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1章15話『ステルス』

 飛んできた1本の矢を踏み折り、俺達は前方へ進んだ。


「いつどこから来るかわからない、慎重に進め」


 ゼロとティリタは頷き、周囲を見回しながら歩いた。

 辺りは深い森。高い広葉樹の数々と1つの大きな岩。

 その中から正確に矢が飛んでくるなんてよっぽどの腕前を持っていないとできない。

 おそらく、射ってすぐにどこかへ隠れたのだろう。連続で攻撃を仕掛けてこないのもそういう理由。


「それに、敵は1人とは思えない。罠を仕掛けてきている以上、確実に仕留めるために増員するはずだ」


 そう言ってすぐ、俺の予想は当たった。

 背後から草木をかき分けて向かってくる音が聞こえた。

 ガサガサガサガサッ。

 どうやら隠れるつもりはないようだ。


 音がある程度近づいた時、それは大きく飛び上がった。口元までマフラーを上げて素顔を隠したその女はゼロに向かって短剣を突きつけた。


 あれは……職業・盗賊の《エンセスター》か。

 盗賊はSTRとDEXがバランスよく上がる攻撃特化の職業だ。

 短剣特有の動きやすさも合わさり、その機動力はピカイチだ。


 しかし、それはゼロも同じこと。

 むしろゼロは武闘家に就いているため、DEXの上昇率はゼロの方が上回っている。


 結果、超高速の格闘戦が始まったわけだ。


 盗賊が飛び上がって短剣を叩きつけようとするのをゼロはヒラリと回避し、背後に回って銃を撃つ。


 盗賊は空中で体をひねり、攻撃を回避しつつゼロの照準をずらす。そのまま隙無しで着地した盗賊は地面を強く蹴り、最少の歩数でゼロに接近した。


 盗賊は短剣を横に振るが、ゼロはさながらボクサーがフックを避けるように頭を下げる。

 そのまま脇から背後に回り、発砲した。


 盗賊は頭から血を流してその場に倒れた。


「すごい!なんてスピードだ!」


 ティリタが目を輝かせるが、


「いや…………」


 俺は既にそれを見抜いていた。


「ゼロ!盗賊はまだいる!気をつけろ!」


 ゼロはハッと後ろを振り向き、両手に銃を構える。ゼロの視界には3人の盗賊の姿があった。


「ティリタ!DEX上昇魔法を!」


「わかった!」


 ティリタは「スピードアップ!」と叫び、杖から出る光をゼロに当てる。


「これでDEXは上がったけど…………ゼロ本人が自分の速さについていけるかは別問題だ」


「いいや、大丈夫だ」


 あいつは俺の相棒だ。

 そう簡単に制御不能に陥るわけないだろ。


 ゼロに向かってくる3人の盗賊。

 全員が迷うことなくゼロを狙っていた。

 いや、本当は背後の俺達の事も狙っていたのかも知れない。だが、ゼロが盗賊達の注意を引いてくれているんだ。


 超攻撃的な囮。

 今のゼロを表現するのにピッタリの言葉だと思った。


 盗賊達は洗練された動きでゼロに短剣を振るう。

 ゼロはある程度距離を取りながら、盗賊達の頭を目掛けて銃を撃つ。

 しかし、盗賊達の動きは本当に完璧で、弾丸はカスリもしなかった。


 ゼロは一方的に追い詰められている。

 3vs1なら不思議な話でもないが。


 3方向から飛んでくるあらゆる攻撃をゼロは俊敏な動きで回避する。

 時折蹴りを入れて距離を取るが、すぐに次の盗賊が襲ってくる。


「…………アレ、使ってみよっかな」


 ゼロは上着の内ポケットから銀色の缶を取り出した。


「アレ……昨日の!」


 俺は昨晩ゼロの部屋で見た缶をもう一度目撃した。


「そういえば結局アレの中身って…………」


 ゼロは盗賊達に缶を向ける。

 一瞬怯んだ隙を見て、ゼロは缶の頭を押した。


 プシューーーッ。


 缶の上部から噴出した霧は盗賊達の目を直撃する。


「アァァアアアッ!!!」


 同時に、盗賊達はゼロそっちのけで必死に目を抑え始めた。

 持っていた短剣もポトリと落とし、ここぞとばかりに絶叫しながら、手が動かせない分足を動かして苦痛を表現していた。


「あんま量ないから使いたくなかったんだけどなー」


 ゼロが吹きかけたのは催涙スプレーだった。

 アラーナの毒まで入っているそれの効果は絶大なものだった。


 ゼロはその隙に弾丸を装填し、盗賊達の頭を貫いた。


「やるじゃねぇか、相棒」


 俺がそう言うと、ゼロはフフッと笑った。


「とりあえずこれで一段落ついただろ。ギルドに戻ってこのことを報告しよう」


 俺がそう提案し、帰ろうとした時。


「いや……まだ残ってる」


 ティリタは目を凝らしていった。


「最初、僕達に矢が飛んできた。それなのに今倒した《エンセスター》は全員盗賊。弓を使うような職業じゃないんだ」


「つまり……まだどこかに弓使いが隠れていると?」


 ティリタは静かに頷く。


「そして僕の予想なら…………」


 ティリタは小さな石を手に取り、前方へ投げた。

 石は大きな岩に当たり、地面へ跳ね返った。


「痛っ……!」


 という間抜けな声と共に、岩はゆっくり立ち上がった。


「やっぱり……この森の中に1つだけポツンと岩があるのは不自然だと思ったんだ」


 弓使いは岩に擬態して俺達を射殺すタイミングを見計らっていたというわけか。


「弓は装填までに時間がかかる!一気に攻めるぞ!」


 俺とゼロは武器を構えて弓使いに突っ込んでいく。

 弓使いはまだ矢を装填している段階だ。

 撃たせる前に殺せる。


 そう思っていた。


「なっ…………!」


 弓使いは急に動きが速くなった。弦を引いて弓を射るまで1秒なかった。

 今まであえて動きを遅くして、俺達を油断させていたのか!


 矢はまっすぐに俺の方へ向かっていた。

 そして俺にはそれがはっきりとわかった。


 死の直前は周りがスローに見えるとよく効くが、今まさにその状況なのだろう。


 だからこそ……俺は彼女の攻撃もしっかりと目撃してしまった。


「ぐあっ!」


 ゼロは俺を横に突き飛ばした。

 バランスを崩して転んだ俺に、ゼロは言った。


「気をつけなさいよ、バカ…………」


 ゼロの腹には深々と矢が刺さっていた。


「ゼロ!!!」


 ゼロは腹の矢を勢い良く抜き、投げ捨てた。


「私をこの程度で止められるとでも思ってんの?」


 ゼロは目を細めて、髪をファサッと揺らした。


「グレン……これで借りは返したよ」


 借り…………?


「あの時……グレンは私を守って死んだ。その借りはしっかりと返させてもらったからね」


 ゼロは腹部の穴からダラダラと血を流している。HPも体も、ギリギリだ。


「あぁ…………確かに受け取ったぜ」


 俺は改めて手袋をはめ直す。


「お前の仇は…………俺が取る」


 俺は弓使いに向かって歩いていく。


「待って」


 それを、ゼロが止めた。


「1人で行こうとしないでよ……まだ完全に返しきったわけじゃないんだから」


 ゼロは銃を構えた。


「…………ゼロ、力を貸してくれ」


 ゼロは俺の方を見て、笑った。

 ゼロは恐れることなく弓使いへ向かっていく。


「ゲームオーバーだ!」


 俺も彼女の後を追った。


 そこからは早かった。

 ゼロと俺の攻撃は弓使いに一瞬の隙も与えず、骸へと変えた。


 ゼロは返り血を拭い、俺に言った。


「今度また無茶したら許さないから」


 ゼロはそう言って立ち去った。


 やっぱり……ゼロに負担かけちゃってるのかな。

 なんやかんや、敵を殺してるのは俺じゃなくてゼロだ。

 ゼロだけじゃない。

 ティリタやエスクードさん、ラピセロさんや他のギルドメンバーにも…………。


 前世で『紅蓮』だった頃の感覚が抜けていないのだろう。今の自分に力がないことをまだ認められていないんだろう。


 力が欲しい。

 今の自分を変える力が。

 ゼロに守られる俺から、ゼロを守る俺になる力が。

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