 俺の部屋のドアをノックしたティリタは、小さい段ボールを持って中に入ってきた。


「おぉティリタ、どうした?」


「グレンにお届け物だよ」


 なんとなく、その中身の察しがつく。

 俺は高ぶる感情を抑えて段ボールを開けた。


 中にあったのは紅い手袋。

 中心には以前採取したレインボージュエルが埋め込まれていた。


「これは…………」


 間違いない、『彗星』だ。


「昨日帰ってからすぐ技術班に依頼したんだ。まさかこんなに早く出来上がるとは思ってもなかったけどね」


 これが……俺の新しい武器か。


「あ、代金渡さないとか」


「あぁ、それなら気にしなくて大丈夫だよ」


 あれ?さすがに少しはかかるよな。


「ゼロが出してくれたよ」


「あいつが?」


「あぁ。先の戦闘で何かと迷惑かけちゃったからって」


 ……迷惑をかけてたのはこっちだって言うのに。


 俺は弱い。

 能力の振り間違いのせいでPOWがほとんどない。物理攻撃も実質不可能だから手詰まりだ。


 それをいつも、ゼロとティリタに助けて貰っていた。それが情けなくて、申し訳なくて、自分を憎く思った。


 でも、それも今日で終わりだ。


この手袋(彗星)さえあれば……」


 俺は、自分の力で道を切り拓くことができる。

 ゼロやティリタの背中を追うだけだった俺が、2人と肩を並べられる。


 俺には『プリズム』という、全ての属性を適正属性とする能力が備わっている。

 そしてこの武器はレインボージュエルの効果で全ての属性の魔法を放つことができる。


 幻素は魔法を放つ際に体に吸収されてしまう。体に幻素が蓄積すると何かと不具合が生じる。

 何かしら、過剰な幻素を蓄積して幻素と使用者の間を仲介するものが必要なのだ。


 普通の武器はそれができないもの、もしくは仲介するものの内容量が少ないものが多い。


 しかし、『彗星』は違う。

 レインボージュエルを仲介とするんだ。

 レインボージュエルには幻素を吸収する力がある。それを利用して仲介とする。


 普通の武器は溜めきれない幻素は空気中に排出してしまう。

 幻素は自然と虚数空間に戻っていくため空気汚染等の心配はないが、もったいない。


 レインボージュエルの内容量は桁違いだ。

 それに、複数の幻素を同時に蓄えることができる。


 俺はこの手袋で大幅に強化されたと言えるだろう。


「ありがとな、ティリタ」


 俺はティリタにそう言うと、彼は笑った。


 と、同時に彼はこう言った。


「それにしても、寮が騒がしいな」


 そう言われて耳を澄ませてみると、確かにドタドタと乱暴に階段を登る音が聞こえてきた。

 その音はだんだんと俺の部屋に近づいてくる。


 バタンッ!


 息を切らせながら、大慌てで扉を開けたのは、ゼロだった。


「ゼロ……!何があったんだ?」


「ハァ……ハァ……」


 ゼロは何も言わず、手紙を渡してきた。

 俺は特に警戒することもなく手紙を開いたが、その内容は衝撃的なものだった。


「おい……ティリタも見てみろよ!」


 ティリタを手招きして手紙を見せる。

 そこに書かれていた文章はこうだ。



『緊急クエスト

 本日未明、《ブエノスディアス》の調査により、《エンセスター》の本拠地の座標が判明しました。キングスポート港から東に180km進んだ孤島にある廃墟と化した巨大図書館です。


 グレン。ゼロ。ティリタ。

 上記の者を巨大図書館の奪還及び《エンセスター》壊滅作戦の重要冒険者に任命します。


 明後日の午前10時30分、キングスポート港に集合。そこから船で巨大図書館に乗り込みます。

 具体的な作戦の概要は別紙にてお伝えします。


 このクエストは、ニグラスの未来を動かす大きな依頼です。

 ですが、きっとあなた達ならニグラスの明日を連れてきてくれると信じています。


 《アスタ・ラ・ビスタ》ギルドマスター・アオイ』



 …………案外、早かったな。


「《エンセスター》の本拠地が……」


 ティリタは刮目しながら生唾を飲み込む。


「本拠地ってことはさ、()()()もいるってことよね………………」


「あぁ。間違いない……」


 Lv999。最上級魔法の連射。そして『プリズム』持ち。

 圧倒的な強さを俺達に見せつけた、《エンセスター》のギルドマスター。


 ベルダー。

 俺達の頭に真っ先に浮かんできた名前だ。


「《ブエノスディアス》からも数多くの人材が派遣されるらしいけど、果たしてそれで足りるかどうか……」


「そう、だよね……」


 ゼロとティリタは浮かない表情をしていた。

 しかし、


「ついに…………この日が来たのか……!」


 俺だけは違った。


「グレン……怖くないの?」


「怖いわけねぇだろ……俺はこの日を待ち望んでいたんだ!」


 俺は両手を震わせ、引きつったようにも見える笑顔を見せた。


「あの時、本当に悔しかった。俺達をバカにして、ゼロをボロボロにして、それでもアイツは笑ってやがった!」


 単純な感情をぶつけているだけかも知れない。

 だが、俺にはそれが許せなかった。

 たとえ単純な感情だとしても、無視する理由にはならない。


「それに…………アイツらは転生者を殺しまくってた。自分の支配下に置くために!」


 罪のない人を殺すのは俺の流儀に反する。

 ましてや自分の私利私欲の為に、だなんて許せるわけがない。


「俺が弱いことなんて俺が一番知ってる。だが、自分の実力が足りないからって、それは目の前の壁に背を向ける理由にはならない!」


 今を変えたいなら、壁を壊すしかない。

 だから俺は、殺人鬼になったんだ。


「俺は『紅蓮』だ!たとえどんなに強い奴でも、俺達の未来を邪魔するならぶっ殺してやる!」


 俺はそう心に決めている。

 これまでも、これからも。


「…………そう言うと思った」


 ゼロは髪をファサッと揺らした。


「ゼロ、お前は怖くないのか」


「当たり前でしょ。やられっぱなしは気に食わないわ」


 今なら分かる。

 ゼロは、きっと本当はすごく怖いと思う。

 でも、それを俺達に見せようとしない。俺達を心配させまいと。


 今回ばかりはゼロに頼ってられない。

 こいつを守れる俺になる。こいつに頼られる俺になる。


「ティリタはどうなの?」


 ゼロが少しからかうように言った。


「……僕だって、みんなが傷ついてるのは見たくない!みんなのためなら……僕も覚悟を決める」


 ティリタは気弱だけど、胸の奥には熱いものを持っている男だ。

 彼の覚悟は、絶対に無駄にはならない。


 俺は2人の顔を改めて見直した。

 2人とも、笑顔だった。

 決意と希望に満ちた、美しい笑顔だった。


 そしてそれは、きっと俺もそうだろう。


「このクエスト、絶対成功させよう」


 ティリタは俺に頷いてくれた。

 が、ゼロは少し違った。


「バカだね、グレン」


「あ?何がだよ」


「成功させるんじゃない、『成功する』んだよ。私達が、あんな奴(ベルダー)に負けるわけがない」


 ゼロはそう言って目をジトーッと細める。


「…………はは、ゼロの言う通りだ。俺達は勝つ。絶対にな」


 ただのハッタリ、ただ大口を叩いているだけ。

 でも、本当にそんな気がしてきた。

 俺達は勝てる。きっと運命が味方してくれる。











 午前10時30分。

 俺達は決戦の第一歩であるキングスポート港に来た。

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