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4章27話『ちょっとした用事』

 俺とゼロはお互いに顔を見合い、口角を上げた。ゼロがドアノブを捻り、扉を少し開けた時、


「ちょっと待って」


 ティリタが挙手した。


「ヴィクティマを殺すって言ったって、彼女は転生者なんだろ?一体どうやって彼女を殺すつもりだい?」


 そう言えば。

 確かにティリタの言う通り、転生者であるヴィクティマを殺すことは不可能だ。だが、あのゼロの自信満々な表情、何か策があるに違いない。


「どうなんだ?ゼロ」


 ゼロはピタッと動きを止めて、それ以降喋らなかった。


「…………………………」


 部屋に奇妙で不自然な沈黙が流れた。こめかみから冷や汗が1滴流れる。

 ゼロは一体何を考えて…………。

 そう思った時、やっと彼女は口を開いた。


「1つも考えてなかったわ」


「おい」


 こいつマジで。

 一瞬でも玉砕覚悟でヴィクティマを殺すつもりなんじゃ……とか思った自分が恥ずかしい。


「ま、まぁ仕方ないといえば仕方ないけどね。ベルダーの時みたいに転生者の権限を外す訳にもいかないし」


 あの時はマスターズギルドがベルダーと教会との紐付けを強引に切り離して、かつベルダーをモンスターとして登録する事で奴を殺せる状況を作り出した。


 だが、それはベルダー及びその配下の《エンセスター》による被害が多数報告されていたから出来たことだ。

 今回はややこしい事に、リメイクによる被害も、そのリメイクとヴィクティマの繋がりも報告されているが、ヴィクティマと名乗る者が複数人いる。

 マスターズギルドも不用意に紐付けを切る訳にはいかない。転生を封じることは出来ないだろう。


「そうだ、『ナコト写本』をどうにかして奪ってヴィクティマをリメイクにすればいいんじゃないかしら?

 転生者がリメイクになっても、頭だけ消し飛ばせば生きたまま動かなくなる…………つまり実質的に死ぬの」


 なるほど、確かにヴィクティマ本人はリメイクではなかった。なら彼女をリメイクにして頭を消し飛ばせば彼女を殺せるのか。


 ………………頭を消し飛ばす?


「なんでそんなこと知ってんだ?頭だけ消し飛ばしたことあるのか?」


 ゼロはきょとんと目を見開き、「え?」と困惑したように呟く。


「あるに決まってるでしょ」


 普通はねぇよ。


「だがどっちにしろあの本はヴィクティマが肌身離さず持ってる訳だし、奪うっつってもそれなりの苦労があるだろうな」


「一応複製も可能らしいけど、その手順が分からないわ」


「そうか…………。参ったな」


 どうにかして確実にアイツの『ナコト写本』を奪えないものか…………。

 リメイクになったフリをして隙をついて奪うとか…………いや、そんなのすぐバレるに決まってる。

 俺がヴィクティマへの好意を思い出したと見せかけてこれまた隙をついて…………そんなことして近付こうものなら隙をつく前に俺はリメイクにされるだろうな。


 他になにかいい案は…………………………。

 と、俺達が唸っていた時、またティリタが挙手した。


「発想を転換させてみよう。今僕達は『ナコト写本』を手に入れる方法を探っている…………。じゃあ逆に、容易に手に入る魔導書って何だろう?」


「容易に手に入る魔導書…………か」


 アオイさんの『イステの歌』やディエスミルさんの『ネクロノミコン』は頼めば貸してくれるかもしれないが…………まぁ希望は薄いだろうな。

 仮に俺が『セラエノ断章』を貸してくれ、と言われたら誰であろうと疑いの目を向けてしまうだろうし。


 まだ発見されていない魔導書を回収しに行こうにも、手がかりがない。今から調査して見つけるとなれば、何日かかることやら。


 思考と自己否定を繰り返していると、またティリタが言った。


「以前戦った災厄の龍…………あの時は知らなかったけど今ならわかる。

 あれは《最終項》だったんだ」


 …………!

 確かにあの姿、並大抵の魔法じゃあんな巨大な体を形成できない。確かあの粘液は土属性、そしてその土属性の魔導書はまだ発見されていない。


「つまり……あの砦跡に土の魔導書があると?」


「可能性は高いと睨んでいる」


『血塗られた舌』殲滅作戦や『アティエンタス』…………『信仰組』と『救済組』との全面戦争によって、あそこにはかなりの数の死体が転がっている。

 その莫大な量はマスターズギルドでさえも処理しきれず、今では立入禁止区域に設定されている。つまりマスターズギルドですらあそこの調査はまともに出来ていないのだ。

 そこに土魔導書がまだ隠されているとしても不思議ではない。


 その可能性に賭けてみる価値は十二分にある。


「でもあれでどうやってヴィクティマを殺すんだ?」


「土魔導書の能力は恐らく粘液の操作。

 なら、ヴィクティマの体に粘液を入れてそれを硬質化させればヴィクティマは身動きが取れなくなる。

 あとはそれを埋めるなり海に捨てるなりすれば、実質的にヴィクティマは死んだと言えるんじゃないかな?」


 確かに以前戦った『血塗られた舌』のメンバーは全身を硬質化させて防御を図っていたが、それにより全く動けなくなっていた。

 あの男は自分の意思でそれを解除できるからまだしも、粘液のコントロールのできないヴィクティマがその状態に陥ったらどうしようもないのではないか?

 戦略としては悪くない。

 粘液も、ゼロの弾丸に付着させておけば容易に体内に注入できる。


「よし、じゃあ砦跡に行って魔導書を回収したらその足でヴィクティマを殺しに行く。それでいいな?」


 俺が手をパチンと叩いてそう言うと、2人は頷いた。




 ――――――――――――――――――――――――――




「という訳で、俺達しばらく寮を空けます」


 この一連の流れをアオイさんに報告しに来た。さすがにこんな重大な行動を無断で行うのはダメだろうし。


「リメイク達の発生源を断ちに行く…………それがどれだけ危険なことか承知の上ですね?」


 俺は頷く。覚悟なんてとっくの昔に決めている。両親の仇であり、街を脅かす悪党であり、ゼロに手を出した張本人。

 どれだけ危ない橋を渡ることになろうとも、アイツを殺さない理由はどこにもなかった。


 アオイさんは俺達の気持ちもちゃんと理解してくれているはずだ。現に彼女はこんなにも自分勝手で無謀な申し出を承認してくれた。


「ですが、私としてもあなた達3人だけに責任を押し付けたくありません。《アスタ・ラ・ビスタ》の精鋭メンバーを同行させてください――――」


「いえ、お気持ちは嬉しいですがそれは出来ません」


 アオイさんは驚いたように俺を見た。


「何故ですか?」


「これは……俺とヴィクティマの問題です。アオイさんやギルドメンバー達を巻き込む訳にはいきません」


 わがままだと言うことは分かっている。

 だが、アイツとの決着は俺が付けなければならない。これは俺が現世からニグラスに持ち込んだ因縁だ、俺が責任を持って解決する。

 だがそれをアオイさんが了承してくれるかどうか、分からない。


「…………………………」


 アオイさんは黙り込んでしまった。

 そうだよな、アオイさんがギルドメンバーをどれだけ大切にしているかは俺達もよく知っている。

 彼女からしても、難しい決断なのだろう。


 が、


「分かりました、あなた達を信じます。必ず帰ってきてくださいね」


 アオイさんはそう言ってくれた。

 俺達を信じて、背中を押してくれた。


 改めて心に決めた。

 この過去を断ち切って、必ずここに帰ってくると。




 ――――――――――――――――――――――――――




 馬車は森の中を駆け抜けた後、広い草原に出た。その中心にそびえ立つ砦跡はどこか寂しそうにも、どこか恐ろしくも見えた。


 馬車から降りた俺は砦跡を見上げて、深呼吸する。ほんの少しの安らぎを得た俺は、よしと頷き、言った。


「行くぞ……2人とも」


 草むらを踏みしめる音が3つ、砦跡へ近づいた。

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